5分以内で読める青空文庫の短編作品
青空文庫で公開されているすべての著者の作品の中で、おおよその読了目安時間が「5分以内」の短編作品を、おすすめ人気順で表示しています。
作品名 | 著者 | 読了時間 | 人気 |
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作品名 | 著者 | 読了時間 | 人気 |
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高窓に見える青空 | 今野大力 | 5分以内 | |
小さな高窓高窓に見える青空この青空に走っている無数のラジオの声ブル共はそのラジオで相場の上下を語り奴隷の歌をうたわせながら満洲パルチザンの活動に驚愕のニュースを飛ばし国際聯盟の脱退を問題にしているだろう、だが、それよりおれたちのこの小さな高窓に見る青空にはすべての日にあのモスクワのコミンターン(国際共産党)の大放送塔からおれたちプロレタリアのために闘う世界中の同志の耳へ輝きにみちた勝利のニュース... | |||
立待岬にいたりて | 今野大力 | 5分以内 | |
露西亜の船の沈んだ片身に残したと聞く石を抱いてわれは又ある日のざんげをするか函館山は高く要塞地として秘密を冠るおごそかな壮大なる岩礁の牢たる屹立は東方に面して何をひそかに語りつつあるか黒鳥のあまた岩に群がり波に浮び魚を捕うかつてここら立待岬のアイヌ達は魚群の来るを銛(もり)を携えて立ち待てりと伝う東海の波濤のすさまじく寄せ打つ処崖上の草地にマントを着たる四五人の少女等寝そべり... | |||
航海 | 今野大力 | 5分以内 | |
大いなる家鴨の姿に似たる連絡船の三等船室にて不愉快な動揺を感じ軽い頭痛に悩まされ渡り行く島の奥地に痛み悩む母への哀切に泣きつつひとりし寝転べば出稼人夫等の行く先々の未だ見知らざる地への憧れに満ちたる足に触れ最初は驚き縮んだ私ではあるが夢を持たない旅人のあらぬことをしみじみ我ながら感じては貧しき出稼労働人の心にもろくも兄弟達の涙を感じ足を伸べ組み添え瞳を交し微笑さえ見せて無言の... | |||
軍服を着た百姓源造の除隊 | 今野大力 | 5分以内 | |
「おお源造よ帰って来たか」つまごをはき、雪路を踏んで、馬橇の上で別れて行ったあの日、「俺あクジ逃れだ、俺には只一人のお母がいる、お母はおいぼれ……」「でも源造よ、お上はお前や俺等のために、どうにもなんめいぞ、誰ぞと代って下されと、あれ程ねがったんだに仕方のねい世の中だ諦められない世の中よそんだば、元気で行ってこう源造よ、元気でだぞお!」戦争におびやかされ戦争は明日にもあるらしい『戦争が初まったら…... | |||
虐殺の記念日 | 今野大力 | 5分以内 | |
砂時計はさらさらと流れる民衆の赤き血は流された到る処に銃火と剣戟がひらめいた到る処に窮乏と犯罪が増加した新聞紙はもっと恐しい話を捏造する伯林ではパリーの革命を報道するフランスの都ではリーブ((ママ))クネヒトの死が印刷される……アンリ、ギルボウ「自分を免職し得るものは民衆のみ」と独逸独立社会党員アルヒホルンは拒絶した。 | |||
俺達の農民組合 | 今野大力 | 5分以内 | |
たとえ豊作であろうとなかろうとたとえ凶作であろうとなかろうと彼達の為めに地主達が共謀してこさえているブルジョア政府にはどれだけのどんな対策があるか。 | |||
伊豆の伊東へ | 今野大力 | 5分以内 | |
