5分以内で読める青空文庫の短編作品
青空文庫で公開されているすべての著者の作品の中で、おおよその読了目安時間が「5分以内」の短編作品を、おすすめ人気順で表示しています。
作品名 | 著者 | 読了時間 | 人気 |
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青空文庫で公開されているすべての著者の作品の中で、おおよその読了目安時間が「5分以内」の短編作品を、おすすめ人気順で表示しています。
作品名 | 著者 | 読了時間 | 人気 |
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作品名 | 著者 | 読了時間 | 人気 |
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みみず先生の歌 | 村山籌子 | 5分以内 | |
僕の名前はみみず、決してメメズなんて名前じゃない。 | |||
おふくろへ | 槙本楠郎 | 5分以内 | |
おふくろよおれはおまえまでそうかわっていようとはおもわなかったまえばが一ぽんしかのこっていなかったというのではないあたまがまっしろになっていたからというのでもないまたこしがひんまがっていたからというのでもむろんないおふくろよおれはあのばんおまえがもりあげてだしてくれるむぎめしのしみてざくろのみのようにポツポツするやつをやぶれしょうじのなかにはったねまきのまえでかきこ... | |||
さらわれた兄よ | 槙本楠郎 | 5分以内 | |
まるで野中の鶏小舎を襲う野犬のように奴等は一言も吠えず踏込んで来た寝ていた兄はガバとはね起き突嗟に雨戸を押倒して奴等を踏みつけたけれど奴等は一人ではなかったすぐ躍りかかる奴があった兄は組み敷かれた兄は引っ立てられた奴等は遂に兄をかっぱらって行ってしまったのだそれは今朝の五時頃だったうす明りの今藁屋根に下る牙のような氷柱はしずかにとけて唇を指ではじくようなしめっぽいやわらかい音を立てて... | |||
ある日 | 陀田勘助 | 5分以内 | |
砂糖のような安逸がおれの感覚をにぶらしている鍋底で倦怠だ!憂鬱だ!と小声でつぶやいている若い熱情が下駄の歯のようにすりへりそうだ残火が火消壺で喘いでいる短気な意志が放心した心臓をつかんでいるそいつは滓(かす)だおれの食慾がめしを喰ってるおれの性慾が女を恋しようとしているオブロモフ!オブロモフ!オブロモフ!倦怠をつぶやきながらも安逸は砂糖のように甘い憂鬱の霧を逃れようともしないでおれはうずくまって... | |||
おれの飛行船 | 陀田勘助 | 5分以内 | |
おれは白蟻のように噛み切ることはできないおれは飛行機のように軽快に空を飛ぶことはできないだが脳髄の中の空間に飛行船を遊歩させることはできる現在の頁を空白に削りとられた者の前には明日の希望が堂々と逍遥し始めるのぞき窓からのぞき込む鋭い二つの目も希望の青空を漂泊するおれの飛行船をのぞき得ないし、捕らえ得ないし、投獄し得ない。 | |||
全体の一人 | 陀田勘助 | 5分以内 | |
独房の中にたった独りでいるおれは決して孤立したものでない全体の中の部分だ!おれはどこから生れてき、また何を背負っているか!両親のまた両親とおれの系統をたどってゆくとき、おれの前には数万人の祖先が立っている独房の中にいるたった独りのおれの身体は数万人の祖先の血と肉で組織されているのだそして、物質の組織――神経系統に花咲いた精神も、それゆえに数万人の――いやもっともっと多数の知識の集積と結論できよう!たったひとりのおれでさえ永いながいそし... | |||
たんぽぽとおれの感傷 | 陀田勘助 | 5分以内 | |
