坂口安吾の全作品

桜の花が咲くと人々は酒をぶらさげたり団子をたべて花の下を歩いて絶景だの春ランマンだのと浮かれて陽気になりますが、これは嘘です。

半年のうちに世相は変った。

その家には人間と豚と犬と鶏と家鴨が住んでいたが、まったく、住む建物も各々の食物も殆（ほとん）ど変っていやしない。

死のふは一定、しのび草には何をしよぞ、一定かたりをこすよの――信長の好きな小唄――立入左京亮が綸旨二通と女房奉書をたずさえて信長をたずねてきたとき、信長は鷹狩に出ていた。

匂いって何だろう？私は近頃人の話をきいていても、言葉を鼻で嗅ぐようになった。

伊豆の伊東にヒロポン屋というものが存在している。

オレの親方はヒダ随一の名人とうたわれたタクミであったが、夜長の長者に招かれたのは、老病で死期の近づいた時だった。

「日本的」ということ僕は日本の古代文化に就て殆んど知識を持っていない。

諸君は、東京市某町某番地なる風博士の邸宅を御存じであろう乎（か）？御存じない。

第一話小田原にて天正十八年、真夏のひざかりであつた。

岡本は谷村夫妻の絵の先生であつた。

敗戦後国民の道義頽廃せりというのだが、然らば戦前の「健全」なる道義に復することが望ましきことなりや、賀すべきことなりや、私は最も然らずと思う。

私はストリップを見たのは今度がはじめてだ。

（上）私がヒロポンという薬の名をきいたのは六七年前で、東京新聞のＹ君がきかせてくれたのである。

恋愛とはいかなるものか、私はよく知らない。

私は先ごろパンパンガールと会談した。

東洋大学の学生だつたころ、丁度学年試験の最中であつたが、校門の前で電車から降りたところを自動車にはねとばされたことがあつた。

終戦後二年目の八月十五日のことであるが、伊豆の伊東温泉に三浦按針祭というものが行われて、当日に限って伊東市は一切の禁令を解除し、旅館や飲食店はお酒をジャン／＼のませてもよいし、スシでもドンブリでも何を売ってもよろしい、という地区司令官の布告がでたという。

御手紙本日廻送、うれしく拝見致しました。

私は妙に魚釣りに縁のあるあたりに住んできたが、小田原で三日間ぐらい鮎釣りをした以外は魚を釣ったことがない。

谷村は駅前まで行つて引返してきた。

去年、小林秀雄が水道橋のプラットホームから墜落して不思議な命を助かったという話をきいた。

徳川家康は狸オヤジと相場がきまっている。

悪妻には一般的な型はない。

文字と画はこうも違うものかね。

恋わずらい梅玉堂は東京で古くから名のある菓子店である。

その正宗菊松先生就職発奮のこと戦乱破壊のあとゝいうものは、若い者の天下なのである。

日本の探偵作家の間に、探偵小説芸術論という一風潮があって、ドストエフスキーは探偵小説だというような説があるが、こういうのを暴論と称する。

アンタブスという酒が嫌いになる薬の実験者の話が週刊朝日に収録されていたが、効果テキメンというわけにはいかないらしい。

郊外電車がＦ駅についたのが十一時三十五分。

スポーツ談議いま僕の書いている『スキヤキから一つの歴史がはじまる』は、はじめにスポーツマンが主人公になっているせいか、スポーツ精神といったものを書いているせいか、とにかくスポーツマンに評判がいゝ。

私はこゝ一ヶ月間に五回も座談会にひっぱりだされて困った。

ある婦人が私に言つた。

私は若い頃から、衰頽の期間にいつも洟汁が流れて悩む習慣があった。

まえがき（小稿の主旨）私がアドルム中毒で病院を退院したのは、この四月二十日頃であったと記憶する。

「和尚さん。

診察拒否の巻この温泉都市でたぶん前山別荘が一番大きな別荘だろう。

もう十日、歯がいたい。

妻を忘れた夫の話山口静江（廿四歳）『これが僕のワイフか？違うなア』行方不明になって以来三ヶ月ぶりでやっと三鷹町井ノ頭病院の一室に尋ねあてた夫は取り縋ろうとする私をはね返すように冷く見据えて言い切るのでした。

妙信、京二郎、安川らの一行が特攻基地へ廻されたのは四月の始めであつたが、基地はきゝしにまさる気違ひ騒ぎで、夜毎々々の兵舎、集会所、唄ふ奴、踊る奴、泣く奴、怒る奴、血相変り、殺気だつた馬鹿騒ぎである。

金銭無情最上清人は哲学者だ。

目明の鼻介は十手の名人日本一だという大そうな気取りを持っていた。

少年時代の信長は天下のタワケモノとよばれた。

まえがき仕事の用で旅にでることが多いので、その期間の新聞を読み損うことが少くない。

戦争中、私ぐらいだらしのない男はめったになかったと思う。

私はそのころ耳を澄ますやうにして生きてゐた。

彼は子供の時から、ホラブンとよばれていた。

終戦後、私が新人現るの声をきいたのは、升田幸三がはじまりだったようである。

東京は小石川に「もみぢ」という旅館がある。

昔々、さるところに奇妙な病院ができた。