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森川義信の全作品

青空文庫で公開されている森川義信の全作品を、おすすめ人気順で表示しています。

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作品名著者読了時間人気
あるるかんの死森川義信
5分以内
眠れ やはらかに青む化粧鏡のまへで もはやおまへのために鼓動する音はなく あの帽子の尖塔もしぼみ 煌めく七色の床は消えた 哀しく魂の溶けてゆくなかでは とび歩く軽い足どりも 不意に身をひるがへすこともあるまい にじんだ頬紅のほとりから血のいろが失せて 疲れのやうに羞んだまま おまへは何も語らない あるるかんよ 空しい喝采を想ひださぬがいい いつまでも耳や肩にのこるものが あつただらうか 眠るがいい
虚しい街森川義信
5分以内
白亜の立体も ひたむきな断面も せつない暗さの底へ沈みつつ 沈みつつ 翳に埋れ 影に支へられ その階段はどこへ果ててゐるのか はかなさに立ちあがり いくたび踏んでみたことだらう 煙のある窓ちかく 自ら扉はひらき そこに立ち去る気配もなかつた 忘れられた木の椅子のほとりから 哀れな水の匂ひがひろがり 脱落するしやつのあとには あやまちのごとく風が立つた あのふしあはせな鳶色の時間には 美しい車輪が
歌のない歌森川義信
5分以内
この傾斜では お伽話はやめて こはれたオペラグラスで アラベスク風な雨をごらん ひととき鳩が白い耳を洗ふと シガーのやうに雲が降りて来て ぼくの影を踏みつけてゐる 光のレエスのシヤボンの泡のやうに 静かに古い楽器はなり止む そして………… 隕石の描く半円形のあたりで それはスパアクするカアブする 匂ひの向ふに花がこぼれる 優しい硝子罎の中では ひねくれた愛情のやうに ぼくがなくした時刻をかみしめる
森川義信
5分以内
扉や窓を濡し 支柱や車輪を濡し 出ていつた音よ 仄かな調和のどこにも 響はすでに帰らない 色彩はなく 無表情の翳がうかび しづかな匂ひがひろがり 脱落するシヤツのあとには あやまちのごとく風が立つた 柱廊はひきつり 手すりはくづれ 静止した平面は 静止した曲面とともに いちぢるしく暮れた きびしく遅速をかぞへる 時差のそとに 屹立する実体もまた ひとつの影像である 壊れた通路を水がながれ 扉や支柱
青き蜜柑森川義信
5分以内
愁ひ来て丘にのぼりて 酸の香る蜜柑もぐなり 悲しみの青き蜜柑を 栗林こえて見ゆるは 背きにし君の町なるぞ ゆふぐれに深く沈みて 掌にしみる青き蜜柑よ そをかみて何を思はむ 昔の日は皆空しきに ああされど君も寂しと この丘の青き蜜柑の その香りなぜか愛でたり 自らの影をふみつつ ゆふぐれの丘を下りき 掌に悲し青き蜜柑よ
森川義信
5分以内
貝がらのなかに五月の陽がたまつてゐる 砂の枕がくづれると ぼくはもはや海の上へ いたんだ心臓は波にさらはれ 青絹の野原をきのふの玩具がうごいてゆく
残像森川義信
5分以内
翳だけがささへてゐる あなたの重量から ゆめの耳もみえない 疲れのやうに羞んで よりそへば傷ついてゐる言葉たち どもつて吃つてわたしは じぶんの位置をかんがへる
冬の夜の歌森川義信
5分以内
私は墜ちて行くのだ 破れた手風琴の挽歌におくられて 古びた天鵞絨の匂ひに噎び 黝い霧に深く包まれて ゆふぐれの向ふへと私は墜ちて行くのだ 今はこの掌に触れた蒼空もなく 胸近く海のやうに揺れた歌声も―― どうしたのだ私の愛した小さくて美しかつたものよ 小鳥たちよ 草花たちよ 新月よ 青い林檎よ しきりに眩暈がおしよせる心には 悔恨が一本の太い水脈となり―― 陰鬱な不協和音が青く戦き 狂つたヴイオ