春の訪れをまっ先に知らせてくれた黄色に輝くたんぽぽの花よ、いま恍惚と夢見るようにまっしろな球形の頭を微風になびかして音もなくふっわりと羽蟻のごとく飛びゆく数々の種子は青空の彼方へ飛び行く種子よ!周囲に呻吟するおれの希望を、思想を雁のごとく伝波せよそして来たるべき春に雨・風・嵐に打ち勝って工場の屋根に、野原に、ビルディングの窓に鮮やかな黄色な花を開け!(獄中から鶴巻盛一宛書簡一九三〇年五月... | |||
断片 | 陀田勘助 | 5分以内 | |
ノスケ万歳!プロレタリアは武装を解かれた――ゲオルグ・グロッス――むくれあがった傷口から白い蛆虫は這い出した蠅は飛び出した小腸を喰べている風が吹く転がっている銃殺死体!ほんとうに射撃された心臓は歪んでいた兵隊の靴の音は飢えた群衆の中からピストル!奴らの銃剣は!切断された太陽の注ぐ光の下にひかりおれらの脳髄を心臓を指さしている掘立小屋から瘠せ細った手... | |||
手をさし延べよう! | 陀田勘助 | 5分以内 | |
食慾が針のように空らっぽの胃を刺激するかつての日の満腹は夢のようだ生きるために食うのか?食うために生きるのか?どちらでもいいここで議論は胃を満たさないおれたちは飢え渇えている凧!糸の切れた凧だ!生存が切断される同志よおれたちは要求する一握のめしを!麺麭を!おれたちは食物を乞うのでない生きてるゆえに飢え渇えている者の要求だおれたちは団結しよう!生存を脅かされている同志よ力... | |||
春がふたたび牢獄にやってきた! | 陀田勘助 | 5分以内 | |
牢獄の春はふたたびおれの上にやってきた!一年以前、この赤煉瓦の建物の中に投げ込まれたときにはあのトルコの王様の退屈を慰めたというアラビアンナイトの人喰鬼の宮殿のようにおれにはこの巨大な赤煉瓦の沈黙した建物は摩訶不思議なものであった。 | |||
二人の子持ちになった労働者のおっ母あに送る | 陀田勘助 | 5分以内 | |
子持ちとなった労働者のおッ母あよ!数万の大軍を率いてアルプスの険を突破した若いナポレオンには不可能がなかった。 | |||
一疋の昆虫 | 今野大力 | 5分以内 | |
一疋の足の細長い昆虫が明るい南の窓から入ってきた昆虫の目指すは北薄暗い北病室のよごれひびわれたコンクリートの部厚い壁、この病室には北側にドアーがありいつも南よりはずっと暗い昆虫は北方へ出口を見出そうとする天井と北側の壁の白堊を叩いてああ幾度往復しても見出されぬ出口もう三尺下ってドアーの開いている時だけが昆虫が北へぬける唯一の機会だが、昆虫には機会がわからず三尺下ればということもわからぬ一日、二日、... | |||
奪われてなるものか | 今野大力 | 5分以内 | |
君はおれの肩を叩いてきいてくれる君は親しげなまざしでおれを見るおお君はいつもおれの同志おれたちの力強い同志しかしおれには今君の呼びかけたらしい言葉がきこえない君はどんなにかあの懐かしい声で留置場からここへ帰って来たおれに久方ぶりで語ってくれたであろうにおれには君の唇の動くのが見えるだけだパクパクとただパクパクと忙しげな静けさ、全く静けさイライラする静けさ扉の外に佇(た)っていたパイの跫音も聞... | |||
金属女工の彼女 | 今野大力 | 5分以内 | |
小がらで元気がみちみち眼と口と顔の据えられた位置がやや水平の彼方の空に向い希望の、言葉ではなし、文章ではなし、絵でもなしただ五尺たらずのからだにみちみてる熱意ある要求の表情。 | |||
屈辱 | 今野大力 | 5分以内 | |
この一本のレールこの一本のリベットこの一本の枕木この掘割、この盛り土このコンクリートその上を平穏に走って行く機関車機関車は一つの鋲から一つのネジ一つの管から、一つの安全弁その機関車に焚く一塊の石炭までも何から何まで、ピンからキリまでおおこれが誰の仕事の成果であるかすべてはタコだらけの手のひらでなで俺たちの仲間の労働がつくった機関車はレールを辷る機関車は今運転されてい... | |||
