牧野信一の全作品

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作品名著者読了時間文字数人気書き出し
地球儀牧野信一30分以内4,213

祖父の十七年の法要があるから帰れ――という母からの手紙で、私は二タ月ぶりぐらいで小田原の家に帰った。

祖父の十七年の法要があるから帰れ――という母からの手紙で、私は二タ月ぶりぐらいで小田原の家に帰った。

センチメンタル・ドライヴ牧野信一10分以内3,855

「弾け! 弾け! その手風琴で沢山だ。」 「南北戦争の兵隊でもが持つやうな手風琴だな、ハツハツハ! 横ツ腹が大分破れてゐるぢやないか!」 「お前の胸には打つてつけだらうG――」 「失敬な、弾かねえぞ!」 「弾け! 弾け! リング、リング・ド・バンジョウ! あんなものを弾くにはそれで沢山だよ、K! お前は一緒にハモニカを吹け!」 「オーライ!」 「ぢや、俺もオーライとしよう!」  Gの言葉だけが隣り

「弾け! 弾け! その手風琴で沢山だ。」 「南北戦争の兵隊でもが持つやうな手風琴だな、ハツハツハ! 横ツ腹が大分破れてゐるぢやないか!」 「お前の胸には打つてつけだらうG――」 「失敬な、弾かねえぞ!」 「弾け! 弾け! リング、リング・ド・バンジョウ! あんなものを弾くにはそれで沢山だよ、K! お前は一緒にハモニカを吹け!」 「オーライ!」 「ぢや、俺もオーライとしよう!」  Gの言葉だけが隣り

フアウスト牧野信一5分以内1,391

博士フアウストは、哲学、医学、法律、神学その他あらゆる学問といふ学問を研究し尽してしまつて、もうその他には何もないのか? とおもふと、急にがつかりして、死んでしまはうと決心しました。

博士フアウストは、哲学、医学、法律、神学その他あらゆる学問といふ学問を研究し尽してしまつて、もうその他には何もないのか? とおもふと、急にがつかりして、死んでしまはうと決心しました。

女優牧野信一30分以内8,862

文科大学生の戸田の神経衰弱症が日増に亢進してゐる模様だつたので、私は彼を百合子に紹介した。

文科大学生の戸田の神経衰弱症が日増に亢進してゐる模様だつたので、私は彼を百合子に紹介した。

好色夢牧野信一30分以内6,519

回想  父の十三回忌が一昨年と思はれ、たしかその歿後の翌年と回想される故指折れば早くも十星霜にあまる時が経ちしなり、故葛西善蔵氏が切りと余に力作をすゝめ、稿終るや氏は未読のまゝに故滝田哲太郎氏へおくられたるなり。

回想  父の十三回忌が一昨年と思はれ、たしかその歿後の翌年と回想される故指折れば早くも十星霜にあまる時が経ちしなり、故葛西善蔵氏が切りと余に力作をすゝめ、稿終るや氏は未読のまゝに故滝田哲太郎氏へおくられたるなり。

私の変態心理牧野信一5分以内181

到底こゝには記し切れぬ程、生涯の自分の芸術の対照となすべく充分と思ふ程の病的心理がある――或日はさう思ふ。

到底こゝには記し切れぬ程、生涯の自分の芸術の対照となすべく充分と思ふ程の病的心理がある――或日はさう思ふ。

ゼーロン牧野信一60分以内14,546

更に私は新しい原始生活に向うために、一切の書籍、家具、負債その他の整理を終ったが、最後に、売却することの能わぬ一個のブロンズ製の胸像の始末に迷った。

更に私は新しい原始生活に向うために、一切の書籍、家具、負債その他の整理を終ったが、最後に、売却することの能わぬ一個のブロンズ製の胸像の始末に迷った。

鬼涙村牧野信一60分以内14,376

一  鵙の声が鋭くけたたましい。

一  鵙の声が鋭くけたたましい。

痴日牧野信一60分以内14,352

一  頭の惡いときには、むしろ極めて難解な文字ばかりが羅列された古典的な哲學書の上に眼を曝すに如くはない――隱岐はいつも左う胸一杯に力んで、決して自分の部屋から外へ現れなかつた。