勾配森川義信
5分以内
非望のきはみ 非望のいのち はげしく一つのものに向つて 誰がこの階段をおりていつたか 時空をこえて屹立する地平をのぞんで そこに立てば かきむしるやうに悲風はつんざき 季節はすでに終りであつた たかだかと欲望の精神に はたして時は 噴水や花を象眼し 光彩の地平をもちあげたか 清純なものばかりを打ちくだいて なにゆえにここまで来たのか だがみよ きびしく勾配に根をささへ ふとした流れの凹みから雑草の
高館森川義信
5分以内
草深きなかに訪ねし 夢跡の寒きかなしさ 朽ち柵に倚れば仄かに 胸にしむ旅のうれひよ 緑濃きなかに見出でし 人の世のさぶしさ 夢を皆遠く流せし 北上が瞳にしみる。
(上等兵安藤孝雄を憶ふ)森川義信
5分以内
友よ お前は二十歳 ひととき朔北の風よりも疾く お前の額を貫ぬいて行つたものについては もう考へまい わたしは聞いた大きな秩序のなかに ただ はげしい意欲を お前の軍靴の音を わたしの力いつぱいの背のびではとどかない 流れよ幅広い苦悩のうねりよ 友よ二十歳の掌のなかで燃えたものよ
哀歌森川義信
5分以内
枝を折るのは誰だらう あはただしく飛びたつ影は何であらう ふかい吃水のほとりから そこここの傷痕から ながれるものは流れつくし かつてあつたままに暮れていつた いちどゆけばもはや帰れない 歩みゆくものの遅速に 思ひをひそめ 想ひのかぎりをこめ いくたびこの頂に立つたことか しづかな推移に照り翳り 風影はどこまで暮れてゆくのか みづから哀しみを捉へて佇むと ふと こころの佗しい断面から わたしのな
森川義信
5分以内
春の帽子を振らう。
冬・断章森川義信
5分以内
1 鴉は―― 異教徒だ 2 誰だ―― 坂の上で笛を鳴らして逃げたのは 母よ、もうラムプを消そう。
ジンタ森川義信
5分以内
ジンタは寂しい港町です 朔風にうらぶれた潮騒です 吐息のやうにとぎれては続きます 濡れてゐるやうに 泣いてゐるやうに ラツパ・たいこ・クラリオネツト ジンタは冬がやつて来た港町です 昨日の唄を 昨日の生活を 潮騒のやうに歌つて通ります
森川義信
5分以内
花の咲かない樹があつた 樹の下には小鳥の死んでゐる鳥籠が 鳥籠の揺れる窓は ひらく日もなく 硝子は曇つてゐた
森川義信
5分以内
渡り鳥の様に旅をしてみたい時がある 雲の様に旅をしてみたい時がある 風のままに漂々と旅をした俳人芭蕉を憶ふ 病の床にあれば一人旅を欲する――   束縛された人生を思ふからである   葬り去られた夢を思ひ出すに耐へられないからである   そして吾今いたつきに泣く明日のない人間だからである―― 旅を想ふ渡り鳥を思ふ雲を芭蕉を……
帰村森川義信
5分以内
寒々と背姿の林は続き 連峯は雪 よれよれの路はまた坂になり 鴉はあをあをと山蔭に群がり ああ 少年の日の悲歌が甦へる ゆふぐれよりも早く ぱらぱら何時かのように村は花を灯し 村はまた何かを悲しむであらう こんなにも林の多い路だつたかと 少年の日のふるさとに―― 傷心のわたしであつた
旅人の唄森川義信
5分以内
旅は泪よ故里はまだかよ その日その日の夢になく   運命に弱い   我は悲しい渡り鳥 旅は夢かよ春も逝くかよ 柳の雨に濡れて泣く   燕でないが   我も悲しい渡り鳥 ―10・5・4―
幻燈森川義信
5分以内