凍土を噛む | 今野大力 | 5分以内 | |
土に噛りついても故国は遠い負いつ負われつおれもおまえも負傷した兵士おまえが先かおれが先かおれもおまえも知らないおれたちは故国へ帰ろうおれたちは同じ仲間のものだお前を助けるのは俺俺を助けるのはお前だおれたちは故国へ帰ろうこの北満の凍土の上におれとお前の血は流れて凍るおお赤い血真紅のおれたちの血の氷柱おれたちは千里のこなたに凍土を噛む故国はおれたちをバンザイと見... | |||
ねむの花咲く家 | 今野大力 | 5分以内 | |
俺は病室にいる暗室のような部屋だ。 | |||
花に送られる | 今野大力 | 5分以内 | |
小金井の桜の堤はどこまでもどこまでもつづくもうあと三四日という蕾の巨きな桜のまわりはきれいに掃除され、葭簀張りののれんにぎやかな臨時の店店は花見客を待ちこがれているよう私の寝台自動車はその堤に添うて走る春めく四月、花の四月私は生死をかけて、むしろ死を覚悟して療養所へゆくすでに重症の患者となった私はこれから先の判断を持たない恐らく絶望であろうとは医師数人の言ったところ農民の家がつづく古い建物が多く... | |||
百姓仁平 | 今野大力 | 5分以内 | |
何つう病気だか知らねいが、俺家のたけ子奴病気だどって帰って来た何でも片足だけは血が通わねえんだってそしてくさりこんでさうみが出てうみが出て、血の通うところまでぶった切って生れにもない片輪になりやがって二十一の働き盛り嫁盛りに何つうこった俺あ口惜しくて涙も出ねいたけ子の野郎奴はロクすっぽ金も持たずにおんだされて来やがったどうすべかいい考えもありやしねいああ俺は口惜しくてなんねい。 | |||
胸に手を当てて | 今野大力 | 5分以内 | |
かつて私は悪事をやった立場に立たされた時こう憎々しげに吐きつけられたものだ、「胸に手を当てて、よっく考えて見ろ!」私は今、胸に手を当てて静かに激しく想っている。 | |||
私の母 | 今野大力 | 5分以内 | |
そこにこうかつな野郎がいるそこにあいつの縄工場がある縄工場で私の母は働いていた私の母はその工場で十三年漆黒い髪を真白にし真赤な血潮を枯らしちまった私の母はそれでも子供を生んだ私達の兄弟は肉付が悪くって蒼白い私達は神経質でよく喧嘩をした私達は小心者でよく睦み合った私達の兄弟は痩せこけた母を中心に鬼ごっこをした母は私達を決して追わない母はいつでもぴったりと押えられた私達は結局母の枯... | |||
馬 | 猪狩満直 | 5分以内 | |
昨日四石ひいたら奴今日五石ふんづけやがった今日正直に五石ひいたら奴明日は六石積むに違いねいおら坂へ行ったら死んだって生きたってかまわねいすべったふりしてねころんでやるベイそしたら橇がてんぷくして橇にとっぴしゃがれてふんぐたばるべおれが口きかないともって畜生明日はきっとやってやる(『弾道』一九三〇年三月号に発表)。 | |||
山上の歌 | 今村恒夫 | 5分以内 | |
同志等よ素晴らしい眺めではないか君達の胸はぶるぶると打ちふるえないか脚下の街に林立する煙突と空を蔽う煤煙とるるるるっと打ちふるえている工場の建築物おおそして其処で搾りぬかれた仲間等が吹き荒ぶ産業合理化の嵐の前に怯え恐れ資本への無意識的な憤懣の血をたぎらせているのだ街は鬱積した憤懣で瓦斯タンクのようになっている街は燐寸の一本で爆発へ導く事が出来るのだそして俺達は厳重なパイや工場の監守の目をかすめて山上に会合を持ち得たではないか... | |||
死ぬる迄土地を守るのだ | 今村恒夫 | 5分以内 | |
会場にはぎっしり聴衆がつめていた。 | |||
手 | 今村恒夫 | 5分以内 | |