一  頭の惡いときには、むしろ極めて難解な文字ばかりが羅列された古典的な哲學書の上に眼を曝すに如くはない――隱岐はいつも左う胸一杯に力んで、決して自分の部屋から外へ現れなかつた。

余話牧野信一5分以内1,911

厳格らしい母だつた。

厳格らしい母だつた。

「風博士」牧野信一5分以内886

厭世の偏奇境から発酵したとてつもないおしやべりです、これを読んで憤らうつたつて憤れる筈もありますまいし、笑ふには少々馬鹿/\し過ぎて、さて何としたものかと首をかしげさせられながら、だんだん読んで行くと重たい笑素に襲はれます。

厭世の偏奇境から発酵したとてつもないおしやべりです、これを読んで憤らうつたつて憤れる筈もありますまいし、笑ふには少々馬鹿/\し過ぎて、さて何としたものかと首をかしげさせられながら、だんだん読んで行くと重たい笑素に襲はれます。

吊籠と月光と牧野信一60分以内13,248

僕は、哲学と芸術の分岐点に衝突して自由を欠いた頭を持てあました。

僕は、哲学と芸術の分岐点に衝突して自由を欠いた頭を持てあました。

熱海線私語牧野信一60分以内16,212

一  一九三四年、秋――伊豆、丹那トンネルが開通して、それまでの「熱海線」といふ名称が抹殺された。

一  一九三四年、秋――伊豆、丹那トンネルが開通して、それまでの「熱海線」といふ名称が抹殺された。

鱗雲牧野信一60分以内21,120

一  百足凧――これは私達の幼時には毎年見物させられた珍らしくもなかつた凧である。

一  百足凧――これは私達の幼時には毎年見物させられた珍らしくもなかつた凧である。

西部劇通信牧野信一5分以内1,184

「西部劇通信」に収めた諸篇――「川を遡りて」から「出発」まで――は、私のこの五年間の、主なる作品である。

「西部劇通信」に収めた諸篇――「川を遡りて」から「出発」まで――は、私のこの五年間の、主なる作品である。

創作生活にて牧野信一60分以内12,211

窓下の溝川に蛙を釣に来る子供たちが、 「今日は目マルは居ねえのか。」 「居ないらしいぞ。」  などと、ささやき合つてゐるのを聴いた。

窓下の溝川に蛙を釣に来る子供たちが、 「今日は目マルは居ねえのか。」 「居ないらしいぞ。」  などと、ささやき合つてゐるのを聴いた。

父を売る子牧野信一30分以内10,105

彼は、自分の父親を取りいれた短篇小説を続けて二つ書いた。

彼は、自分の父親を取りいれた短篇小説を続けて二つ書いた。

村のストア派牧野信一60分以内18,701

一  沢山な落葉が浮んでゐる泉水の傍で樽野は、籐椅子に凭つて日向ぼつこをしてゐた。

一  沢山な落葉が浮んでゐる泉水の傍で樽野は、籐椅子に凭つて日向ぼつこをしてゐた。

バラルダ物語牧野信一60分以内20,451

俺は見た 痛手を負へる一頭の野鹿が オリオーンの槍に追はれて 薄明の山頂を走れるを ――あゝ されど 古人の嘆きのまゝに 影の猟人なり 影の野獣なり  日照りつゞきで小川の水嵩が――その夕暮時に、この二三日来の水車の空回りを憂へたあまり、蝋燭のやうにめつきりと耄碌してしまつた私と此の水車小屋の主人であるところの雪太郎と、ふるへる腕を堪えて水底深く水深計を立てゝ見ると、朝に比べて更に五寸強の減水