せるろいどのやうにふるへる むかしむかしのお姫さまよ 童話の向ふから童話のやうに掌をあげて 黒びらうどの青い喪服がよく似合ふ あれ あれ 木馬もお通りなさる がた がた 首をゆさぶり はげ落ちた灰色の眼で何を見つめるのやら みんなみんな蒼白いせるろいどの向ふよ みんなみんな幻燈の様に通りすぎた昔よ 黒びらうどのお姫さまよ はげ落ちて歩けない木馬よ 幻燈の後に残されたわたしよ 一枚の絵のないふいるむ
森川義信
5分以内
1 どこかに妹がきてゐる tom・tomとゴムまりをついてゐる ぼくの心のゴムまりを 妹はtom・tomとだまつてついてゐる 2 もうとどかない花の日がぬれてゐる 思ふことがみんな童話になつてはくづれてゆく ふるいオルゴオルのふるい折返しからの歌よ こはれた心のひびきよ ふるさとの声よ 雨の音よ
森川義信
5分以内
枯れ葉は足につつかかり 街燈はぬれてまたたき 霧さへ降つてゐた おそい街の夜だつた お前は人の歌をそつと歌ひ お前は思い出したやうに歩いた 僕たちの街と本当に言へただらうか 美しい愛情の破片が そこに花咲いてゐただらうか あきらめたやうに枯れ葉をふみ 街燈の下を深海魚のやうに なぜ歌つて歩かねばならなかつたのだらう そんな僕たちの街ではなかつたか――
悒鬱な花森川義信
5分以内
はながさいてゐる 目をつむつてぼくは見てゐる はなびらは色をうしなひ あを白くうなだれて…… はななれば はなのやうに なぜ笑はないのだらう はながさいてゐる 目をそつとつむると いつでも黙つてさいてゐる 背中をむけて 向ふを向いて 悒鬱な花よ 匂ひのない―― 花ならば 花のやうに……
森川義信
5分以内
※ 遠い鈴 銀の鈴 何かきこえる ※ そつとお祈りすると 金の糸が胸まで届く ああ 小さな幸福! ※ まだ見ぬ少女
森川義信
5分以内
星は夢の様に美しくかなしい 星は思ひ出の様になつかしくわびしい 故里を遠くはなれた旅人は星を見れば 故里を思ひ出すだらう――   明り星の出てゐる故里の山を   星の様にやさしく星の様に   うるんだ父母の瞳を…… 妹よ!窓をしめてくれ星が流れる星が 妹よ!窓をしめてくれ――又思ひ出してはならぬものを思ひ出すだらうから
雨の日森川義信
5分以内
硝子窓から青猫がやつて来てぼくの膝にのる よろよろとまるで一枚の翳のやうなやつだ 背をなでてゐるとぼうぼうと啼き出し ぼくの腹の中までぼうぼうと啼き出し こいつ こいつ ………… だがお前の眼のうるんだ青白い幻燈よ ゆううつな向日葵のやうにくるりくるりと 黒繻子の喪服の似合ふ貴婦人か お前は晩秋のやうにぼくの膝にやつてくる 苦い散薬の重いしめりに 色変へるまで青猫を思索するぼくの若さよ 何年も座
別れ森川義信
5分以内
ゆふぐれを君みおくりて ばらの実の丘にのぼりつ 鳩笛のおとに濡れゆく よは肩の君のほそさよ この赤きばらの木の実を をとめの日君はめでしに おそ秋の小径に消ゆる うしろ姿の君は悲しき 暮れなやむ丘にたたずみ ばらの実をしみじみとみき
廃園森川義信
5分以内
骨を折る音 その音のなかに 流れる水は乾き 菫色の空は落ちて 石に濡れた額は傾くままに眠つた みえない推移の重さに みえない推移の重さに 眼をとぢて凍える半身は 崩れるもの影とともに忘却をまつた 想ひ出せないのか ゆくひとよ かつては水の美しい こりんとの町にゐたことを いちどゆけばもはや帰れないことを いつからおまへは覚えたのか 梢ちかく羽ばたく音はなく 背中につつかかる微風は更になく 花の根も
眠り森川義信
5分以内
骨を折る音 その音のなかに 流れる水は乾き 鳶色の風はおちて 石に濡れた額は傾くままに眠つた みえない推移の重さに 骨を折る音 その音のなかに