地図を見ればここは伊豆伊豆の温泉、伊東の町熱海より五里余汽車もなければそびえ立つ岩肌を穿(うが)ち堀りけずり辛くも自動車の往来するこれこそ羊腸の道怪異の岩礁出でて緑の松腰を折ればそこは眺望絶佳といわれてラムネ、レモンを売る腰掛茶屋も並びあり異人の女一人遠き伊豆の山肌を写しており伊豆の山の美しさはわれをして故郷にある貧しけれど情みつる母の心情のうるおいを憶しめ病児を... | |||
S療養所点景 | 今野大力 | 5分以内 | |
療養所の看護婦はいつも廊下をみがいているドアーのハンドルをみがいているいくらみがいてもピカピカ光る程この療養所の建物は新らしくないそれでも毎日看護婦は廊下をみがきハンドルをみがく主任が真先に立ってやって見せるし主任の命令がきびしいので看護婦は今日もみがきやになってる病室に入って病室のうすきたなさはちっともきれいにされない病室には廊下など歩くはおろか半身を起せぬ患者が呻吟して居... | |||
秋吹く風 | 今野大力 | 5分以内 | |
カラカラカラ風が吹くポプラのはっぱが吹かれてる風は面白そうに走ってく四辻に風は迷ってぐるぐるまわりあの人をそよと尋ぬ((ママ))てためしし((ママ))てぷっと口吻け逃げてゆく。 | |||
新らしいスローガンについて | 今野大力 | 5分以内 | |
太平洋の島国へ一つの智恵が送られてきた智恵をあふるるばかりにくまなく抱く本が送られてきた智恵はまもなく人々のものとなりかけたしかしこの国の人々はその智恵をいろいろに受けとった誰がこんなことをしたのかある頁が破かれていたある頁に加筆されていたある頁は抹殺された、ある頁は巧妙に張りかえられた真実は偉大なる真実は遂に万人のものとなり得なかった多くの人々のもとへは片ちんばの智恵が走りこみ眼っかち... | |||
幼な子チビコ | 今野大力 | 5分以内 | |
チビコは今年三つになりました、チビコのお父さんは肺病でねています、チビコのお母さんは又稼ぎに行くと言っています、稼がなければ喰べられないからチビコはある晩ばあちゃんに抱かれてねながら「メメが痛いメメが痛い」とパッチリ目あけたまま泣いて泣いて眠りませんでした、そして翌日、ゲッゲッと食べ物を吐き出しました、メメは目ではなく腹のようでした、「チビコお父っちゃんあるかい」「ある」「チビコのお母ちゃんバカだね」... | |||
形象の献辞 | 今野大力 | 5分以内 | |
生命形象の末路にこそわれは華やかなる讃美を贈らんかな生長に太りゆく肉体と自然それら皆空々無色の透明体となり精霊のみあれよ而して無用なる形態一切は生れ出でし日の永劫記念に神前の土深く埋葬し献ぜんかな。 | |||
幸福を | 今野大力 | 5分以内 | |
おお我胸の苦しさよ幸福は失われたおおそうだ、幸福は輝き渡るかなたの山より朝日の出づると共に潮のように寄せて来た然し幸福は私の手元にいる事を拒んだ、又引潮のように夕べには次第々々に失われていった私は考えている失われた幸福の私を避けた理由を私は青ざめている不幸にみいられて苦しい事もかなしい事もみんな私をなやませて一息の安らかな呼吸さい((ママ))あたえられない故に... | |||
色彩 | 今野大力 | 5分以内 | |
色彩なければ我ら生はあらざらむ春宵の薄暮わが双眼の全き視神経は麻痺して宇宙は皆灰一色となり感ずべき何ものもなし心ただ焦燥して形なく踊れどもみたすべき何ものもなしああ春宵の薄暮奪われし色彩のかえらじ燃ゆるなき古城址の焔と消えんのみ。 | |||
今日もまた | 今野大力 | 5分以内 | |
我いのち今日もまたその一つをば切りつめぬ弱きもの何故ぞ虐げられて今日もまた泣いて過しき。 | |||
こころ | 今野大力 | 5分以内 | |
こころこころくるしいこころ痛みては傷つくこころ何人とものを語るも何人に慰められても扉ひらかずわがこころ。 | |||
