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今野大力の全作品

青空文庫で公開されている今野大力の全作品を、おすすめ人気順で表示しています。

51-100件 / 全119件
作品名著者読了時間人気
幸福を今野大力
5分以内
おお我胸の苦しさよ幸福は失われたおおそうだ、幸福は輝き渡るかなたの山より朝日の出づると共に潮のように寄せて来た然し幸福は私の手元にいる事を拒んだ、又引潮のように夕べには次第々々に失われていった私は考えている失われた幸福の私を避けた理由を私は青ざめている不幸にみいられて苦しい事もかなしい事もみんな私をなやませて一息の安らかな呼吸さい((ママ))あたえられない故に...
色彩今野大力
5分以内
色彩なければ我ら生はあらざらむ春宵の薄暮わが双眼の全き視神経は麻痺して宇宙は皆灰一色となり感ずべき何ものもなし心ただ焦燥して形なく踊れどもみたすべき何ものもなしああ春宵の薄暮奪われし色彩のかえらじ燃ゆるなき古城址の焔と消えんのみ。
今日もまた今野大力
5分以内
我いのち今日もまたその一つをば切りつめぬ弱きもの何故ぞ虐げられて今日もまた泣いて過しき。
こころ今野大力
5分以内
こころこころくるしいこころ痛みては傷つくこころ何人とものを語るも何人に慰められても扉ひらかずわがこころ。
醜面女人今野大力
5分以内
人間美学の深奥にいときらびやかなる女人の像は久遠であるされど醜面白日のうちにさらけし卑しき女人の相を見るこはこれけもののみにくさにあらずみにくしとも蛇の如き呪いも見えず人間のみの具有せる暗愚なるものの像である。
寺院の右にて今野大力
5分以内
古典の縁起を語れる大楼門の右にて感ずるは極めてあわれなる庶民等が心中ぞ土に生くるものの幸を忘れて自己等が建つるこの寺院に拠り魂のざんげをせん人々のかなしさぞ*鳥けものの屍(しかばね)土に在りて此処は人の香もせざりし頃より未だ幾年を経しか魂は未だに限りもなく深山幽谷の彼方に憧れあるに愚かなる望郷の者達はここにあり往かんとせじせめては古典のめぐしみに会せんとのみ願えるか我等北国の叢生...
自然教徒今野大力
5分以内
こんな静かな晩、外は全くの闇である星はわずかに下界を雲間にのぞいている*ああ下界は午後十一時俺は今夜も自然教徒なる故に黒き衣を身に着けて静かに彼方の小高い丘へ歩んでゆく*小高い丘には一本の白樺が、聖十字架の如くにそびい((ママ))ている。
豌豆畑今野大力
5分以内
豆畑を越えて聞えて来る睦ましそうな話を私はねころんで聞いていたよくは聞きとれないけれどもほんとうに睦ましそうな話すげ笠の蔭にかくれて父も母も余念なく草を取りつつ何をか物語る子供はうね越えて遠く向うの方に事もなきうれしさの微笑を見せて母さんよ母さんよと呼び続けている。
小林虐殺一周忌 二月二十日今野大力
5分以内
小樽から来た小林が殺されたんだと親に教えた俺だったやられたかやりやがったか一日も二日も三日もねむられぬ憎っくい下手人××の手先小林が元気な頃は又逢えるつもりでいたのに殺されて二度と逢い((ママ))ない二度と逢い((ママ))ない小林をとらえた刑事抜けがけをやろうとしたか全身の皮下溢血が無残な姿犬や猫や豚を殴って殺してもこんなに無惨に...
祈願今野大力
5分以内
吾をして生命の本道に歩ましめ吾をして美しき言葉あらしめよ神よ呼ばず語らず黙として吾は殉情の勇士となる。
学校今野大力
5分以内
教壇もない机もない椅子もない教師の握る鞭もないこの学校には粗末なベットがありベットは二十幾つも並んでベットの上には自分の肺をくさらせた青年がねている一九三四年の日本の東京で貧窮に過労に困苦に生身の肺を病菌に喰(くら)わせて遂にいく月もいく年もここのベットにねたきりとなる。
光箭今野大力
5分以内
視よ、暁と呼ぶ東方の王子我等が上に君臨まします白日の御幸は今日もある由なりさてこそ王子は己れが光りの箭(や)を数多なる郎党も召従えず絶えず燦々(さんさん)と放たしむ箭は放たれたり地上は皆輝きたり東方の王子は今日一日にて中天をすぎさせ給える模様なり而(しか)して明日も再び参らせらるると承わる。
死んだ妹に寄せて今野大力
5分以内
私の妹が死んだ、妹は十四年この世に生きていて死んだ私はそれを施療病院のベットの上できいた涙も出なかった、そして泣くよりも切ない気持で一人の幼き者の死を追慕した死なせたくはなかった、生かしておいてこの世の中の正しい希望によろこばせてやりたかった生れてきたからにはそして肉親の兄である私が三十年の間に学んできたことを折ある毎に語りきかせ苦難の道ではあるが輝やかしいわれわれの未来について...