俺は見た 痛手を負へる一頭の野鹿が オリオーンの槍に追はれて 薄明の山頂を走れるを ――あゝ されど 古人の嘆きのまゝに 影の猟人なり 影の野獣なり  日照りつゞきで小川の水嵩が――その夕暮時に、この二三日来の水車の空回りを憂へたあまり、蝋燭のやうにめつきりと耄碌してしまつた私と此の水車小屋の主人であるところの雪太郎と、ふるへる腕を堪えて水底深く水深計を立てゝ見ると、朝に比べて更に五寸強の減水

熱い砂の上牧野信一10分以内3,365

一  駆け出した、とても歩いたりしてはをられなかつたから――砂が猛々しく焦けてゐて誰にも到底素足では踏み堪へられなかつた。

一  駆け出した、とても歩いたりしてはをられなかつたから――砂が猛々しく焦けてゐて誰にも到底素足では踏み堪へられなかつた。

駆ける朝牧野信一10分以内3,822

「苦労」は後から後から、いくらでもおし寄せてくる。

「苦労」は後から後から、いくらでもおし寄せてくる。

街上スケツチ牧野信一5分以内1,548

明るいうちは風があつたが、陽が落ちると一処に綺麗に凪いで、街は夢のやうにうつとりとした。

明るいうちは風があつたが、陽が落ちると一処に綺麗に凪いで、街は夢のやうにうつとりとした。

くもり日つゞき牧野信一30分以内5,670

歌合せ  外に出るのは誰も具合が悪かつた。

歌合せ  外に出るのは誰も具合が悪かつた。

交遊秘話牧野信一10分以内3,688

一  私が、G・L・マイアム氏から私の作品に寄せる最も好意ある手紙を貰つたのは昨年の冬の頃だつた。

一  私が、G・L・マイアム氏から私の作品に寄せる最も好意ある手紙を貰つたのは昨年の冬の頃だつた。

出発牧野信一10分以内3,778

(A) 「風よ風よ、吾を汝が立琴となせ、彼の森の如く――か、ハツハツハ……琴にならぬうちに、おさらばだよ、森よ森よ、さよなら――と!」 「真面目かと思へば冗談で、冗談かと思へば生真面目で、転がせ/\、この樽を――だ、ハツハツハツ……」 「泣いて呉れるなヨ、出船の邪魔だヨ……」 「今日は黒パン、明日は白パン、兵士の歌だよ、白い娘と黒いパン、黒い娘と白いパン、どんどん行け行け鉄砲かついで――」  私

(A) 「風よ風よ、吾を汝が立琴となせ、彼の森の如く――か、ハツハツハ……琴にならぬうちに、おさらばだよ、森よ森よ、さよなら――と!」 「真面目かと思へば冗談で、冗談かと思へば生真面目で、転がせ/\、この樽を――だ、ハツハツハツ……」 「泣いて呉れるなヨ、出船の邪魔だヨ……」 「今日は黒パン、明日は白パン、兵士の歌だよ、白い娘と黒いパン、黒い娘と白いパン、どんどん行け行け鉄砲かついで――」  私

黄昏の堤牧野信一10分以内3,851

一  小樽は、読みかけてゐるギリシヤ悲劇の中途で幾つかの語学に就いての知識を借りなければならないことになつて、急に支度を整へて出かけた。

一  小樽は、読みかけてゐるギリシヤ悲劇の中途で幾つかの語学に就いての知識を借りなければならないことになつて、急に支度を整へて出かけた。

断唱牧野信一10分以内3,456

*  父が若い時にあつめた“Cook book”の文庫のうちに“American's popular Cook book”といふ、表紙にブルクリン橋の写真のついた、大きい本で重くて気の毒だが、画布のやうな布で作られてゐる本があるから、此処に寄る時にそれを持つて来て呉れないかといふことを私は、弟に言伝てた。

