5分以内で読める青空文庫の短編作品
青空文庫で公開されているすべての著者の作品の中で、おおよその読了目安時間が「5分以内」の短編作品を、おすすめ人気順で表示しています。
作品名 | 著者 | 読了時間 | 人気 |
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青空文庫で公開されているすべての著者の作品の中で、おおよその読了目安時間が「5分以内」の短編作品を、おすすめ人気順で表示しています。
作品名 | 著者 | 読了時間 | 人気 |
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作品名 | 著者 | 読了時間 | 人気 |
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駅長 | 宮沢賢治 | 5分以内 | |
ことことと行く汽車のはて温石いしの萱山の上にひとつの松ありてあるいは雷にうたれしや三角標にまがへりと大上段に真鍮の棒をかざしてさまよへりごみのごとくにあきつとぶ高圧線のま下にて秋をさびしき白服の酒くせあしき土木技手いましも汽車を避け了へてこなたへ来るといまははた急ぎガラスを入りにけり。 | |||
〔こはドロミット洞窟の〕 | 宮沢賢治 | 5分以内 | |
こはドロミット洞窟のけ寒く硬き床なるを幾箇の環を嵌められし巨人の白き隻脚ぞかくて十二の十年は事なきさまに燃え過ぐる。 | |||
秘境 | 宮沢賢治 | 5分以内 | |
漢子称して秘処といふその崖上にたどりしに樺柏に囲まれてはうきだけこそうち群れぬ漢子首巾をきと結ひて黄ばめるものは熟したりなはそを集へわれはたゞ白きを得んと気おひ云ふ漢子が黒き双の脚大コムパスのさまなして草地の黄金をみだるれば峯の火口に風鳴りぬ漢子は蕈を山と負ひ首巾をやゝにめぐらしつ東に青き野をのぞみにと笑みにつゝ先立ちぬ。 | |||
〔霜枯れのトマトの気根〕 | 宮沢賢治 | 5分以内 | |
霜枯れのトマトの気根その熟れぬ青き実をとり手に裂かばさびしきにほひほのぼのとそらにのぼりて翔け行くは二価アルコホール落ちくるは黒雲のひら。 | |||
〔雪とひのきの坂上に〕 | 宮沢賢治 | 5分以内 | |
雪とひのきの坂上に粗き板もてゴシックを辛く畳みて写真師の聖のねぐらを営みぬぼたと名づくる雪ふりていましめさけぶ橇のこらよきデュイエットうちふるひひかりて暮るゝガラス屋根。 | |||
〔鉛のいろの冬海の〕 | 宮沢賢治 | 5分以内 | |
鉛のいろの冬海の荒き渚のあけがたを家長は白きもんぱしてこらをはげまし急ぎくるひとりのうなゐ黄の巾をうちかづけるが足いたみやゝにおくるゝそのさまををとめは立ちて迎へゐる南はるかに亙りつゝ氷霧にけぶる丘丘はこぞはひでりのうちつゞきたえて稔りのなかりしを日はなほ東海ばらや黒棚雲の下にして褐砂に凍てし船の列いまだに夜をゆめむらし... | |||
小祠 | 宮沢賢治 | 5分以内 | |
赤き鳥居はあせたれど杉のうれ行く冬の雲野は殿堂の続きかなよくすかれたる日本紙は一年風に完けきと雪の反射に知りぬべしかしこは一の篩にてひとまづそこに香を浄み入り来るなりと云ひ伝ふ雪の堆のなかにしてりゝと軋れる井戸車野は楽の音に充つるかな。 | |||
対酌 | 宮沢賢治 | 5分以内 | |