少女受胎今野大力
5分以内
少女子を孕(はら)めるという太りたる腹はみにくくかわいらし少女子を孕めるという十月なる日を算えては頬笑める孕めるは何の摂理ぞ夜深く何を悩める人の世に明日あり今日ありさて遠く夢想の国に青き花咲くとも聞けり孕めるは何の摂理ぞ少女子を孕めるという。
立すくむ今野大力
5分以内
私はいろいろな過去の日記や書きちらしや、あちこちの新聞雑誌へ発表したものや、その折々の切抜や、自分を育ててゆくための材料を古い家に置きっきりだった、転々と私は歩いた、私はそれらに目を通さなかった、私の過去は忘れ去られつつあった私は常にぽっかりと新らしい場所へ新らしい考えの中へ出て、そこから短かいものだけを、しかも又その場その場へ置いて歩いた、だから私は何年かぶりで病にたおれて古い家へかえりその古いものを見て立すくんだのである。
姉へ今野大力
5分以内
蒔付時に子を生んであせって起きて働いて足腰立たなくなったという姉よ何たる不幸ぞや病気をした時神主に拝んでもらって紙っ切れを水でのまされてそれでなおらば、お安いけれど去年□(一字不明)死んだ妹を姉よまさかに忘れまいあの妹が死んだ時足は青んぶくれ顔はまんまるお盆のよう眼が見えなくなったきり、最後にはわけのわからぬあれこれを大声でわめいたっけあ...
故郷断想今野大力
5分以内
*小川は濁っているヤマメ、イワナのようなうまい小魚はもうそこへはのぼって来ない淀みにはどぶ臭い雑魚が居り廿年の昔の清冷な流れの面影がない*連なる丘陵はただ禿山であり焼けたエゾ松の根株が淋しく黒く佇んで居り昔そこに美しい針葉樹林があり楡、タモ、栓、楢、紅葉、桜、胡桃、白椛の林があって小鳥や兎達の楽しい場所であったことはきれいに忘れ去られている*部落の人々は何...
天の海今野大力
5分以内
始皇よ長城の如けんうねうねと連らなる山脈駅路より駅路へ人は人をたよりて母を父を子を友を同胞を旅するものの心つたえて赤き逓送車のまわりゆくまで極みなき地平の物語り出る物語り丘に上り我は今日も駅逓の旗を見ん(郷土は峡谷に馥郁(ふくいく)たる香の花を秘めて知られざる時代に埋もれゆくよ)太古の儘なる森林に入りてもの思う男もあり禿山の頂に立ちて山脈の彼方なつかしの海に...
ある夜、ある宵今野大力
5分以内
ある夜はくらやみの中に妻をよびよせて話すことすべて狂人の如く*来年の三月に死ぬと自分のいのちを予言して今日すいみん剤を多量にのんだといい、胸の苦るしさを訴えて妻を涙ぐませるうそのような真実に近いようなある日の宵*しゃべるとつかれてくるにしゃべること自分でよせと思いつつもたわごとの如くしゃべくる宵。
海の誘惑今野大力
5分以内
打ち返し泡立ち再び寄せ盛り上り岩を打つ波濤の歴史の永遠の力は時としてあの不可解な死への誘惑を感ぜしめる波に乗り暴風雨を経て大洋の航路にある旅客船は絶えず地球の経緯を計っているが世界を行く人々の心にあやしくもその感情の芽生えた時には海は彼等が凡て目的の彼方であり船長も水夫も多くの旅客も惜し気もなく悲しまず永遠の歴史の海底へ沈むであろう。
埋れた幻想今野大力
5分以内
慰める様なぬるい南風に衣をなびかせなびかせ大地の精が臥している小高い丘の殺風景な(けれども希望に輝いた)処で大地の精はつぶやいているああ古風な幻想よ大地は忍従の革命家秋を送り冬を迎え地上すべて荒廃に帰せしめ殺した大地の世界から生命を呼びま夏の新緑あふるる青さを生む(かくて神話の世紀から幾代の力を創った事か)丘は今安らかな暁方の眠りを求める朝早く営舎を出でて美しい若い兵士が...