*  父が若い時にあつめた“Cook book”の文庫のうちに“American's popular Cook book”といふ、表紙にブルクリン橋の写真のついた、大きい本で重くて気の毒だが、画布のやうな布で作られてゐる本があるから、此処に寄る時にそれを持つて来て呉れないかといふことを私は、弟に言伝てた。

東京駅にて感想牧野信一10分以内3,162

一  久しい間辺卑な田舎で暮した上句なので、斯うして東京に来て見ると僕は、何を見ても、何処を訪れても、面白く、刺戟が爽かで、愉快で/\、毎日々々天気さへ好ければピヨン/\と出歩いて寧日なき楽天家だ、金貨だつて? そいつはまあ無い日の方が多いけれど、無ければ無いで公園を散歩する、スポーツを見物する、友達のところからオートバイを借りて来て矢鱈に街中を駆け廻つて、気分を晴し、同時に見聞を広める……。

一  久しい間辺卑な田舎で暮した上句なので、斯うして東京に来て見ると僕は、何を見ても、何処を訪れても、面白く、刺戟が爽かで、愉快で/\、毎日々々天気さへ好ければピヨン/\と出歩いて寧日なき楽天家だ、金貨だつて? そいつはまあ無い日の方が多いけれど、無ければ無いで公園を散歩する、スポーツを見物する、友達のところからオートバイを借りて来て矢鱈に街中を駆け廻つて、気分を晴し、同時に見聞を広める……。

波の戯れ牧野信一10分以内2,654

春、二三日のこと  春だつた――といふだけのことである。

春、二三日のこと  春だつた――といふだけのことである。

馬上の春牧野信一10分以内2,056

上  私たちが、その村に住んでゐたころ――では、今年の正月は、いつものやうに朝から晩まで酒を飲んでは議論をしたり喧嘩をしたりしてゐても止め度がないから、 「今年はひとつ――」  と、私達の伊達好みの戯談好きの村長が提言しました。

上  私たちが、その村に住んでゐたころ――では、今年の正月は、いつものやうに朝から晩まで酒を飲んでは議論をしたり喧嘩をしたりしてゐても止め度がないから、 「今年はひとつ――」  と、私達の伊達好みの戯談好きの村長が提言しました。

寄生木と縄梯子牧野信一10分以内2,284

「ヤドリ木――知つてゐますか?」 「……知らんのう、実物を見たら、あゝ、これか――と思ふかも知んないが……ヤドリ木? 聞いたこともない。」  誰に訊ねても同じ返答ばかりであつた。

「ヤドリ木――知つてゐますか?」 「……知らんのう、実物を見たら、あゝ、これか――と思ふかも知んないが……ヤドリ木? 聞いたこともない。」  誰に訊ねても同じ返答ばかりであつた。

山を降る一隊牧野信一5分以内1,615

「メートル係り。」  それが私の仕事である。

「メートル係り。」  それが私の仕事である。

鎧の挿話牧野信一5分以内1,545

五人力と称ばれてゐる無頼漢の大川九郎が今日はまた大酒を呑んで、店で暴れてゐる――と悲しさうな顔で居酒屋の娘が、私の家に逃げて来た夕暮時に、恰度私の家では土用干の品々を片附けてゐたところで、そして私は戯れに鎧を着、鉄の兜を被つて、ふざけてゐたところだつた。

五人力と称ばれてゐる無頼漢の大川九郎が今日はまた大酒を呑んで、店で暴れてゐる――と悲しさうな顔で居酒屋の娘が、私の家に逃げて来た夕暮時に、恰度私の家では土用干の品々を片附けてゐたところで、そして私は戯れに鎧を着、鉄の兜を被つて、ふざけてゐたところだつた。