俺達の手を見てくれ給えごつごつで無細工で荒れて頽(すた)れて生活の如に殺風景だが矍鑠(かくしゃく)とした姿を見てくれ給え頑健なシャベルだ伝統と因習の殻を踏み摧(くだ)き時代の扉を打ち開く巨大な手だりゅうりゅうと筋骨はもくれ上り俺達の如く底力を秘めているどきっどきっ脈打つ血管には火よりも赤い革命の血が流れすべっすべっ皮膚は砲身の如く燿(かがや)いているペシャンコにひしゃげた爪は兄弟達の顔面の如に醜いが... | |||
鋼鉄 | 今村恒夫 | 5分以内 | |
俺達は貧困と窮乏の底で生れた俺達は圧迫と不如意の中で生長した俺達は鋼鉄になった俺達は現代が要求する共産主義者になった俺達は地下から生み出された光りを持たない暗黒と放浪と死に瀕した現実であった堪え難い生活の溶鉱炉の中へ投げ込まれた旋風と熱気と断末魔の苦悶と没自我の中で生れた儘(まま)の俺達は俺達を失った残滓を捨てた洗練された鉱石は銑鉄になった俺達は戦線に召集されたそこで益々鍛われて行った銑鉄は鋼鉄になった俺... | |||
歩哨戦 | 今村恒夫 | 5分以内 | |
悪検閲制度をぶっ潰せ検閲制度改正期成同盟万歳労働者農民万歳残虐の限りを尽し暴圧の嵐は絶えず吹き続け遂に俺達の言葉迄奪った奴等哀れな奴等の迫害だ哀れな奴等の猿轡だ首を締めつける彼奴等の顔へ憫笑の一瞥を投げて野火の如く囂(ごう)々と拡がり行くではないか俺達の火の手真赤な火の手虫けらの如く無残にも抹殺され空しく屍を曝す幾千の言葉血潮の憤激戦闘の伴侶敵を斃す俺達の鋭利な武器... | |||
アンチの闘士 | 今村恒夫 | 5分以内 | |
彼は勇敢な反帝同盟の闘士!奴はもぐって地球の外にでもいるようだが時々姿を見せては叫ぶ!「帝国主義戦争絶対反対だ!ソヴェート同盟を守れ!支那革命を守れ!」と一太郎やーい親子がおれたちの村にやって来た時や桜井肉弾大佐の講演会があった時奴はみんなの前でおっぴらに云った電柱や壁に貼られた伝単も、時々ばらまかれるアンチのビラも奴の仕事だカーキ服の憲兵もサーベルも奴を血眼に探しているが……おお勇敢な反帝の闘士!野... | |||
プチロフ工場 | 今村恒夫 | 5分以内 | |
プチロフ工場の兄弟と蹶起した罷工の勇壮を讃えよ。 | |||
横顔 | 上田進 | 5分以内 | |
壊滅した――と言うそうかも知れないと思う健在だ――と言うそうかも知れないと思う地下に追込められたものは益々深く地下に潜り込んだのだ俺達にはてんで見当がつかなくなったのだ2汽笛の白い蒸気が灰色の空にちぎれ飛んだ午前六時の川風が雪交りの雨を赤煉瓦に叩きつけ脂染みた硝子窓をゆすぶった肩をすぼめた俺達の行列が鉄門の外にまだ長くつづいていた3泥... | |||
天瓜粉 | 榎南謙一 | 5分以内 | |
この兄が怖いかおぼつかなげな眼をおずおずさせて母の胸にあとしざりする久しぶりに会う兄は柿いろの獄衣その傍には肉親の談話を書きとめている無表情の立会看守世馴れた大人でさえおびえるこのコンクリトの塀のなかへよくやってきてくれた、妹よ兄はそんなに痩せてはいないだろうここでは鰯が食える豚肉のカレー汁が啜れる痩せているのはお前だこのごろのごはんに眼立つのは黒い麦粒だけだろう... | |||
農村から | 榎南謙一 | 5分以内 | |
――よう戻って来た娘の手を握りながら両親は娘一人ふえたこれからの生活を考える正月だと言って餅を鱈腹食うて寝ては居れなかった地主の塀からきこえる景気のいい餅搗きの音に餓鬼どもは咽喉をグウグウいわせて駄々をこねたお父うが鍬をかついで裏口からコッソリ出かけようとしたときお母あはどう言って泣いたか――三ヵ日にようもまあ、仕事をするだフウが悪うて………米の有り余る豊年に百姓の納屋はがら... | |||
無念女工 | 榎南謙一 | 5分以内 | |