音響今野大力
5分以内
一切宇宙の音響を失わしめよ吾をして無韻の国土の王たらしめよかくて孤りの声の響きあらしめよ。
狂人と鏡今野大力
5分以内
友よわが一人の愚かなる人間の為めに秘かに鏡を用意して呉れ給い((ママ))そこに一人の狂人がいる彼は真紅の夢を胎むことによって恋をする愚かな狂おしい男である彼の室は赤壁の地図も赤彼の思想も赤赤赤赤点々点々ベタベタ赤色の中に芽ぐむ一人の生友よ彼は横臥することを好む今こそ彼に鏡を与えよおおそして見ろ!彼の狂態が初まるのだ!...
三月の自然今野大力
5分以内
トッ―トッ―トッ―トッポチョ―ポチョ―ポチョ解かれゆく雪の絶え間もなき点滴……点滴……三月の空灰色に消された空うす青く曇れるはかの密林の峯々高きに登りて見渡す街の煙の重さよ耀きなく動かぬ自然ゆらめくは流れる微風ゆるく……ゆるく……打ちつけてはとけゆく風はらめる風。
写真(北満の土産)その一今野大力
5分以内
どれもこれも貧しくけだもののように虐げられふけた表情をもった北満の農民のズラリと並んだ十人の子供達五つ位の女の子はハデなよごれた花模様のズボンと上衣をきて支那曲芸に出てくるような格巧八つ位の女の子は労働者のオーバオールのようなやつを着て両口尻にカサを出しキリッと睨み、七つばかりの男の子は困惑したオジサンのようにふけてズボンの紐をダラリと下げまゆをひそめて立っている六つ位の男の子は一寸快活そうで安物の腕輪をはめ前髪で額...
泣きながら眠った子今野大力
5分以内
何て騒々しい声だろうこの場合の人間の泣声は決して同情に価しないあれはちいちゃい四つの女の子の泣声だが可愛そうにも考えられないただうるさい騒々しい泣かないでくれればいいもう沢山だ心の中でいくら願ってみたって何にもならぬ子供は少し熱があってからだがだるくって消化不良のせいでもあるし気分が悪いんだ、どれを見てもきいてもいまいましいのだ、よっぽどよっぽど気分が変らない限り...
白光礼讃今野大力
5分以内
明るい北国の十二月終日雪は降っていた一尺、二尺、それは容易な大空の変化のページェント又軽やかに香う土へのプレゼント*或日その前夜を名残に、吹雪は綺麗に止んでいた、そして北国のヌタプカムシペ連峯と上川平野の野原とにそれは雪国の特有な白光を輝かせて天への一大讃歌をあげていた。
やるせなさ今野大力
5分以内
〔一〕単の着物を羽織りたいま夏の時季が訪れたけれども私の白い単は恰(あたか)も乞食の着物の様によごれている*やるせない心は、私の生立ちの大切な、又、辛い負いめである私は荷われた運命の様に灯の下へも、川へも、丘へもともなわねばならないこれこそ私の友であるのだ*私はこれまで、商人達、友達、ああ私よりはたしかに裕福な人達にどんなにかいやな思いをさせたろう...
ヌタプカムシペ山脈の畔り今野大力
5分以内
色づく木々の丘の上の林へ今日一日私は出かけためずらしい晴天である葡萄の葉と楡と、楢と栓とそれらみんな色づいて来た最早すべて葉を落したものもあるつたをたぐって丘に登る時私は愉快である登って見下せば又愉快であるみごもった稲田を広い平野の端から端へ見てゆくのも愉快であるいろんな野菜の収穫の終った畑も今は黍と芋蔓がしょんぼりと残っているのみで、麓の清い澄んだ流れは紅い木の葉を浮べて流れている木の...
義男さん今野大力
5分以内
義男さんよなぜそんなに考えてるの一生懸命だね何を読んでいるの……ああそうか「死線を越えて」かおもしろいかねいえなあに借りて来て読んでいるんですよ此頃は歌はどうです沢山書いているでしょういえなあに駄目ですよさっぱり此頃は書けませんし出来ないしわたしももうよしているしああそう言われた義男さんが終に亡くなられた私と同じ局にいてもいつもおとなしく少...
