谷崎潤一郎の全作品

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作品名著者読了時間文字数人気書き出し
春琴抄谷崎潤一郎1時間〜46,467

○ 春琴、ほんとうの名は鵙屋琴、大阪道修町の薬種商の生れで歿年は明治十九年十月十四日、墓は市内下寺町の浄土宗の某寺にある。

○ 春琴、ほんとうの名は鵙屋琴、大阪道修町の薬種商の生れで歿年は明治十九年十月十四日、墓は市内下寺町の浄土宗の某寺にある。

陰翳礼讃谷崎潤一郎1時間〜31,012

○  今日、普請道楽の人が純日本風の家屋を建てて住まおうとすると、電気や瓦斯や水道等の取附け方に苦心を払い、何とかしてそれらの施設が日本座敷と調和するように工夫を凝らす風があるのは、自分で家を建てた経験のない者でも、待合料理屋旅館等の座敷へ這入ってみれば常に気が付くことであろう。

○  今日、普請道楽の人が純日本風の家屋を建てて住まおうとすると、電気や瓦斯や水道等の取附け方に苦心を払い、何とかしてそれらの施設が日本座敷と調和するように工夫を凝らす風があるのは、自分で家を建てた経験のない者でも、待合料理屋旅館等の座敷へ這入ってみれば常に気が付くことであろう。

痴人の愛谷崎潤一郎1時間〜181,823

一 私はこれから、あまり世間に類例がないだろうと思われる私達夫婦の間柄に就いて、出来るだけ正直に、ざっくばらんに、有りのままの事実を書いて見ようと思います。

一 私はこれから、あまり世間に類例がないだろうと思われる私達夫婦の間柄に就いて、出来るだけ正直に、ざっくばらんに、有りのままの事実を書いて見ようと思います。

刺青谷崎潤一郎30分以内5,716

其れはまだ人々が「愚」と云う貴い徳を持って居て、世の中が今のように激しく軋み合わない時分であった。

其れはまだ人々が「愚」と云う貴い徳を持って居て、世の中が今のように激しく軋み合わない時分であった。

細雪谷崎潤一郎1時間〜153,930

一 「こいさん、頼むわ。―――」 鏡の中で、廊下からうしろへ這入って来た妙子を見ると、自分で襟を塗りかけていた刷毛を渡して、其方は見ずに、眼の前に映っている長襦袢姿の、抜き衣紋の顔を他人の顔のように見据えながら、 「雪子ちゃん下で何してる」 と、幸子はきいた。

一 「こいさん、頼むわ。―――」 鏡の中で、廊下からうしろへ這入って来た妙子を見ると、自分で襟を塗りかけていた刷毛を渡して、其方は見ずに、眼の前に映っている長襦袢姿の、抜き衣紋の顔を他人の顔のように見据えながら、 「雪子ちゃん下で何してる」 と、幸子はきいた。

秘密谷崎潤一郎60分以内14,618

その頃私は或る気紛れな考から、今迄自分の身のまわりを裹んで居た賑やかな雰囲気を遠ざかって、いろいろの関係で交際を続けて居た男や女の圏内から、ひそかに逃れ出ようと思い、方々と適当な隠れ家を捜し求めた揚句、浅草の松葉町辺に真言宗の寺のあるのを見附けて、ようよう其処の庫裡の一と間を借り受けることになった。

その頃私は或る気紛れな考から、今迄自分の身のまわりを裹んで居た賑やかな雰囲気を遠ざかって、いろいろの関係で交際を続けて居た男や女の圏内から、ひそかに逃れ出ようと思い、方々と適当な隠れ家を捜し求めた揚句、浅草の松葉町辺に真言宗の寺のあるのを見附けて、ようよう其処の庫裡の一と間を借り受けることになった。

卍谷崎潤一郎1時間〜133,823

その一  先生、わたし今日はすっかり聞いてもらうつもりで伺いましたのんですけど、折角お仕事中のとこかまいませんですやろか? それはそれは詳しいに申し上げますと実に長いのんで、ほんまにわたし、せめてもう少し自由に筆動きましたら、自分でこの事何から何まで書き留めて、小説のような風にまとめて、先生に見てもらおうか思たりしましたのんですが、……実はこないだ中ひょっと書き出して見ましたのんですが、何しろ事