嘆きあひ酌みかふひまに灯はとぼり雑木は昏れて滝やまた稜立つ巌や雪あめのひたに降りきぬ「ただかしこ淀むそらのみかくてわがふるさとにこそ」そのひとりかこちて哭けば狸とも眼はよぼみぬ「すだけるは孔雀ならずやああなんぞ南の鳥をここにして悲しましむる」酒ふくみひとりも泣きぬいくたびか鷹はすだきて手拭は雫をおとし... | |||
不軽菩薩 | 宮沢賢治 | 5分以内 | |
あらめの衣身にまとひ城より城をへめぐりつ上慢四衆の人ごとに菩薩は礼をなしたまふ(われは不軽ぞかれは慢こは無明なりしかもあれいましも展く法性と菩薩は礼をなし給ふ)われ汝等を尊敬す敢て軽賤なさざるは汝等作仏せん故と菩薩は礼をなし給ふ(こゝにわれなくかれもなしたゞ一乗の法界ぞ法界をこそ拝すれと菩薩は礼をなし給ふ)。 | |||
〔聖なる窓〕 | 宮沢賢治 | 5分以内 | |
聖なる窓そらのひかりはうす青み汚点ある幕はひるがへるOh, my reverence!Sacred St. Window!。 | |||
〔われはダルケを名乗れるものと〕 | 宮沢賢治 | 5分以内 | |
われはダルケを名乗れるものとつめたく最後のわかれを交はし閲覧室の三階より白き砂をはるかにたどるこゝちにてその地下室に下り来りかたみに湯と水とを呑めりそのとき瓦斯のマントルはやぶれ焔は葱の華なせば網膜半ば奪はれてその洞黒く錯乱せりしかくてぞわれはその文にダルケと名乗る哲人と永久のわかれをなせるなり。 | |||
県道 | 宮沢賢治 | 5分以内 | |
鳥居の下の県道を砂塵おぼろにあとひきて青竹いろのトラック過ぐる枝垂の栗の下影に鳥獣戯画のかたちして相撲をとれる子らもあり。 | |||
〔かくまでに〕 | 宮沢賢治 | 5分以内 | |
かくまでに心をいたましむるは薄明穹の黒き血痕新らしき見習士官の肩章をつけなが恋敵笑ひ過ぐるを。 | |||
隼人 | 宮沢賢治 | 5分以内 | |
あかりつぎつぎ飛び行けば赭ら顔黒装束のその若者こゝろもそらに席に帰れり衢(まち)覆ふ膠朧光や夜の穹窿を見入りつゝ若者なみだうちながしたり大森をすぎてその若者ひそやかに写真をいだし見まもりにけりげに一夜写真をながめ泪ながし駅々の灯を迎へ送りぬ山山に白雲かゝり夜は明けて若者やゝに面をあげ田原の坂の地形を説けり赭ら顔黒装束のその隼人... | |||
〔せなうち痛み息熱く〕 | 宮沢賢治 | 5分以内 | |
せなうち痛み息熱く待合室をわが得るや白き羽せし淫れめのおごりてまなこうちつむりかなためぐれるベンチにはかつて獅子とも虎とも呼ばれいま歯を謝せし村長の頬明き孫の学生を侍童のさまに従へて手袋の手をかさねつゝいとつゝましく汽車待てる外の面俥の往来して雪もさびしくよごれたる二月の末のくれちかみ十貫二十五銭にていかんぞ工場立たんなどそのかみのシャツそのかみの外套を着... | |||
〔ひとひははかなくことばをくだし〕 | 宮沢賢治 | 5分以内 | |
ひとひははかなくことばをくだしゆふべはいづちの組合にても一車を送らんすべなどおもふさこそはこゝろのうらぶれぬるとたそがれさびしく車窓によれば外の面は磐井の沖積層を草火のけむりぞ青みてながる屈撓余りに大なるときは挫折の域にも至りぬべきをいままた怪しくせなうち熱り胸さへ痛むはかつての病ふたゝび来しやとひそかに経れば芽ばえぬ柳と残りの雪のなかばはいとしくなかばはかなしあるいは二列の... | |||
スタンレー探検隊に対する二人のコンゴー土人の演説 | 宮沢賢治 | 5分以内 | |