醜面女人 | 今野大力 | 5分以内 | |
人間美学の深奥にいときらびやかなる女人の像は久遠であるされど醜面白日のうちにさらけし卑しき女人の相を見るこはこれけもののみにくさにあらずみにくしとも蛇の如き呪いも見えず人間のみの具有せる暗愚なるものの像である。 | |||
寺院の右にて | 今野大力 | 5分以内 | |
古典の縁起を語れる大楼門の右にて感ずるは極めてあわれなる庶民等が心中ぞ土に生くるものの幸を忘れて自己等が建つるこの寺院に拠り魂のざんげをせん人々のかなしさぞ*鳥けものの屍(しかばね)土に在りて此処は人の香もせざりし頃より未だ幾年を経しか魂は未だに限りもなく深山幽谷の彼方に憧れあるに愚かなる望郷の者達はここにあり往かんとせじせめては古典のめぐしみに会せんとのみ願えるか我等北国の叢生... | |||
自然教徒 | 今野大力 | 5分以内 | |
こんな静かな晩、外は全くの闇である星はわずかに下界を雲間にのぞいている*ああ下界は午後十一時俺は今夜も自然教徒なる故に黒き衣を身に着けて静かに彼方の小高い丘へ歩んでゆく*小高い丘には一本の白樺が、聖十字架の如くにそびい((ママ))ている。 | |||
豌豆畑 | 今野大力 | 5分以内 | |
豆畑を越えて聞えて来る睦ましそうな話を私はねころんで聞いていたよくは聞きとれないけれどもほんとうに睦ましそうな話すげ笠の蔭にかくれて父も母も余念なく草を取りつつ何をか物語る子供はうね越えて遠く向うの方に事もなきうれしさの微笑を見せて母さんよ母さんよと呼び続けている。 | |||
小林虐殺一周忌 二月二十日 | 今野大力 | 5分以内 | |
小樽から来た小林が殺されたんだと親に教えた俺だったやられたかやりやがったか一日も二日も三日もねむられぬ憎っくい下手人××の手先小林が元気な頃は又逢えるつもりでいたのに殺されて二度と逢い((ママ))ない二度と逢い((ママ))ない小林をとらえた刑事抜けがけをやろうとしたか全身の皮下溢血が無残な姿犬や猫や豚を殴って殺してもこんなに無惨に... | |||
祈願 | 今野大力 | 5分以内 | |
吾をして生命の本道に歩ましめ吾をして美しき言葉あらしめよ神よ呼ばず語らず黙として吾は殉情の勇士となる。 | |||
学校 | 今野大力 | 5分以内 | |
教壇もない机もない椅子もない教師の握る鞭もないこの学校には粗末なベットがありベットは二十幾つも並んでベットの上には自分の肺をくさらせた青年がねている一九三四年の日本の東京で貧窮に過労に困苦に生身の肺を病菌に喰(くら)わせて遂にいく月もいく年もここのベットにねたきりとなる。 | |||
光箭 | 今野大力 | 5分以内 | |
視よ、暁と呼ぶ東方の王子我等が上に君臨まします白日の御幸は今日もある由なりさてこそ王子は己れが光りの箭(や)を数多なる郎党も召従えず絶えず燦々(さんさん)と放たしむ箭は放たれたり地上は皆輝きたり東方の王子は今日一日にて中天をすぎさせ給える模様なり而(しか)して明日も再び参らせらるると承わる。 | |||
死んだ妹に寄せて | 今野大力 | 5分以内 | |
私の妹が死んだ、妹は十四年この世に生きていて死んだ私はそれを施療病院のベットの上できいた涙も出なかった、そして泣くよりも切ない気持で一人の幼き者の死を追慕した死なせたくはなかった、生かしておいてこの世の中の正しい希望によろこばせてやりたかった生れてきたからにはそして肉親の兄である私が三十年の間に学んできたことを折ある毎に語りきかせ苦難の道ではあるが輝やかしいわれわれの未来について... | |||
少女受胎 | 今野大力 | 5分以内 | |