その一  先生、わたし今日はすっかり聞いてもらうつもりで伺いましたのんですけど、折角お仕事中のとこかまいませんですやろか? それはそれは詳しいに申し上げますと実に長いのんで、ほんまにわたし、せめてもう少し自由に筆動きましたら、自分でこの事何から何まで書き留めて、小説のような風にまとめて、先生に見てもらおうか思たりしましたのんですが、……実はこないだ中ひょっと書き出して見ましたのんですが、何しろ事

鍵谷崎潤一郎1時間〜98,988

一月一日。

一月一日。

少年谷崎潤一郎60分以内23,586

もう彼れ此れ二十年ばかりも前になろう。

もう彼れ此れ二十年ばかりも前になろう。

吉野葛谷崎潤一郎1時間〜36,974

その一 自天王 私が大和の吉野の奥に遊んだのは、既に二十年ほどまえ、明治の末か大正の初め頃のことであるが、今とは違って交通の不便なあの時代に、あんな山奥、―――近頃の言葉で云えば「大和アルプス」の地方なぞへ、何しに出かけて行く気になったか。

その一 自天王 私が大和の吉野の奥に遊んだのは、既に二十年ほどまえ、明治の末か大正の初め頃のことであるが、今とは違って交通の不便なあの時代に、あんな山奥、―――近頃の言葉で云えば「大和アルプス」の地方なぞへ、何しに出かけて行く気になったか。

蘆刈谷崎潤一郎1時間〜38,496

君なくてあしかりけりと思ふにも    いとゞ難波のうらはすみうき  まだおかもとに住んでいたじぶんのあるとしの九月のことであった。

君なくてあしかりけりと思ふにも    いとゞ難波のうらはすみうき  まだおかもとに住んでいたじぶんのあるとしの九月のことであった。

盲目物語谷崎潤一郎1時間〜74,243

わたくし生国は近江のくに長浜在でござりまして、たんじょうは天文にじゅう一ねん、みずのえねのとしでござりますから、当年は幾つになりまするやら。

わたくし生国は近江のくに長浜在でござりまして、たんじょうは天文にじゅう一ねん、みずのえねのとしでござりますから、当年は幾つになりまするやら。

瘋癲老人日記谷崎潤一郎1時間〜99,869

1 十六日。

1 十六日。

恐怖谷崎潤一郎30分以内6,243

私があの病気に取り憑かれたのは、何でも六月の初め、木屋町に宿泊して、毎日のように飲酒と夜更かしとを続けて居た前後であった。

私があの病気に取り憑かれたのは、何でも六月の初め、木屋町に宿泊して、毎日のように飲酒と夜更かしとを続けて居た前後であった。

細雪谷崎潤一郎1時間〜199,073

一 幸子は去年黄疸を患ってから、ときどき白眼の色を気にして鏡を覗き込む癖がついたが、あれから一年目で、今年も庭の平戸の花が盛りの時期を通り越して、よごれて来る季節になっていた。

一 幸子は去年黄疸を患ってから、ときどき白眼の色を気にして鏡を覗き込む癖がついたが、あれから一年目で、今年も庭の平戸の花が盛りの時期を通り越して、よごれて来る季節になっていた。

少将滋幹の母谷崎潤一郎1時間〜83,940

その一 此の物語はあの名高い色好みの平中のことから始まる。

その一 此の物語はあの名高い色好みの平中のことから始まる。

大切な雰囲気谷崎潤一郎5分以内694

人と人とが長い人生の行路に於いて偶然に行き遭い、相接触し、互いに感化を及ぼし、やがて再び別れ別れになって行く因縁を思うと、奇妙な感じがしないでもない。

人と人とが長い人生の行路に於いて偶然に行き遭い、相接触し、互いに感化を及ぼし、やがて再び別れ別れになって行く因縁を思うと、奇妙な感じがしないでもない。

蓼喰う虫谷崎潤一郎1時間〜111,516

その一 美佐子は今朝からときどき夫に「どうなさる? やっぱりいらっしゃる?」ときいてみるのだが、夫は例の孰方つかずなあいまいな返辞をするばかりだし、彼女自身もそれならどうと云う心持もきまらないので、ついぐずぐずと昼過ぎになってしまった。