白人白人いづくへ行くやこゝを溯らば毒の滝がまは汝を膨らまし鰐は汝の手を食はんちがひなしちがひなしがまは汝の舌を抜き鰐は汝の手を食はん白人白人いづくへ行くやこゝより奥は暗の森藪は汝の足をとり蕈は汝を腐らさんちがひなしちがひなし藪は汝の足をとり蕈は汝を腐らさん白人白人いづくへ行くやこゝを昇らば熱の丘... | |||
敗れし少年の歌へる | 宮沢賢治 | 5分以内 | |
ひかりわななくあけぞらに清麗サフィアのさまなしてきみにたぐへるかの惑星のいま融け行くぞかなしけれ雪をかぶれるびやくしんや百の海岬いま明けてあをうなばらは万葉の古きしらべにひかれるを夜はあやしき積雲のなかより生れてかの星ぞさながらきみのことばもてわれをこととひ燃えけるをよきロダイトのさまなしてひかりわなゝくかのそらに溶け行くとしてひるがへるきみが星こそかなしけれ。 | |||
〔くもにつらなるでこぼこがらす〕 | 宮沢賢治 | 5分以内 | |
くもにつらなるでこぼこがらす杜のかなたを赤き電車のせはしき往来べつ甲めがねのメフェスト。 | |||
〔土をも掘らん汗もせん〕 | 宮沢賢治 | 5分以内 | |
土をも掘らん汗もせんまれには時に食まざらんさあれわれらはわれらなりながともがらといと遠しにくみいかりしこのことばいくそたびきゝいまもきゝやがてはさのみたゞさのみわが生き得んとうしなへるこゝろとくらきいたつきのさなかにわれもうなづきなんや。 | |||
〔あくたうかべる朝の水〕 | 宮沢賢治 | 5分以内 | |
あくたうかべる朝の水ひらととびかふつばくらめ苗のはこびの遅ければ熊ははぎしり雲を見る苗つけ馬を引ききたり露のすぎなの畔に立ち権は朱塗の盃をましろきそらにあふぐなり。 | |||
中尊寺〔二〕 | 宮沢賢治 | 5分以内 | |
白きそらいと近くしてみねの方鐘さらに鳴り青葉もて埋もる堂のひそけくも暮れにまぢかし僧ひとり縁にうちゐてふくれたるうなじめぐらし義経の彩ある像をゆびさしてそらごとを云ふ。 | |||
火渡り | 宮沢賢治 | 5分以内 | |
竜王の名をしるしたる紺の旗黄と朱の旗さうさうと焔はたちて葉桜の梢まばゆし布をもてひげをしばりし行者なほ呪をなしやめずにくさげに立ちて見まもる軍帽をかぶれる教師。 | |||
〔こゝろの影を恐るなと〕 | 宮沢賢治 | 5分以内 | |
こゝろの影を恐るなとまことにさなりさりながらこゝろの影のしばしなるそをこそ世界現実といふ。 | |||
〔モザイク成り〕 | 宮沢賢治 | 5分以内 | |
モザイク成り、佳人は窓より見るを何ぞ七面鳥の二所をけちらし窪めしや、何の花を移してこゝを埋めん然りたゞ七面鳥なんぢそこに座して動かざれ然り七面鳥動くも又可なりなんぢ事務長のひいきする花。 | |||
〔夕陽は青めりかの山裾に〕 | 宮沢賢治 | 5分以内 | |
夕陽は青めりかの山裾にひろ野はくらめりま夏の雲にかの町はるかの地平に消えておもかげほがらにわらひは遠しふたりぞたゞのみさちありなんとおもへば世界はあまりに暗くかのひとまことにさちありなんとまさしくねがへばこころはあかしいざ起てまことのをのこの恋にもの云ひもの読み苹果を喰めるひとびとまことのさちならざればまことのねがひは充ちしにあらぬ夕陽は青みて木立はひかりをちこちながるゝ草取... | |||
農学校歌 | 宮沢賢治 | 5分以内 | |
日ハ君臨シカガヤキハ白金ノ雨ソソギタリワレラハ黒キ土ニ俯シマコトノ草ノタネマケリ日ハ君臨シ穹窿ニミナギリ亙ス青ビカリ光ノ汗ヲ感ズレバ気圏ノキハミクマモナシ日ハ君臨シ玻璃ノマド清澄ニシテ寂カナリサアレヤミチヲ索メテハ白堊ノ霧モアビヌベシ日ハ君臨シカヾヤキノ太陽系ハマヒルナリケハシキ旅ノナカニシテワレラヒカリノミチヲフム。 | |||