少女子を孕(はら)めるという太りたる腹はみにくくかわいらし少女子を孕めるという十月なる日を算えては頬笑める孕めるは何の摂理ぞ夜深く何を悩める人の世に明日あり今日ありさて遠く夢想の国に青き花咲くとも聞けり孕めるは何の摂理ぞ少女子を孕めるという。 | |||
立すくむ | 今野大力 | 5分以内 | |
私はいろいろな過去の日記や書きちらしや、あちこちの新聞雑誌へ発表したものや、その折々の切抜や、自分を育ててゆくための材料を古い家に置きっきりだった、転々と私は歩いた、私はそれらに目を通さなかった、私の過去は忘れ去られつつあった私は常にぽっかりと新らしい場所へ新らしい考えの中へ出て、そこから短かいものだけを、しかも又その場その場へ置いて歩いた、だから私は何年かぶりで病にたおれて古い家へかえりその古いものを見て立すくんだのである。 | |||
姉へ | 今野大力 | 5分以内 | |
蒔付時に子を生んであせって起きて働いて足腰立たなくなったという姉よ何たる不幸ぞや病気をした時神主に拝んでもらって紙っ切れを水でのまされてそれでなおらば、お安いけれど去年□(一字不明)死んだ妹を姉よまさかに忘れまいあの妹が死んだ時足は青んぶくれ顔はまんまるお盆のよう眼が見えなくなったきり、最後にはわけのわからぬあれこれを大声でわめいたっけあ... | |||
故郷断想 | 今野大力 | 5分以内 | |
*小川は濁っているヤマメ、イワナのようなうまい小魚はもうそこへはのぼって来ない淀みにはどぶ臭い雑魚が居り廿年の昔の清冷な流れの面影がない*連なる丘陵はただ禿山であり焼けたエゾ松の根株が淋しく黒く佇んで居り昔そこに美しい針葉樹林があり楡、タモ、栓、楢、紅葉、桜、胡桃、白椛の林があって小鳥や兎達の楽しい場所であったことはきれいに忘れ去られている*部落の人々は何... | |||
天の海 | 今野大力 | 5分以内 | |
始皇よ長城の如けんうねうねと連らなる山脈駅路より駅路へ人は人をたよりて母を父を子を友を同胞を旅するものの心つたえて赤き逓送車のまわりゆくまで極みなき地平の物語り出る物語り丘に上り我は今日も駅逓の旗を見ん(郷土は峡谷に馥郁(ふくいく)たる香の花を秘めて知られざる時代に埋もれゆくよ)太古の儘なる森林に入りてもの思う男もあり禿山の頂に立ちて山脈の彼方なつかしの海に... | |||
ある夜、ある宵 | 今野大力 | 5分以内 | |
ある夜はくらやみの中に妻をよびよせて話すことすべて狂人の如く*来年の三月に死ぬと自分のいのちを予言して今日すいみん剤を多量にのんだといい、胸の苦るしさを訴えて妻を涙ぐませるうそのような真実に近いようなある日の宵*しゃべるとつかれてくるにしゃべること自分でよせと思いつつもたわごとの如くしゃべくる宵。 | |||
海の誘惑 | 今野大力 | 5分以内 | |
打ち返し泡立ち再び寄せ盛り上り岩を打つ波濤の歴史の永遠の力は時としてあの不可解な死への誘惑を感ぜしめる波に乗り暴風雨を経て大洋の航路にある旅客船は絶えず地球の経緯を計っているが世界を行く人々の心にあやしくもその感情の芽生えた時には海は彼等が凡て目的の彼方であり船長も水夫も多くの旅客も惜し気もなく悲しまず永遠の歴史の海底へ沈むであろう。 | |||
埋れた幻想 | 今野大力 | 5分以内 | |
慰める様なぬるい南風に衣をなびかせなびかせ大地の精が臥している小高い丘の殺風景な(けれども希望に輝いた)処で大地の精はつぶやいているああ古風な幻想よ大地は忍従の革命家秋を送り冬を迎え地上すべて荒廃に帰せしめ殺した大地の世界から生命を呼びま夏の新緑あふるる青さを生む(かくて神話の世紀から幾代の力を創った事か)丘は今安らかな暁方の眠りを求める朝早く営舎を出でて美しい若い兵士が... | |||