その一 美佐子は今朝からときどき夫に「どうなさる? やっぱりいらっしゃる?」ときいてみるのだが、夫は例の孰方つかずなあいまいな返辞をするばかりだし、彼女自身もそれならどうと云う心持もきまらないので、ついぐずぐずと昼過ぎになってしまった。

途上谷崎潤一郎60分以内16,163

東京T・M株式会社員法学士湯河勝太郎が、十二月も押し詰まった或る日の夕暮の五時頃に、金杉橋の電車通りを新橋の方へぶらぶら散歩している時であった。

東京T・M株式会社員法学士湯河勝太郎が、十二月も押し詰まった或る日の夕暮の五時頃に、金杉橋の電車通りを新橋の方へぶらぶら散歩している時であった。

細雪谷崎潤一郎1時間〜230,220

一 雪子は二月の紀元節の日に関西へ来てから、三、四、五と、今度は殆ど四箇月も滞留するようなことになって、当人もいつ帰ろうと云う気もなくなったらしく、何となく蘆屋に根が生えてしまった形であったが、六月に入ると間もなく、珍しいことに東京の姉から縁談を一つ知らせて来た。

一 雪子は二月の紀元節の日に関西へ来てから、三、四、五と、今度は殆ど四箇月も滞留するようなことになって、当人もいつ帰ろうと云う気もなくなったらしく、何となく蘆屋に根が生えてしまった形であったが、六月に入ると間もなく、珍しいことに東京の姉から縁談を一つ知らせて来た。

金色の死谷崎潤一郎60分以内22,985

一 岡村君は私の少年時代からの友人でした。

一 岡村君は私の少年時代からの友人でした。

紀伊国狐憑漆掻語谷崎潤一郎30分以内9,140

漆掻きと云ったって都会の人は御存知ないかも知れませんが、山の中へ這入って行って漆の樹からうるしの汁をしぼるんです。

漆掻きと云ったって都会の人は御存知ないかも知れませんが、山の中へ這入って行って漆の樹からうるしの汁をしぼるんです。

三人法師谷崎潤一郎60分以内18,398

世に「三人法師」と云う物語がある。

世に「三人法師」と云う物語がある。

二人の稚児谷崎潤一郎60分以内17,909

二人の稚児は二つ違いの十三に十五であった。

二人の稚児は二つ違いの十三に十五であった。

「細雪」回顧谷崎潤一郎10分以内3,503

私が「細雪」の稿を起したのは太平洋戦争が勃発した翌年、即ち昭和十七年のことである。

私が「細雪」の稿を起したのは太平洋戦争が勃発した翌年、即ち昭和十七年のことである。

覚海上人天狗になる事谷崎潤一郎10分以内3,369

○ 南勝房法語にいう、「南ガ云ハク十界ニ於テ執心ナキガ故ニ九界ノ間ニアソビアルクホドニ念々ノ改変ニ依テ依身ヲ受クル也、サヤウニナリヌレバ十界住不住自在也、………密号名字ヲ知レバ鬼畜修羅ノ棲メルモ密厳浄土也、フタリ枕ヲナラベテネタルニヒトリハ悪夢ヲ見独リハ善夢ヲ見ルガ如シ、………凡心ヲ転ズレバ業縛ノ依身即チ所依住ノ正報ノ淨土也、其ノ住処モ亦此クノ如シ、三僧祇ノ間ハ此ノ理ヲ知ランガタメニ修行シテ時節

○ 南勝房法語にいう、「南ガ云ハク十界ニ於テ執心ナキガ故ニ九界ノ間ニアソビアルクホドニ念々ノ改変ニ依テ依身ヲ受クル也、サヤウニナリヌレバ十界住不住自在也、………密号名字ヲ知レバ鬼畜修羅ノ棲メルモ密厳浄土也、フタリ枕ヲナラベテネタルニヒトリハ悪夢ヲ見独リハ善夢ヲ見ルガ如シ、………凡心ヲ転ズレバ業縛ノ依身即チ所依住ノ正報ノ淨土也、其ノ住処モ亦此クノ如シ、三僧祇ノ間ハ此ノ理ヲ知ランガタメニ修行シテ時節