〔島わにあらき潮騒を〕 | 宮沢賢治 | 5分以内 | |
島わにあらき潮騒をうつつの森のなかに聴き羊歯の葉しげき下蔭に青き椿の実をとりぬ南の風のくるほしく波のいぶきを吹き来れば百千鳥すだきわぶる三原の山に燃ゆる火のなかばは雲に鎖されぬ。 | |||
火の島 | 宮沢賢治 | 5分以内 | |
海鳴りのとゞろく日は船もより来ぬを火の山の燃え熾りて雲のながるゝ海鳴り寄せ来る椿の林にひねもす百合掘り今日もはてぬ。 | |||
〔廿日月かざす刃は音無しの〕 | 宮沢賢治 | 5分以内 | |
廿日月かざす刃は音無しの黒業ひろごるそらのひまその竜之介風もなき修羅のさかひを行き惑ひすゝきすがるゝいのじ原その雲のいろ日は沈み鳥はねぐらにかへれどもひとはかへらぬ修羅の旅その竜之介。 | |||
小熊秀雄と藤原運 | 槙村浩 | 5分以内 | |
サガレン。 | |||
森山啓に | 槙村浩 | 5分以内 | |
漠冥たる成層が旋律を地上で引き裂く私はあなたの健康がそれに耐え得るかを気遣ったこんな場合、あなたは物狂わしくなるにはあまりに古典的だそしてあなたのE線はひとりでに鳴ることを止め朽ちるまで鳴ることを止めようとした―――それは単に私の杞憂だったか困難な、漠冥たる成層の中で、あなたはまたE線を繋ぎ直した赤外や紫外や緑外を超えたその他一切の地下の光線をこだわりなく貫く無絃の琴をわれ/\は自らの内に奏でることを宣言するのに、あんなにも模索し合っ... | |||
ダッタン海峡 | 槙村浩 | 5分以内 | |
春の銀鼠色が朝の黒樺を南からさしのばした腕のように一直線に引っつかんで行く凍った褐色の堀割が、白いドローキの地平を一面に埋める―――ダッタン海峡!ふいに一匹の迷い栗鼠が雪林から海氷の割れ目え転げ落ちるとたん、半分浮絵になった銅チョコレート色の靄の中から、だ、だ、ただーんと大砲を打っ発した峡瀬をはさんで、一つの流れと海面からふき出した一つの島がある土人は黒龍江を平和の河と呼び、サハリンを平和の岩と呼んだかつて南北の帝国主義の凝岩がいがみ合... | |||
楡の花 | 中谷宇吉郎 | 5分以内 | |
私の今つとめている札幌の大学は、楡(にれ)(エルム)の樹で有名である。 | |||
老いたるえびのうた | 室生犀星 | 5分以内 | |
けふはえびのように悲しい角やらひげやらとげやら一杯生やしてゐるがどれが悲しがつてゐるのか判らない。 | |||
懸巣 | 室生犀星 | 5分以内 | |
何時か懸巣のことを本紙で書いたことがあるが、その後の彼女の真似声は一層種々につかい分けをして、殆ど、かぞえ切れないくらいである。 | |||
人真似鳥 | 室生犀星 | 5分以内 | |
懸巣は猛鳥で肉食鳥であるが、時々、爪を剪ってやるために籠から掴み出さなければならぬ。 | |||
プレスの操作に手工業を加味 | 豊田喜一郎 | 5分以内 | |
乘用車を製作するに當つて最も苦心を要するのはボデーのプレスの問題である。 | |||
ボデー意匠審査会 美術の粋を蒐め独特の形態美へ | 豊田喜一郎 | 5分以内 | |
わが社主催の乘用車車體設計懸賞作品審査會は六月廿日東京帝國ホテルに開催されたが晩餐會席上豐田常務、和田三造畫伯は夫々主客を代表して左の如き挨拶を交換、わが國自動車車體の將來に關し重大な示唆を與へた。 | |||
俳句 | 萩原朔太郎 | 5分以内 | |