有髪の僧今野大力
5分以内
私もいつかは有髪の僧となって僧院の夕べ極まりもない苦悩の魂を抱いて独り銀杏の下にいこう身となりました(何と言うかなしい事実でありましょう、人間の子の青春は、かくして奪い奪われ去るのです)。
待っていた一つの風景今野大力
5分以内
痩たる土壌をかなしむなく遠き遍土にあるをかこつなく春となれば芽をだし夏となれば緑を盛り花を飾る貧しく小さくして尚たゆまずただ一つ秋、凡ての秋においてただ一つ種を孕んだわが名知らぬ草精一杯に伸びんとして努力空しく夏のま中炎天のあまり枯死してしまったものもある草にして一生は尊い生命の凡てである一つの種は一つの種をはらんだそして遍土の痩土に初冬のころ雪を戴き埋れ、静かに待ってい...
夕べの曲今野大力
5分以内
街々にけむりさまよう秋夕べここもかしこも黄昏れて見分けもつかず劇場のクラリネットの高く低く或は長く短く囃立てる巷の声に相和して一つなる夕べの曲を今日もまたひとりし聞けばそのかみの日のなつかしまれつ涙ぐむ。
墓場が用意された!今野大力
5分以内
歴史!「歴史がこうであったからこれはこうであるべきだ」てめい等はまるでブルジョア学者と同じようにそこからどんな論理や哲学を引ずり出そうというのだ歴史がたとえどうあろうと俺達の現実にとって俺達がこれから築いて行こうとしている仕事のために役になんか立ちそうもない役に立つどころか、てめい等も御存知のない位立派に反動を働こうなんておお、そんなぐちッぽい歴史の講義なんて持ち出しては貰うまえ((ママ))...
写真(北満の土産)その二今野大力
5分以内
貴族の表情をこさえるためにハルピンの白系露人の女はジーッと物を見すえてうっかり動揺の見にくさを見せまえ((ママ))とし、古い宝石の腕輪や首かざりやピンに品物以上を物語らせようとし、窮屈なほど口元をすぼめて上品さを見せんとしている。
羅漢寺今野大力
5分以内
羅漢寺の羅漢に盗癖ありてともれるろうそくの涙を啜り金財袋の紐をほどき赤さびた銅貨を奪う。
もうおそい今野大力
5分以内
生かさせたいがもうおそい両肺が全部やられている猛烈な腸結核で一日の膿の排出は多量でちっとも消化力ない胃腸痔が悪くって腎臓も悪くて耳が悪くてもう全身あますところなく悪化しているこれは医者が言うのだ、そしてあと一月かどうかとすら公言する熱が四十度をこえる味覚は破壊されて食慾が全くない食慾がなく熱を出して毎日肉をけずっていればやがてけずる肉のなくなった時...
父母達の家今野大力
5分以内
住み古した父母達の家に父母達の顔にきざんだ皺をかぞえることなく老いたる父母達の苦難な生活の有様を覗(うかが)い見ることなく俺の健康な顔を見せガッシリとしてきた手を差のべることなく街の中に幾百万の人民の中の一人となり父母達の家を数々の家々とひとしく見過して立去るおもい、逢わねば心細くもあり語らねば物がなしくもあるわが子をはげましわが子を階級戦の熾烈なさ中へ送る意気込みはなくとも、...
路は果して何れ今野大力
5分以内
生と死の路は今自分の行手にあり自分はこの全き方向のちがった路の何れを歩んでいるかを知らない歩む路は一すじただこの一すじが生命の歓喜へ向っているかまた永遠の死へ辿っているか自分にも解き得ざる謎謎の日は今、日毎つづきつつあるだが博士は言った「半年か一年か保証は出来ないがね」ここで自分の歩む路は死だと予断されているも一人の博士はただ眉をひそめて「生死の問題よりも苦痛よりのがれる方法を」と自...
イシカリの川今野大力
5分以内
石狩の川の流れは昔のアイヌ人種が毒木矢もて意気づく古風な姿を写しつつそは永遠に幻を画く平和なる村郷の中を岩に激し砂辺に寄せて流れている。
私の病室の報告今野大力
5分以内
私の病室は十三号の乙寝台は三つ満員二人は施療で私は有料一人は堅山と三十越えた男三年全くこのベットにへばって暮しるいれきで首の周囲は膿の出た跡赤い肉が盛り上って此頃も両脇の下から膿がしきりに流れている肺の方も相当の(ママ)進行しているその咳こむ凄さは恐ろしい俳句を毎日作っているも一人は鈴木二十二歳堅山にこの小僧ッ子は生意気だと泣きながら散々の悪口を言われた男一月ばかり前に三千グラ...