ガール・シヤイ挿話牧野信一5分以内1,899

僕(理科大学生)は、さつき玄関でチラリと娘の姿を見たばかりで一途にカーツと全身の血潮が逆上してしまつて(註、ガール・シヤイを翻訳すれば、美しい女を見ると無性に気恥かしくなつて口が聞けなくなる病――とでも云ふべきであらう。)慌てゝ自分の部屋へ逃げ込んでしまつた。

僕(理科大学生)は、さつき玄関でチラリと娘の姿を見たばかりで一途にカーツと全身の血潮が逆上してしまつて(註、ガール・シヤイを翻訳すれば、美しい女を見ると無性に気恥かしくなつて口が聞けなくなる病――とでも云ふべきであらう。)慌てゝ自分の部屋へ逃げ込んでしまつた。

サンニー・サイド・ハウス牧野信一30分以内4,074

………………  火をいれた誘蛾灯が机の上に置いてあります。

………………  火をいれた誘蛾灯が机の上に置いてあります。

ビルヂングと月牧野信一10分以内2,702

酒が宴の途中で切れると、登山嚢を背にして、馬を借りだし、峠を越えて村の宿場まで赴かなければならない。

酒が宴の途中で切れると、登山嚢を背にして、馬を借りだし、峠を越えて村の宿場まで赴かなければならない。

ピエル・フオン訪問記牧野信一10分以内3,514

一  R村のピエル・フオンの城主を夏の間に訪問する約束だつたが、貧しい生活にのみ囚はれてゐる私は、決してそれだけの余暇を見出す事が出来ずにゐる間に、世は晩秋の薄ら寂しい候であつた。

一  R村のピエル・フオンの城主を夏の間に訪問する約束だつたが、貧しい生活にのみ囚はれてゐる私は、決してそれだけの余暇を見出す事が出来ずにゐる間に、世は晩秋の薄ら寂しい候であつた。

ファティアの花鬘牧野信一10分以内2,413

一  私は卓子の上に飛びあがると、コップを持つた腕を勢ひ好く振りあげた――酒は天井にはねあがつた。

一  私は卓子の上に飛びあがると、コップを持つた腕を勢ひ好く振りあげた――酒は天井にはねあがつた。

ブロンズまで牧野信一30分以内4,789

追跡の話  Dと村長がR子のことで月夜の晩に川べりの茶屋で格闘を演じた。

追跡の話  Dと村長がR子のことで月夜の晩に川べりの茶屋で格闘を演じた。

ランプの便り牧野信一30分以内4,241

一 「おや/\、もうランプを点ける頃なの、何とまあ日が短いことだらうね。」  すつかり掃除を済してピカ/\とする台ランプを抱へたユキ子が、静かに私の部屋に入つて来たのを見て私は、驚きの眼を視張つて云ひました。

一 「おや/\、もうランプを点ける頃なの、何とまあ日が短いことだらうね。」  すつかり掃除を済してピカ/\とする台ランプを抱へたユキ子が、静かに私の部屋に入つて来たのを見て私は、驚きの眼を視張つて云ひました。

鸚鵡のゐる部屋牧野信一30分以内4,301

一  フロラが飼つてゐる鸚鵡は、好く人に慣れてゐて籠から出してやると、あちこちの部屋をヨタヨタと散歩したり、階段を滑稽な脚どりで昇り降りしたりするが、 「お早う」も、 「今日は――」も知らなかつた。

一  フロラが飼つてゐる鸚鵡は、好く人に慣れてゐて籠から出してやると、あちこちの部屋をヨタヨタと散歩したり、階段を滑稽な脚どりで昇り降りしたりするが、 「お早う」も、 「今日は――」も知らなかつた。