武州公秘話谷崎潤一郎1時間〜108,156

[#ページの左右中央] [#改丁] 武州公秘話序 伝曰。

[#ページの左右中央] [#改丁] 武州公秘話序 伝曰。

幇間谷崎潤一郎30分以内11,927

明治三十七年の春から、三十八年の秋へかけて、世界中を騒がせた日露戦争が漸くポウツマス条約に終りを告げ、国力発展の名の下に、いろいろの企業が続々と勃興して、新華族も出来れば成り金も出来るし、世間一帯が何となくお祭りのように景気附いて居た四十年の四月の半ば頃の事でした。

明治三十七年の春から、三十八年の秋へかけて、世界中を騒がせた日露戦争が漸くポウツマス条約に終りを告げ、国力発展の名の下に、いろいろの企業が続々と勃興して、新華族も出来れば成り金も出来るし、世間一帯が何となくお祭りのように景気附いて居た四十年の四月の半ば頃の事でした。

猫と庄造と二人のをんな谷崎潤一郎1時間〜69,343

[#改ページ] [#改ページ] 福子さんどうぞゆるして下さい此の手紙雪ちやんの名借りましたけどほんたうは雪ちやんではありません、さう云ふたら無論貴女は私が誰だかお分りになつたでせうね、いえ/\貴女は此の手紙の封切つて開けたしゆん間「扨はあの女か」ともうちやんと気がおつきになるでせう、そしてきつと腹立てゝ、まあ失礼な、………友達の名前無断で使つて、私に手紙よこすとは何と云ふ厚かましい人と、お思ひに

[#改ページ] [#改ページ] 福子さんどうぞゆるして下さい此の手紙雪ちやんの名借りましたけどほんたうは雪ちやんではありません、さう云ふたら無論貴女は私が誰だかお分りになつたでせうね、いえ/\貴女は此の手紙の封切つて開けたしゆん間「扨はあの女か」ともうちやんと気がおつきになるでせう、そしてきつと腹立てゝ、まあ失礼な、………友達の名前無断で使つて、私に手紙よこすとは何と云ふ厚かましい人と、お思ひに

文房具漫談谷崎潤一郎10分以内3,951

* 私は久しい以前から万年筆を使つたことがなく、日本紙と西洋紙と、二た通り原稿用紙を作つておいて、日本紙の時は毛筆、西洋紙の時は鉛筆を使ふやうにしてゐる。

* 私は久しい以前から万年筆を使つたことがなく、日本紙と西洋紙と、二た通り原稿用紙を作つておいて、日本紙の時は毛筆、西洋紙の時は鉛筆を使ふやうにしてゐる。

聞書抄谷崎潤一郎1時間〜77,047

[#改ページ] [#改ページ] その一 改定史籍集覧第十三冊別記類の中に載っている豊内記と云う書は、一名を秀頼事記と云い、大坂の滅亡を見届けた高木仁右衛門入道宗夢の物語を、桑原求徳が書き集めたものであると云うが、同書上巻の一節に石田三成が嫡子隼人正重家の後日譚が見えている。

[#改ページ] [#改ページ] その一 改定史籍集覧第十三冊別記類の中に載っている豊内記と云う書は、一名を秀頼事記と云い、大坂の滅亡を見届けた高木仁右衛門入道宗夢の物語を、桑原求徳が書き集めたものであると云うが、同書上巻の一節に石田三成が嫡子隼人正重家の後日譚が見えている。

猫と庄造と二人のおんな谷崎潤一郎1時間〜68,710

福子さんどうぞゆるして下さいこの手紙雪ちゃんの名借りましたけどほんとうは雪ちゃんではありません、そう云うたら無論貴女は私が誰だかお分りになったでしょうね、いえいえ貴女はこの手紙の封切って開けたしゅん間「さてはあの女か」ともうちゃんと気がおつきになるでしょう、そしてきっと腹立てて、まあ失礼な、………友達の名前無断で使って、私に手紙よこすとは何と云う厚かましい人と、お思いになるでしょう、でも福子さん察