○五月幟立つ家家の向うは海○暮鳥忌磯濱の煙わびしき年のくれ笹鳴笹鳴の日かげをくぐる庭の隅笹鳴や日脚のおそき縁の先○天城ごえ伊豆に入る日や遲櫻青梅に言葉すくなき別れ哉○青梅に言葉すくなき別れかな○冬日くれぬ思ひおこせや牡蠣の塚○我が心また新しく泣かんとす冬日暮れぬ... | |||
断調 | 萩原朔太郎 | 5分以内 | |
△寒水春なれば小椿おちて山吹の黄をもつ流その流背戸を走れるいまやせたり、木がらしの行方もしらにさはさはと音する枯草のひびき寂寞の影をやどせば敗れ岩ところどころに冬を行くいささ小川の悲しげなりや。 | |||
大江満雄に | 槙村浩 | 5分以内 | |
こゝに機械の哲学者がある―――彼は思考し、血潮の中に機械のどよめきをでなく、血潮と共に脈動する機械のリズムを感ずる彼ははつらつたる工場の諧調を背負うて、齟齬しながら鈍重に歩いて行くこゝに機械の哲学者がある―――彼は技師を宣言し、一切に正面照明を送る照明はゆかいに大大阪を漫歩する機械にまで虚偽を造る資本の虚偽と、百万の労働の精神とを透過し浮揚する二重性をもって、飢えた子供の胃のレントゲン絵にまで照入するこゝに機械の哲学者... | |||
毛利孟夫に | 槙村浩 | 5分以内 | |
これやこの毛利孟夫山間の獄にペンを撫し戦いに病める君が身を養わんと函数を釣り積分にゆあみしひねもす土地と資本の数字と符号の時空における不統一の空隙を逍遥する君のマルキシズムはかゝる隙間を埋むるに足れりどなお詩もて愛すべき膠着剤とせよ。 | |||
国産自動車と価格の問題 | 豊田喜一郎 | 5分以内 | |
如何に良い自動車が出來ても、高價で經濟的に使用出來ぬものでは役にたゝぬ。 | |||
感謝 | 萩原朔太郎 | 5分以内 | |
野のはて夕暮雲かへりてしだいに落ちくる夕雲雀の有心の調さへしづみゆけばかすかに頬(ほほ)うつ香ひありて夜の闇頒ちて幕くだる。 | |||
古盃 | 萩原朔太郎 | 5分以内 | |
小人若うて道に倦(う)んじ走りて隱者を得しが如く今われ山路の歸さ來つつ木蔭に形よき汝をえたり。 | |||
君が家 | 萩原朔太郎 | 5分以内 | |
ああ戀人の家なれば幾度そこを行ききずり空しくかへるたそがれの雲つれなきを恨みんや水は流れて南するゆかしき庭にそそげどもたが放ちたる花中の艶なる戀もしらでやは垣間み見ゆるほほづきの赤きを人の脣に情なくふくむ日もあらば悲しき子等はいかにせん例へば森に烏(からす)なき朝ざむ告ぐる冬の日もさびしき興に言よせて行く子ありとは知るやしらずやああ空しくて往來ずり... | |||
煤掃 | 萩原朔太郎 | 5分以内 | |
井桁古びた天井に鼠の夢を驚かして今朝年越しの煤拂ひ、主人七兵衞いそいそと店の小者を引具して事に堪ふべく見えにけり。 | |||
ゆく春 | 萩原朔太郎 | 5分以内 | |
おきつ邊かつ鳴る海青なぎ今手に動ずる胸をおせば哀愁ことごと浮び出でてたぎつ瀬涙の八千尋沼ああ世は神祕の影にみちて興ある歌もつ子等もあるに何をか若きに眉根ひそめ執着泣くべくえ堪へんや例へば人あり花に醉ひて秋雲流るる夕づつに樂觀すぎしを思ふ如く足ぶみせんなき煩ひかや信なき一人に戀しさで今年もさびしう春は行きぬ。 | |||
蛇苺 | 萩原朔太郎 | 5分以内 | |
實は成りぬ草葉かげ小やかに赤うして名も知らぬ實は成りぬ大空みれば日は遠しや輝輝たる夏の午さがり野路に隱(かく)れて唱ふもの魔よ名を蛇と呼ばれて拗者の呪ひ歌節なれぬ野に生ひて光なき身の運命悲しや世を逆に感じてはのろはれし夏の日を妖艷の蠱物と接吻交す蛇苺。 |