音響 | 今野大力 | 5分以内 | |
一切宇宙の音響を失わしめよ吾をして無韻の国土の王たらしめよかくて孤りの声の響きあらしめよ。 | |||
狂人と鏡 | 今野大力 | 5分以内 | |
友よわが一人の愚かなる人間の為めに秘かに鏡を用意して呉れ給い((ママ))そこに一人の狂人がいる彼は真紅の夢を胎むことによって恋をする愚かな狂おしい男である彼の室は赤壁の地図も赤彼の思想も赤赤赤赤点々点々ベタベタ赤色の中に芽ぐむ一人の生友よ彼は横臥することを好む今こそ彼に鏡を与えよおおそして見ろ!彼の狂態が初まるのだ!... | |||
三月の自然 | 今野大力 | 5分以内 | |
トッ―トッ―トッ―トッポチョ―ポチョ―ポチョ解かれゆく雪の絶え間もなき点滴……点滴……三月の空灰色に消された空うす青く曇れるはかの密林の峯々高きに登りて見渡す街の煙の重さよ耀きなく動かぬ自然ゆらめくは流れる微風ゆるく……ゆるく……打ちつけてはとけゆく風はらめる風。 | |||
写真(北満の土産)その一 | 今野大力 | 5分以内 | |
どれもこれも貧しくけだもののように虐げられふけた表情をもった北満の農民のズラリと並んだ十人の子供達五つ位の女の子はハデなよごれた花模様のズボンと上衣をきて支那曲芸に出てくるような格巧八つ位の女の子は労働者のオーバオールのようなやつを着て両口尻にカサを出しキリッと睨み、七つばかりの男の子は困惑したオジサンのようにふけてズボンの紐をダラリと下げまゆをひそめて立っている六つ位の男の子は一寸快活そうで安物の腕輪をはめ前髪で額... | |||
泣きながら眠った子 | 今野大力 | 5分以内 | |
何て騒々しい声だろうこの場合の人間の泣声は決して同情に価しないあれはちいちゃい四つの女の子の泣声だが可愛そうにも考えられないただうるさい騒々しい泣かないでくれればいいもう沢山だ心の中でいくら願ってみたって何にもならぬ子供は少し熱があってからだがだるくって消化不良のせいでもあるし気分が悪いんだ、どれを見てもきいてもいまいましいのだ、よっぽどよっぽど気分が変らない限り... | |||
白光礼讃 | 今野大力 | 5分以内 | |
明るい北国の十二月終日雪は降っていた一尺、二尺、それは容易な大空の変化のページェント又軽やかに香う土へのプレゼント*或日その前夜を名残に、吹雪は綺麗に止んでいた、そして北国のヌタプカムシペ連峯と上川平野の野原とにそれは雪国の特有な白光を輝かせて天への一大讃歌をあげていた。 | |||
やるせなさ | 今野大力 | 5分以内 | |
〔一〕単の着物を羽織りたいま夏の時季が訪れたけれども私の白い単は恰(あたか)も乞食の着物の様によごれている*やるせない心は、私の生立ちの大切な、又、辛い負いめである私は荷われた運命の様に灯の下へも、川へも、丘へもともなわねばならないこれこそ私の友であるのだ*私はこれまで、商人達、友達、ああ私よりはたしかに裕福な人達にどんなにかいやな思いをさせたろう... | |||
ヌタプカムシペ山脈の畔り | 今野大力 | 5分以内 | |
色づく木々の丘の上の林へ今日一日私は出かけためずらしい晴天である葡萄の葉と楡と、楢と栓とそれらみんな色づいて来た最早すべて葉を落したものもあるつたをたぐって丘に登る時私は愉快である登って見下せば又愉快であるみごもった稲田を広い平野の端から端へ見てゆくのも愉快であるいろんな野菜の収穫の終った畑も今は黍と芋蔓がしょんぼりと残っているのみで、麓の清い澄んだ流れは紅い木の葉を浮べて流れている木の... | |||
義男さん | 今野大力 | 5分以内 | |