福子さんどうぞゆるして下さいこの手紙雪ちゃんの名借りましたけどほんとうは雪ちゃんではありません、そう云うたら無論貴女は私が誰だかお分りになったでしょうね、いえいえ貴女はこの手紙の封切って開けたしゅん間「さてはあの女か」ともうちゃんと気がおつきになるでしょう、そしてきっと腹立てて、まあ失礼な、………友達の名前無断で使って、私に手紙よこすとは何と云う厚かましい人と、お思いになるでしょう、でも福子さん察

泉先生と私谷崎潤一郎5分以内1,930

私事にわたることを云ふのは寔に恐縮であるが、泉先生は文壇に於ける大先輩であるのみならず、此の春私の娘が結婚するときに媒酌の労を取つて下すつたので、さう云ふ私交上でも一方ならぬ御厄介になつた。

私事にわたることを云ふのは寔に恐縮であるが、泉先生は文壇に於ける大先輩であるのみならず、此の春私の娘が結婚するときに媒酌の労を取つて下すつたので、さう云ふ私交上でも一方ならぬ御厄介になつた。

阪神見聞録谷崎潤一郎10分以内3,359

○  大阪の人は電車の中で、平氣で子供に小便をさせる人種である、――と、かう云つたらば東京人は驚くだらうが、此れは嘘でも何でもない。

○  大阪の人は電車の中で、平氣で子供に小便をさせる人種である、――と、かう云つたらば東京人は驚くだらうが、此れは嘘でも何でもない。

文壇昔ばなし谷崎潤一郎30分以内9,845

○  昔、徳田秋声老人が私にいったことがあった、「紅葉山人が生きていたら、君はさぞ紅葉さんに可愛がられたことだろうな」と。

○  昔、徳田秋声老人が私にいったことがあった、「紅葉山人が生きていたら、君はさぞ紅葉さんに可愛がられたことだろうな」と。

二月堂の夕谷崎潤一郎10分以内2,912

奈良の二月堂のお堂の下で、大勢の見物人が垣を作つて一人の婆さんの踊りを踊るのを眺めてゐる。

奈良の二月堂のお堂の下で、大勢の見物人が垣を作つて一人の婆さんの踊りを踊るのを眺めてゐる。

母を恋うる記谷崎潤一郎60分以内18,564

いにしへに恋ふる鳥かもゆづる葉の      三井の上よりなき渡り行く            ―――万葉集――― ………空はどんよりと曇って居るけれど、月は深い雲の奥に呑まれて居るけれど、それでも何処からか光が洩れて来るのであろう、外の面は白々と明るくなって居るのである。

いにしへに恋ふる鳥かもゆづる葉の      三井の上よりなき渡り行く            ―――万葉集――― ………空はどんよりと曇って居るけれど、月は深い雲の奥に呑まれて居るけれど、それでも何処からか光が洩れて来るのであろう、外の面は白々と明るくなって居るのである。

戯曲体小説 真夏の夜の恋谷崎潤一郎30分以内6,268

人物 山内滋   山内博士の子息 松本文造  薬局の書生 黛夢子   歌劇女優 黛薫    夢子の妹 歌劇女優 滋の父   医学博士 浅草厩橋 山内病院の院長 滋の母 其の他浅草公園の俳優不良少年少女等数人及び病院の看護婦召使等 時      現代 所      浅草公園を中心とする区域 その一 薬局室 七月下旬の或る日の夕方、書生の松本文造と山内滋とが薬局の窓の所でこそ/\と話し合つ

人物 山内滋   山内博士の子息 松本文造  薬局の書生 黛夢子   歌劇女優 黛薫    夢子の妹 歌劇女優 滋の父   医学博士 浅草厩橋 山内病院の院長 滋の母 其の他浅草公園の俳優不良少年少女等数人及び病院の看護婦召使等 時      現代 所      浅草公園を中心とする区域 その一 薬局室 七月下旬の或る日の夕方、書生の松本文造と山内滋とが薬局の窓の所でこそ/\と話し合つ

客ぎらい谷崎潤一郎30分以内7,182

○  たしか寺田寅彦氏の随筆に、猫のしっぽのことを書いたものがあって、猫にあゝ云うしっぽがあるのは何の用をなすのか分らない、全くあれは無用の長物のように見える、人間の体にあんな邪魔物が附いていないのは仕合せだ、と云うようなことが書いてあるのを読んだことがあるが、私はそれと反対で、自分にもあゝ云う便利なものがあったならば、と思うことがしば/\である。