お早うさん昨夜の夢は?故郷の庭には柘榴(ざくろ)の花が散ってるだろうけさもまたやめて帰ろと思うたが帯はあせたし汽車賃なしではどうにもならぬ爪をもがれた蟹のように冷たい石畳みをヨチヨチと私たちは工場へはいる今日もいちんちトタン塀の中で無自由だ!渇いて渇いてやりきれぬトタン塀の外はたんぽぽが咲いて乳をながしたような上天気町の活動小屋がラッパを吹いて廻るし糸をつなぐ手が... | |||
夜雲の下 | 榎南謙一 | 5分以内 | |
自動車が動揺すると細引で縛られたまま私たちの肩と肩とがごつんとあたる争議は敗れた送られる私たちは胸の苦汁をどうすることが出来たろう「あちらでは吸えないんだぜ」一本ずつもらった最後の煙草言いようのない感慨とともに蒼いけむりを腹の底までのみでこぼこだらけの道路を揺られて行ったやがて陽は墜ちたのか道路にかぶさる青葉がだんだん翳(かげ)ってくるうなだれている私たちはそのとき道路のただ... | |||
嵐の中で | 大石喜幸 | 5分以内 | |
嵐は今日も街々をかけずりまわっている君は一度でもこの嵐の原因について考えたことがあるんですかそれよりももっともっと大きい嵐についてもっと現実的な人と人とのつながりにおいて人間個々において人類全体において水平線的な風雨の原因について――嵐の日の何もできない一日をじっと反省の思惟にふけるがいい君はきっと希望の駿馬にまたがり倫理の手綱をにぎることができるのだ君はそのつ... | |||
河の上の職場 | 大江鉄麿 | 5分以内 | |
黒い水面が時々石炭の切れ口のように、ギラギラと河波の照りかえし、中ひざまでせきとめられ、八本のミキサコンクリトがけの鉄骨に、歯をむきだし、カプリと、背筋をひきちぎる音波をうって、揺れてゆく河――脳味噌をぶち砕くような、のたうつ肚の底までピリピリと震動さす響。 | |||
職場の歌 | 大江鉄麿 | 5分以内 | |
ダンダンダンダン……歯車がかちかちとわめいているモートルの野郎はブーンとうなっていやがらあベルトが二百五十の回転速力できざむ様に……ダンダンダンダン……源兄いお前そのベルトの奴に右手を半分取られたな近所の義もそのベルトの奴に指を三本喰われちまったぞダンダンダンダン……畜生ベルトの奴貴様まで俺達の血をしぼると云うのか源兄いが右手を取られた時の姿近所の義が指を喰われた時の姿血潮をしたたらせ歯をくいし... | |||
市立共同宿泊所 | 大江鉄麿 | 5分以内 | |
とさつ場のようにむんむんとしたいきれ、悪臭がふんと鼻したにたれてくる。 | |||
懐 | 大江鉄麿 | 5分以内 | |
白樺の梢に冬眠は引き裂くような雪肌を蒙古颪(おろし)に冷めたくとぎすましているどんよりな雪雲に包まれた部落彼方へずうと永く続き切っている地面房々と綿の実ったような雪ころ蹴ちらされた足跡がいとなけき者の生活をしのぶ様に……「おっ母よ」寒さに冷えきった体に飯の空っぽにすいた胃袋をたたきのめしながらまるで木乃伊のように滑走ったおっ母の乳下へかけずりよったつるし柿の様にしなびたおっ母の乳房か... | |||
死の凱旋兵 | 国見善弘 | 5分以内 | |
砲煙弾雨の中に常に描いて居た懐かしい故郷の停車場だった白布に包まれた木箱の中で無言の英雄は故郷に抱かれた喜こびに打ちふるえて居るだろう軽々とけれどつつましく木箱を捧げた戦友は微かな砲煙の臭を感じながら高まって来る感情をこらえて居た弔旗が... | |||
育て力づよく | 田村乙彦 | 5分以内 | |
食えぬだんに学校学校言うてと母は子を叱る小学校の四年の吉三は学校へ行っては先生にうちへかえればみんなにどなりまくられる「今日は学校休んで薪をとって来い子供じゃ言うても飯を食うからにゃ」ぼろぼろ涙を流しながらえがま縄帯の腰につきさす吉三子供までぼい使うてと親父は思うがどうにもならない明日はまた病気でもないのに勝手に学校を休んだと先生に叱られるだろう吉三よお前はそのほそい身体を何重も何重もしばられている水平社のこど... | |||
