60分以内で読める青空文庫の中編作品

一、小さな幸福中学の課程すらも満足に了えていない今村謹太郎にとっては、浅野護謨会社事務員月給七十五円という現在の職業は、十分満足なものであった。

米と塩とは尼君が市に出で行きたまうとて、庵（いおり）に残したまいたれば、摩耶も予も餓うることなかるべし。

広告この数篇の文章は何人かの人々を論じたものである。

父は風琴を鳴らすことが上手であった。

私は妙なところからはじめます。

晩春の頃だった。

長屋の花見暮れも押し詰まった夜の浅草並木亭。

渠（かれ）は歩き出した。

明治倶楽部とて芝区桜田本郷町のお堀辺に西洋作の余り立派ではないが、それでも可なりの建物があった、建物は今でもある、しかし持主が代って、今では明治倶楽部その者はなくなって了った。

はしがきもの思う葦（あし）という題名にて、日本浪曼派の機関雑誌におよそ一箇年ほどつづけて書かせてもらおうと思いたったのには、次のような理由がある。

九月十一日広島尾道地方へ旅立つ日だ、出立が六時をすぎたので急ぐ、朝曇がだん／＼晴れて暑くなる、秋日はこたえる、汗が膏のやうに感じられるほどだ。

年紀は少いのに、よっぽど好きだと見えて、さもおいしそうに煙草を喫みつつ、……しかし烈しい暑さに弱って、身も疲れた様子で、炎天の並木の下に憩んでいる学生がある。

夫れ女子は男子に等しく生れて父母に養育せらるゝの約束なれば、其成長に至るまで両親の責任軽からずと知る可し。

田舎のメインストリートから私の住居は田舎の小都市ながらメインストリートに位している。

おけさ丸。

赤沢医師の経営する私立脳病院は、Ｍ市の郊外に近い小高い赭土山の上にこんもりした雑木林を背景に、火葬場へ行く道路を見下すようにして立っているのだが、それはもうかなり旧式の平屋建で立っていると云うよりは、なにか大きな蜘蛛でも這いつくばったという形だった。

清水幾太郎様だしぬけに手紙などさしあげて失礼ですが、あなたに何か質問してみよとの雑誌「群像」からの注文です。

骨董というのは元来支那の田舎言葉で、字はただその音を表わしているのみであるから、骨の字にも董の字にもかかわった義があるのではない。

坂の上の奥まったところにある春日荘は、普通に見かける安易なアパートであるが、三つの特色があった。

魂や情熱を嘲笑うことは非常に容易なことなので、私はこの年代に就て回想するのに幾たび迷ったか知れない。

此作は、名古屋刑務所長、佐藤乙二氏の、好意によって産れ得たことを附記す。

去年の夏、本間久雄君が早稲田文学で「民衆芸術の意義及び価値」を発表して以来、此の民衆芸術と云う問題が、僕の眼に触れただけでも、今日まで十余名の人々によって彼地此地で論ぜられている。

江戸っ子は他国の土を踏まないのを一種の誇りとしているので、大体に旅嫌いであるが、半七老人もやはりその一人で、若い時からよんどころない場合のほかには、めったに旅をしたことが無いそうである。

「いつかは弁天娘のお話をしましたから、きょうは鬼むすめのお話をしましょうか」と、半七老人は云った。

神信心という話の出たときに、半七老人は云った。

その頃、わたしはかなり忙がしい仕事を持っていたので、どうかすると三月も四月も半七老人のところへ御無沙汰することがあった。

明治三十二年の秋とおぼえている。

砂山を細く開いた、両方の裾が向いあって、あたかも二頭の恐しき獣の踞（うずくま）ったような、もうちっとで荒海へ出ようとする、路の傍に、崖に添うて、一軒漁師の小家がある。

なにかのことから大岡政談の話が出たときに、半七老人は云った。

八月はじめの朝、わたしが赤坂へたずねてゆくと、半七老人は縁側に薄縁をしいて、新聞を読んでいた。

「江戸時代の隠密というのはどういう役なんですね」と、ある時わたしは半七老人に訊（き）いた。

わたしがいつでも通される横六畳の座敷には、そこに少しく不釣合いだと思われるような大きい立派な額がかけられて、額には草書で『報恩額』と筆太にしるしてあった。

十月のなかばであった。

五月のはじめに赤坂をたずねると、半七老人は格子のまえに立って、稗蒔売の荷をひやかしていた。

「年代はたしかに覚えていませんが、あやつり芝居が猿若町から神田の筋違外の加賀ツ原へ引き移る少し前だと思っていますから、なんでも安政の末年でしたろう」と、半七老人は云った。

文久元年三月十七日の夕六ツ頃であった。

鶏林八道蹂躙之事対馬の宗義智が、いやがる朝鮮の使者を無理に勧説して連れて来たのは天正十八年七月である。

高志の大蛇を退治した素戔嗚は、櫛名田姫を娶（めと）ると同時に、足名椎が治めてゐた部落の長となる事になつた。

第一章序、戦争と明治の諸作家明治維新の変革以後、日本資本主義は、その軍事的であることを、最も大きな特色の一つとしながら発展した。

一、堕天女記湯の町Ｋと、汀から十丁の沖合にある鵯島との間に、半ば朽ちた、粗末な木橋が蜿蜒と架っている。

久し振りで半七老人に逢うと、それがまた病みつきになって、わたしはむやみに老人の話が聴きたくなった。

芝、田町の鋳掛屋庄五郎が川崎の厄除大師へ参詣すると云って家を出たのは、元治元年三月二十一日の暁方であった。

「また怪談ですかえ」と、半七老人は笑った。

「残念、残念。

「むかし者のお話はとかく前置きが長いので、今の若い方たちには小焦れったいかも知れませんが、話す方の身になると、やはり詳しく説明してかからないと何だか自分の気が済まないというわけですから、何も因果、まあ我慢してお聴きください」半七老人は例の調子で笑いながら話し出した。

四月のはじめに、わたしは赤坂をたずねた。

国際都市私たちは、暫くの間リスボンに滞在することになった。

一、タヌはコン吉に雀の説教。

奈汝何節山居士抑々男女室に居るは人の大倫であり、鰥寡孤独は四海の窮民である。

悪人ジャーナリズムの話平林たい子おどろいた。