漁村森川義信
5分以内
波がものを言ふやうになつてから 誰も姿を見せない砂浜に 抵抗する事を知らない貝殻のやうな女が 私生児を抱いて立つてゐた それは――生きる為には、生きる為には      泥蟹をまで食べなければならぬ      悲しい漁村の一つの姿である 夢を見ることのゆるされない漁村の娘は 今日泥蟹の殻ばかりを捨てに行くのだつた
あの人森川義信
5分以内
芹をつむ芹の沼べり 今日もまためだかが浮いた 肩あげの肩が細いと あの人はやさしく言つた 名も知らぬ小鳥が鳴いた 讃岐の山雲が通つた あの人は麦笛ふいた 泪ぐみ昼月みて聴いた 肩あげの肩も抱かずに あの人は黙つて去つた 芹かごの芹のかほりが しんしんと胸に沈んだ
衢路森川義信
5分以内
友よ覚えてゐるだらうか 青いネクタイを軽く巻いた船乗りのやうに さんざめく街をさまよふた夜の事を―― 鳩羽色のペンキの香りが強かつたね 二人は オレンジの波に揺られたね お前も少女のやうに胸が痛かつたんだろ? 友よ あの夜の街は新しい連絡船だつたよ 窓といふ窓の灯がパリーより美しかつたのを 昨日の虹のやうに ぼくは思ひ出せるんだ それから又 お前の掌と 言葉と 瞳とが ブランデーのやうにあたたかく
別れ森川義信
5分以内
別れの馬車の鈴の音が つらい心をまたせめる 日暮峠でみかへれば 山が霞んで遠くなる 寒い夜風に町の灯が 悲しく遠くゆれてゐる 馬車の窓から故山見れば 空にほんのりおぼろ月 (四・十二)
樹樹森川義信
5分以内
つつましい文字のやうにその指を組み いま じぶんの脚で立つてゐた 空にとどいた梢に 天使のやうな雲がふとつつかかる と 花の咲かない樹樹は そのほそい指のあひだから おびただしいいのちを零した 38.11.20
森川義信
5分以内
意欲のやうに烈しく流れ 何をまた恐るのだらう 或る時は漂漂と過ぎるもの 季節の上を季節のやうに ※未完※
森川義信
5分以内
義足のごとく つつ立つものの向ふに 新月は かへれない 緑の時差を示し 地軸は 若い意志のなかで 折られた 38.12.10
衢にて森川義信
5分以内
翳に埋れ 翳に支へられ その階段はどこへ果ててゐるのか はかなさに立ちあがり いくたび踏んでみたことだらう ものいはず濡れた肩や 失はれたいのちの群をこえ けんめいに あふれる時間をたどりたかつた あてもない歩みの 遅速のままに どぶどろの秩序をすぎ もはや 美しいままに欺かれ うつくしいままに奪はれてゐた しかし最後の 膝に耐え こみあげる背をふせ はげしく若さをうちくだいて 未完の忘却のなかか
帰らぬ春森川義信
5分以内
雲のたゆたう丘の上に ほろり散つたはべに椿 呼べども逝つた春の日の 悲しい私のゆめかしら 柳の新芽もほの匂ひ 燕も来たに口づけて 水に流した木れんは どこへ流れて行つたやら
季節抄森川義信
5分以内
※ 梢が 空にとどいてゐる 美しい樹々よ 花の咲かない………… 花はなくとも ああ せめてものわが願い ※ 樹々の編む 光りのハンモツクに 僕はつつましく腰をおろす 風が静かにひかるとき ゆれないハンモツクで 僕はそつと時間をみ失ふ ※ 小さな口をあけて ぽくぽくと駆けてくる 波頭よ さうして 何も彼も洗ふがいい………… 貝殻の中の小さな海にも 冷い空が 匂ふやうに光る ※ 青い塔の半円形も
廃園森川義信
5分以内