工女の歌 | 丹沢明 | 5分以内 | |
六月、湖に油を流して、太陽は照り返り、煙突は、貪慾に膨れあがり、山の中腹までのさばった工場の煙に、青葉は、私達の顔色のように蒼ざめた。 | |||
千住大橋 | 丹沢明 | 5分以内 | |
川蒸気の発着所、旗はだらりと垂れ大川は褐色の満水をたたえ家々は庇(ひさし)をおろし、重り合う家並の彼方瓦斯タンクは煤煙の雨空に溶ける大川に架る錆びた鉄橋、常磐線、貨車が長い車体を引ずってゆく動かない煙、つながれて朽るボロ船、泛ぶ空俵橋梁の陰に点々と黒く固まった人糞それらの上を雨がたたいている。 | |||
馬鈴薯階級の詩 | 中島葉那子 | 5分以内 | |
馬鈴薯階級の詩カマドガヤシの白い穂が雪の様に飛ぶ十一月の野良で仁平はおっかあや娘と仕事着の尻、枯っ風にひったくられ乍ら馬鈴薯選別して俵につめていた。 | |||
朝へ行く | 平林彪吾 | 5分以内 | |
午前六時私はアングルにまたがるクレーンはアングルをよこす私はつかんでひきよせるリベットはやける鉄と鉄をしめつけるそれは私の仕事だ。 | |||
拡大されゆく国道前線 | 広海大治 | 5分以内 | |
(1)視野一面連る山脈の彼方に朝やけの赤い太陽――ペダルを力一杯地下足袋で踏んづけて工事場へ走る俺達爽涼たる朝霧の中に曲りくねった山峡の白い路杉と雑木と山の背の彼方に見えてはかくれかくれては現われる相棒の姿俺は呼びかける――おうい待てよう――ほーい山萩の垂れ下った曲路の向う側にあいつの自転車は消えてベルの音とこだまだけが深い谷間に残る――早う来んと歩が切... | |||
章魚人夫 | 広海大治 | 5分以内 | |
北方の海には氷が張りつめた食物がなくなった章魚はおのれの足を食いつくした春四月まだ雪は南樺太の野を埋めている人夫は前借金二十五円にしばられて鉄道工事現場へ追い込まれたへばりついた大雪の残りが消えたドロ柳があおい芽をふいた流氷が去った海岸に鰊(にしん)が群来たけれどオホーツク嵐は氷の肌の様に寒いや伐材だ切取りだ低地へは土を盛れ岩石はハッパで砕けさあ、ツルだスコップだ... | |||
保護職工 | 森竹夫 | 5分以内 | |
働いているこの機械は家庭用シンガーミシン台ではない旧式な製本の安機械彼女は磨き歯車に油を注す埃をうかべた日光が漸くさぐりあてるくらがりでだまりやさんだまりやさんだけどわたしはお前がじっと何をこらえているのか知ってるの十六歳未満だから保護職工何てかがやかしい名だ美しい名だ残業はたっぷり四時間活動小屋のはねる頃になって半分眠ったこの保護職工は縄のようなからだで露路から電車道にたどりつくガスの... | |||
休日に | 藪田忠夫 | 5分以内 | |
胸一杯に吸いこんだ空気甘い甘い麦のかおり何故となくきれぎれに思い出てはあとかたもなく消えて行く幼ない時の楽しい思い出一月目に見る村の麦畑の何んと伸々と変っていることだろう風呂敷包を下げ胸をふくらせ休日の久方ぶりに村の本道を帰って来た私おしつけてもおしつけても湧き上って来る此のうれしさ休み日ごとに家に故里にかえりたい心はせき上げて来る潮のように体中をかけめぐり考えも感情も何もかもぎりぎりと巻きから... | |||
冬のしぶき | 伊藤信二 | 5分以内 | |
お前が工場の帰りに買ってきてくれたこの櫛はもうあっちこっち歯がこぼれた梳(す)いたヌケ毛の一本一本はお前がオッカサンとよばってくれるその日がまためぐってくる年月のながさをヒトツキフタツキとかぞえさせるお前からの夏のタヨリを帯にはさんでいる――六十二にもなったわたしのふしぶしはズキンズキンズキン凍れにたたかれてヒビがひろがってゆくお前がアバシリの刑務所に... |