○  たしか寺田寅彦氏の随筆に、猫のしっぽのことを書いたものがあって、猫にあゝ云うしっぽがあるのは何の用をなすのか分らない、全くあれは無用の長物のように見える、人間の体にあんな邪魔物が附いていないのは仕合せだ、と云うようなことが書いてあるのを読んだことがあるが、私はそれと反対で、自分にもあゝ云う便利なものがあったならば、と思うことがしば/\である。

純粋に「日本的」な「鏡花世界」谷崎潤一郎5分以内1,422

正直に云つて、晩年の鏡花先生は時代に取り残されたと云ふ感がないではなかつた。

正直に云つて、晩年の鏡花先生は時代に取り残されたと云ふ感がないではなかつた。

青春物語谷崎潤一郎5分以内860

○「青春物語」は昨秋以来約半歳に亙り、最初の一回を「青春物語」第二回以後を「若き日のことども」と題して中央公論へ連載した作者の青春回想記である。

○「青春物語」は昨秋以来約半歳に亙り、最初の一回を「青春物語」第二回以後を「若き日のことども」と題して中央公論へ連載した作者の青春回想記である。

Dream Tales谷崎潤一郎5分以内1,356

○ 東京座の一と幕見が非常な大入で、場内へギツシリ詰まつた黒山のやうな見物人の波をウムと力んで背中で堰き止めながら、前列に居る私は、一生懸命鉄棒に掴まつて居た。

○ 東京座の一と幕見が非常な大入で、場内へギツシリ詰まつた黒山のやうな見物人の波をウムと力んで背中で堰き止めながら、前列に居る私は、一生懸命鉄棒に掴まつて居た。

青春物語谷崎潤一郎1時間〜73,421

大貫晶川、恒川陽一郎、並びに萬龍夫人のこと 十年たてば一と昔と云ふが、私が初めて文壇へ出てからもう彼れ此れ二十三四年になる。

大貫晶川、恒川陽一郎、並びに萬龍夫人のこと 十年たてば一と昔と云ふが、私が初めて文壇へ出てからもう彼れ此れ二十三四年になる。

日本に於けるクリップン事件谷崎潤一郎30分以内10,308

クラフト・エビングによって「マゾヒスト」と名づけられた一種の変態性慾者は、いうまでもなく異性に虐待されることに快感を覚える人々である。

クラフト・エビングによって「マゾヒスト」と名づけられた一種の変態性慾者は、いうまでもなく異性に虐待されることに快感を覚える人々である。

蘿洞先生谷崎潤一郎30分以内7,687

A雑誌の訪問記者は、蘿洞先生に面会するのは今日が始めてなのである。

A雑誌の訪問記者は、蘿洞先生に面会するのは今日が始めてなのである。

The Affair of Two Watches谷崎潤一郎60分以内13,286

何でも十二月の末の、とある夕暮の事だった。

何でも十二月の末の、とある夕暮の事だった。

小僧の夢谷崎潤一郎1時間〜30,553

(一)の一 ………己は名前を庄太郎と云って、今年十六歳になる商店の小僧だ。

(一)の一 ………己は名前を庄太郎と云って、今年十六歳になる商店の小僧だ。

小さな王国谷崎潤一郎60分以内23,951

貝島昌吉がG県のM市の小学校へ転任したのは、今から二年ばかり前、ちょうど彼が三十六歳の時である。

貝島昌吉がG県のM市の小学校へ転任したのは、今から二年ばかり前、ちょうど彼が三十六歳の時である。

人魚の嘆き谷崎潤一郎60分以内18,705

むかし/\、まだ愛親覚羅氏の王朝が、六月の牡丹のやうに栄え耀いて居た時分、支那の大都の南京に孟世※と云ふ、うら若い貴公子が住んで居ました。

むかし/\、まだ愛親覚羅氏の王朝が、六月の牡丹のやうに栄え耀いて居た時分、支那の大都の南京に孟世※と云ふ、うら若い貴公子が住んで居ました。

続蘿洞先生谷崎潤一郎30分以内8,645

例の蘿洞先生が近頃奥さんを貰ったと云う噂がある。

例の蘿洞先生が近頃奥さんを貰ったと云う噂がある。