骨を折る音 その音のなかに 流れる水は乾き 鳶色の風は落ちて 石に濡れた額は傾くままに眠つた みえない推移の重さに 骨を折る音 その音のなかに 佯りの 眼を閉ぢて 凍える半身は 倒れるもの影とともに うつしく忘却をまつた 骨を折る音 その音のなかに おまへを鞭うつものはすでにない 目かくしをする掌もなく いのちににじむ明りもない 凭れかかる肩もなく 壊れてゐる家具さへない 梢をゆすぶる果実もな
あるひとに森川義信
5分以内
もうとどかない花の日よりもさびしかつた つかれのやうに羞んで 古い折返しの向ふへかくれたひとよ もうとどかない花の日のやうにいつまでもぼくは考へてゐる
(無題)森川義信
5分以内
風だ 恐りながら憎悪の波をわたる ひとすじの突風だ 翼や枝をたたき折り はるかな色彩をかき乱し あの断崖の一角からつき落された 重量だ
季節森川義信
5分以内
葉ざくらの蔭が青い硝子の花になり アメシストの鏡から水も流れてゐたな 若い従妹たちの髪を歌のやうに洗つてゐたな
雨の出発森川義信
5分以内
背中の寒暖計に泪がたまる 影もないドアをすぎて 古びた時間はまだ叩いてゐる あれは樹液の言葉でもない 背中の川を声だけで帰つてゆくものたち
断章森川義信
5分以内
おほくの予感に充ち おまへの皮膚にはとどかず はるかに高い所を わたつた あの鋭い動きさへ 速かに把へたのに 精神よ 季節は錆だ 新しい時へ 歩みを移すこともできず 灰は灰に 石は石に還つた しかし それらの冷やかさを 身をもつて感じてゐることは もつと不幸だつた
森川義信
5分以内
風船にひつぱられて 小鳥は中空たかくのぼつていつた 風船はくるめく日傘をまはし あたたかな銀の雨を降らした 小鳥はむしやうにうれしくなり 力いつぱいそのすずを鳴らした それにしても風船にのれない重たい心――ぼくは丘のクツサンの中でじたばたする あばらに生えた青麦の芽をむしりながら
季節抄森川義信
5分以内
葩束を編みながら美しく羞むひとよ 夕べバルコンの影の跫音の言葉なら はるかな愛情も匂ふでせう   ★ 梢に鴉の喪章はゐない*** 新しいアアチの青貝路にペンキの響き 自転車で春の帽子がかけてくる   ★ 樹樹の梯子を登りをりして歌ふものたち*** 花に飾られた日射しの緑のブランコの 優しい肩にのりあなたは空まで駈けあがる   ★ 雲がじぶんでドアをあける 光りにまじつて小鳥の声もおちて
森川義信
5分以内
よりそふ暇もなく こみあげる約束はうばはれていつた 疲れのやうに 吃つてゐる炎よ くづれる愛をさらに踏みしめ 時間のかげに身をこがしても じぶんの力で倒れかかり 義足よ 記憶は埋れ 虚しい体温から すべての言葉はかへらない いまは とざされた扉も消え 匂ひににた沈黙もなく 夜の静脉がかなしく映えてゐる
習作森川義信
5分以内
1 テラアスにちかい海の日は アメシストの鏡から水もながれる だから 頬をみがけぼくのアリサ 葉ざくらのかげでお前は青い花だ 2 ハアプがながれてゐる月夜 葡萄の木蔭はフオルマリンの匂ひがいつぱい 歌のやうにぬれたこころを こほろぎがくすぐりはじめる
霙の中森川義信
5分以内
妹よ あの跫音は何であらう 喪はれた美しい日々の歌声ではない 今日も夕暮近い霙の中を通つてよ 怖ろしい鴉の黒い群であらうか 散薬の重いしめりに病み呆けた わたしの胸にやつて来て わたしの肋骨をこつこつとたたく 何であらう 妹よ お前さへ居ない此の部屋を こつこつとたたくのは いつたい何であらう 霙のやうに冷たい死の掌か―― 霙のふる夕暮は 霙のふる夕暮に似て さびしい私の若さ・いのちであるのだ 妹
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