義男さんよなぜそんなに考えてるの一生懸命だね何を読んでいるの……ああそうか「死線を越えて」かおもしろいかねいえなあに借りて来て読んでいるんですよ此頃は歌はどうです沢山書いているでしょういえなあに駄目ですよさっぱり此頃は書けませんし出来ないしわたしももうよしているしああそう言われた義男さんが終に亡くなられた私と同じ局にいてもいつもおとなしく少... | |||
有髪の僧 | 今野大力 | 5分以内 | |
私もいつかは有髪の僧となって僧院の夕べ極まりもない苦悩の魂を抱いて独り銀杏の下にいこう身となりました(何と言うかなしい事実でありましょう、人間の子の青春は、かくして奪い奪われ去るのです)。 | |||
待っていた一つの風景 | 今野大力 | 5分以内 | |
痩たる土壌をかなしむなく遠き遍土にあるをかこつなく春となれば芽をだし夏となれば緑を盛り花を飾る貧しく小さくして尚たゆまずただ一つ秋、凡ての秋においてただ一つ種を孕んだわが名知らぬ草精一杯に伸びんとして努力空しく夏のま中炎天のあまり枯死してしまったものもある草にして一生は尊い生命の凡てである一つの種は一つの種をはらんだそして遍土の痩土に初冬のころ雪を戴き埋れ、静かに待ってい... | |||
夕べの曲 | 今野大力 | 5分以内 | |
街々にけむりさまよう秋夕べここもかしこも黄昏れて見分けもつかず劇場のクラリネットの高く低く或は長く短く囃立てる巷の声に相和して一つなる夕べの曲を今日もまたひとりし聞けばそのかみの日のなつかしまれつ涙ぐむ。 | |||
墓場が用意された! | 今野大力 | 5分以内 | |
歴史!「歴史がこうであったからこれはこうであるべきだ」てめい等はまるでブルジョア学者と同じようにそこからどんな論理や哲学を引ずり出そうというのだ歴史がたとえどうあろうと俺達の現実にとって俺達がこれから築いて行こうとしている仕事のために役になんか立ちそうもない役に立つどころか、てめい等も御存知のない位立派に反動を働こうなんておお、そんなぐちッぽい歴史の講義なんて持ち出しては貰うまえ((ママ))... | |||
写真(北満の土産)その二 | 今野大力 | 5分以内 | |
貴族の表情をこさえるためにハルピンの白系露人の女はジーッと物を見すえてうっかり動揺の見にくさを見せまえ((ママ))とし、古い宝石の腕輪や首かざりやピンに品物以上を物語らせようとし、窮屈なほど口元をすぼめて上品さを見せんとしている。 | |||
羅漢寺 | 今野大力 | 5分以内 | |
羅漢寺の羅漢に盗癖ありてともれるろうそくの涙を啜り金財袋の紐をほどき赤さびた銅貨を奪う。 | |||
もうおそい | 今野大力 | 5分以内 | |
生かさせたいがもうおそい両肺が全部やられている猛烈な腸結核で一日の膿の排出は多量でちっとも消化力ない胃腸痔が悪くって腎臓も悪くて耳が悪くてもう全身あますところなく悪化しているこれは医者が言うのだ、そしてあと一月かどうかとすら公言する熱が四十度をこえる味覚は破壊されて食慾が全くない食慾がなく熱を出して毎日肉をけずっていればやがてけずる肉のなくなった時... | |||
父母達の家 | 今野大力 | 5分以内 | |
住み古した父母達の家に父母達の顔にきざんだ皺をかぞえることなく老いたる父母達の苦難な生活の有様を覗(うかが)い見ることなく俺の健康な顔を見せガッシリとしてきた手を差のべることなく街の中に幾百万の人民の中の一人となり父母達の家を数々の家々とひとしく見過して立去るおもい、逢わねば心細くもあり語らねば物がなしくもあるわが子をはげましわが子を階級戦の熾烈なさ中へ送る意気込みはなくとも、... |