友と二人の夜今野大力
5分以内
遠い野中の家より私を慕うて呉れる友は今夜も十時がなって帰った夜露を分けて来て呉れてもあたたかいもてなしさえ貧しい私達にはゆるされずひとえの着物のはじを幾度か合せ乍(なが)ら語りても聞いてもほほえみ乍ら何程のへだてた思いもなくありのままの事を語らいてお互に解け合うよろこび本箱からは勝手なものをとり出して入れ様ともせず一ぱいに机の上につまされる傍にも又誰ひとり...
老将軍と大学教授今野大力
5分以内
相当にぎやかな街の電柱の下のベンチに素晴らしい将軍が休んでいる私は写真を見てそう思ったが、この老将軍は前歴が何だかわからないただぶくぶくした襟毛つきの厚っぽたい外套をきて帽子はないがない方がずっと素晴しい頭髪やヒゲを効果的に見せるし眉毛でも普通の人間とは凡そ縁遠い逞(たく)ましくゆかりあり気な一人の人物と見えるだがこの老将軍は白系露字の新聞売である日本人には驚くだけである同じベンチにも一...
宵の星今野大力
5分以内
あついあつい夕食後のあつさのんびりと立って見たやっぱり暑いむっちり蒸される様だひたいには汗がこんなににじむ*弟よ外へ行こう庭の石に腰をかけて鈴懸花の香をかいで青く澄み渡った北国の宵空に教えられたあの一つの星を探そう*七月七日の夜も近づいた牽牛織女の星がどこにあるかそれも探そう天の川流れるあたり天上の花のさても美しき事よ。
夕ぐれの明るさに憶う今野大力
5分以内
夕ぐれのあかるさパッと室一杯にあふれて十六燭の電灯のあかるさなど小さくすぼんでいるようなこころよい明るさ忽ちに薄暗くなるこの時刻にこれは又何といい明るさだカーテンをすっかりとり払い硝子窓を通してもかまわないあの明るい空を眺めようあの空あの色何がこんなにうれしいのかもう三年越しの病人がこしらえたような感激を求めているのだろうかそうではない、たしかに、空が広いのだ、...
猛炎今野大力
5分以内
魂と魂と放浪の数日の後あるところを得たるはげによろこぶべき現象ぞよ白馬天をゆく碧瑠璃の空にわれらが魂の猛炎は赤きロマンチックの落日を偲ばしめ舞楽を奏するなり聞かずや宇宙の人々達分子を談ずる詩人達広大無辺の渚なき海われらは船を航し炬火を翳しはるかに行く……。
街の子等今野大力
5分以内
街の子は今日も遊んでいたそしてふと子供の一人が大声で言った「やあいキョウサントウ!」いい声だそしていい言葉だ空間は完全にこの声に貫かれた「やあいキョウサントウ!」鬼ごっこで仲間の一人が捕ったので思い出したこの言葉だが、これはただの言葉でない、街の子が言うほどの遊びながら呼ぶほどの捕まったので思い出したほどの言葉なれどこの時代にはこの言葉に総身の毛をよだてている人間がいるのだその時ふと。
北海の夜今野大力
5分以内
旗がしきりにゆれているハタハタと、又ハタハタと時には風が吹いて来てゴトンと音を立ててゆく外はほんとに暗いのだ自分よ、或る夜の事を思い出せそしてぞうっと身ぶるえ((ママ))せ今夜の雪は青白いすごい黒さが沁みている2海の妖婆が踊るよな暗い恐ろしい夜となる日本海と太平洋の沖の方に何か変りはないだろうか。
聖の行くべき道今野大力
5分以内
そこはねずみも歩かない歩くべきではないひじりの行くべき道である空は明るく明るくまひるの如くに明るい一しきり降っていった雪は野に山に路に庭に夢見る様に積もっている雪は白い何よりも白いきよめられたる様に白い天と地の合体の風景である包む夜は厳に静かなしらべをひっ((ママ))ている*ひじりの為めに撒(ま)いた敷物はけがれる事を恐れている如くである。
瘋癲病舎今野大力
5分以内
俺はお前の此の喜びはつまらぬと言う訳を知っているお前は現実には適しないお前はあの暗い瘋癲病舎で白日の中もおもむろに夢を食って楽しんで生きていればいい男だ。
※©マークのついた作品は著作権が存続しています。 詳細は青空文庫公式サイトの取り扱い基準をご確認のうえ、取り扱いの際は十分注意してください。