階段牧野信一30分以内6,273

一  川瀬美奈子――。

一  川瀬美奈子――。

海路牧野信一30分以内4,683

「登志さん、果物でも持つて行つたらどうなの、雑誌ばかり読んでゐないで……」  ナイフや皿の用意をととのへながら、母は登志子を促した。

「登志さん、果物でも持つて行つたらどうなの、雑誌ばかり読んでゐないで……」  ナイフや皿の用意をととのへながら、母は登志子を促した。

川を遡りて牧野信一30分以内4,398

私たちは、その村で一軒の農家を借りうけ、そして裏山の櫟林の中腹にテントを張り、どちらが母屋であるか差別のつかぬ如き出放題な原始生活を送つてゐた。

私たちは、その村で一軒の農家を借りうけ、そして裏山の櫟林の中腹にテントを張り、どちらが母屋であるか差別のつかぬ如き出放題な原始生活を送つてゐた。

疑惑の城牧野信一10分以内3,195

――嘘をつくな、試みに君の手鏡を執りあげて見給へ、君の容色は日増に蒼ざめてゆくではないか、吾等は宇宙の真理のために、そしてまた君が若し芸術に志すならば、芸術のために蒼ざめるべきではないか――。

――嘘をつくな、試みに君の手鏡を執りあげて見給へ、君の容色は日増に蒼ざめてゆくではないか、吾等は宇宙の真理のために、そしてまた君が若し芸術に志すならば、芸術のために蒼ざめるべきではないか――。

繰舟で往く家牧野信一30分以内4,834

春来頻リニ到ル宋家の東 袖ヲ垂レ懐ヲ開キテ好風ヲ待ツ  艪を漕ぐのには川底が浅すぎる、棹をさすのには流れが速すぎる――そのやうな川を渡るために、岸から岸へ綱を引き、乗手は綱を手繰つて舟をすすめる、これを繰舟の渡しと称ふ。

春来頻リニ到ル宋家の東 袖ヲ垂レ懐ヲ開キテ好風ヲ待ツ  艪を漕ぐのには川底が浅すぎる、棹をさすのには流れが速すぎる――そのやうな川を渡るために、岸から岸へ綱を引き、乗手は綱を手繰つて舟をすすめる、これを繰舟の渡しと称ふ。

凩日記牧野信一30分以内4,145

*  心象の飛躍を索め、生活の変貌を翹望する――斯ういふ意味のことは口にしたり記述されたりする場合に接すると多く無稽感を誘はれるものだが、真実に人の胸底に巣喰ふ左様な憧憬や苦悶は最も原始的に多彩な強烈さを持つて蟠居する渦巻であらう。

*  心象の飛躍を索め、生活の変貌を翹望する――斯ういふ意味のことは口にしたり記述されたりする場合に接すると多く無稽感を誘はれるものだが、真実に人の胸底に巣喰ふ左様な憧憬や苦悶は最も原始的に多彩な強烈さを持つて蟠居する渦巻であらう。

山峡の村にて牧野信一30分以内4,296

一  その村は、東京から三時間もかゝらぬ遠さであり、私が長い間住なれたところであつたが私は最早まる一年も帰らなかつた。

一  その村は、東京から三時間もかゝらぬ遠さであり、私が長い間住なれたところであつたが私は最早まる一年も帰らなかつた。

祝福された星の歌牧野信一30分以内4,234

一  麓の村から五哩あまり、馬の背で踏み入る森林地帯の山奥――苔むした岩々の間を、隠花植物の影を浮べて、さんさんと流れる谿川のほとりに営まれた伐木工場の丸木小屋の事務所に、その頃私はアメリカ生れのフロラと共に働いてゐました。

一  麓の村から五哩あまり、馬の背で踏み入る森林地帯の山奥――苔むした岩々の間を、隠花植物の影を浮べて、さんさんと流れる谿川のほとりに営まれた伐木工場の丸木小屋の事務所に、その頃私はアメリカ生れのフロラと共に働いてゐました。

心象風景牧野信一60分以内14,873

一  槌で打たなければ、切り崩せない堅さの土塊であつた。

一  槌で打たなければ、切り崩せない堅さの土塊であつた。