60分以内で読める青空文庫の中編作品
青空文庫で公開されているすべての著者の作品の中で、おおよその読了目安時間が「60分以内」の中編作品を、おすすめ人気順で表示しています。
作品名 | 著者 | 読了時間 | 人気 |
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作品名 | 著者 | 読了時間 | 人気 |
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銭形平次捕物控 | 野村胡堂 | 60分以内 | |
「親分、良い陽氣ですね」ガラツ八の八五郎が、鼻の頭から襟へかけての汗を、肩に掛けた手拭の端つこで拭きながら、枝折戸を足で開けて、ノツソリと日南に立ちはだかるのでした。 | |||
銭形平次捕物控 | 野村胡堂 | 60分以内 | |
「親分、お早やう」飛込んで來たのは、お玉ヶ池の玉吉といふ中年者の下つ引でした。 | |||
銭形平次捕物控 | 野村胡堂 | 60分以内 | |
増田屋金兵衞、その晩は明るい内から庭に縁臺を持出させ、九月十三夜の後の月を、たつた一人で眺めることにきめました。 | |||
銭形平次捕物控 | 野村胡堂 | 60分以内 | |
「もう宜いかい」「まアだゞよ」子供達はまた、隱れん坊に夢中でした。 | |||
銭形平次捕物控 | 野村胡堂 | 60分以内 | |
「親分、ウフ、可笑しなことがありましたよ、ウへ、へ、へツへツ」ガラツ八の八五郎が、タガの弛(ゆる)んだ桶(をけ)のやうに、こみ上げる笑を噛みしめ噛みしめ、明神下の平次の家に入つて來ました。 | |||
銭形平次捕物控 | 野村胡堂 | 60分以内 | |
「八、大層ソワ/\してゐるぢやないか」錢形平次は煙草盆を引寄せて、食後の一服を樂しみ乍ら、柱に凭(もた)れたまゝ、入口の障子を開けて、眞つ暗な路地ばかり眺めてゐる、八五郎に聲を掛けました。 | |||
銭形平次捕物控 | 野村胡堂 | 60分以内 | |
二月のある日、歩いてゐると斯(か)う、額口の汗ばむやうな晝下がり、巣鴨からの野暮用の歸り、白山あたりへ辿りついた頃は、連の八五郎はもう、何んとなく御機嫌が斜めになつて居りました。 | |||
銭形平次捕物控 | 野村胡堂 | 60分以内 | |
「親分の前だが、女日照の國には、いろんな怪物がゐるんですね」八五郎がまた、親分の平次のところへ、世上の噂を持込んで來ました。 | |||
銭形平次捕物控 | 野村胡堂 | 60分以内 | |
「ところで親分はどう思ひます」「ところで――と來たね、一體何をどう思はせようてんだ。 | |||
銭形平次捕物控 | 野村胡堂 | 60分以内 | |
「親分、先刻から路地の中を、往つたり來たり、お百度を踏んでゐる女がありますが、ありや何でせう」八五郎は自分の肩越しに、煙管の吸口で格子の外を指すのです。 | |||
銭形平次捕物控 | 野村胡堂 | 60分以内 | |
「いやもう、驚いたの驚かねえの」八五郎がやつて來たのは、彼岸過ぎのある日の夕方、相變らず明神下の路地一パイに張り上げて、走りのニユースを響かせるのでした。 | |||
銭形平次捕物控 | 野村胡堂 | 60分以内 | |
「お早やうございます」花は散つたが、まだ申分なく春らしい薄靄のかゝつた或朝、ガラツ八の八五郎は、これも存分に機嫌の良い顏を、明神下の平次の家へ持込んで來ました。 | |||
銭形平次捕物控 | 野村胡堂 | 60分以内 | |
「親分、世間はたうとう五月の節句となりましたね」八五郎が感慨無量の聲を出すのです。 | |||
銭形平次捕物控 | 野村胡堂 | 60分以内 | |
「親分、この頃妙なものが流行るさうですね」八五郎がそんな話を持込んで來たのは、三月半ばの、丁度花もおしまひになりかけた頃、浮かれ氣分の江戸の町人達も、どうやら落着きを取戻して、仕事と商賣に精を出さうと言つた、殊勝な心掛になりかけた時分でした。 | |||
銭形平次捕物控 | 野村胡堂 | 60分以内 | |
「世の中に、金持ほど馬鹿なものはありませんね」「貧乏人は皆んな、そんな事を言ふよ、つまらねえ持句さ」平次と八五郎は、相變らず空茶に馬糞煙草で、いつものやうな掛け合ひを始めて居ります。 | |||
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「姐(ねえ)さん、谷中にお化けが出るんだが、こいつは初耳でせう」松が取れたばかり、世界はまだ屠蘇(とそ)臭いのに、空つ風に吹き寄せられたやうな恰好で、八五郎は庭木戸へ顎を載せるのでした。 | |||
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本郷妻戀町の娘横丁、――この邊に良い娘が多いから土地の若い衆が斯んな名で呼びましたが、何時の間にやら痴漢が横行して、若い娘の御難が多く、娘受難横丁と言ふべきを省略して娘横丁と、其儘の名で呼び慣はしました。 | |||
銭形平次捕物控 | 野村胡堂 | 60分以内 | |
「親分、御存じでせうね、あの話を」ガラツ八の八五郎が、獨り呑込みの話を持込んで來ました。 | |||
銭形平次捕物控 | 野村胡堂 | 60分以内 | |
「世の中には變つた野郎があるものですね、親分」ガラツ八の八五郎は、又何やら變つた噂を持つて來た樣子です。 | |||
銭形平次捕物控 | 野村胡堂 | 60分以内 | |
「羨ましい野郎があるもんですね、親分」夏の夜の縁先、危い縁臺を持ち出して、蚊を叩き乍ら、八五郎は斯んなことを言ふのです。 | |||
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「親分の前だが、あつしも今度ばかりは、二本差が羨ましくなりましたよ」ガラツ八の八五郎は、感にたへた聲を出すのでした。 | |||
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「親分、折入つてお願ひがあるんですが」ガラツ八の八五郎は、柄にもなく膝小僧を揃へて、斯う肩を下げ乍ら、小笠原流の貧乏搖ぎをやつて見せるのでした。 | |||
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「へツへツ、親分、今晩は」ガラツ八の八五郎、箍(たが)のはじけた桶のやうに手のつけやうの無い笑ひを湛(たゝ)へ乍ら、明神下の平次の家の格子を顎で――平次に言はせると――開けて入るのでした。 | |||
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「親分、松が除れたばかりのところへ、こんな話を持込んぢや氣の毒だが、玉屋に取つては、此上もない大難、――聽いてやつちや下さるまいか」町人乍ら諸大名の御用達を勤め、苗字帶刀まで許されてゐる玉屋金兵衞は、五十がらみの分別顏を心持翳(かげ)らせて斯う切出しました。 | |||
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「親分、何をして居なさるんで?」ガラツ八の八五郎は、庭口からヌツと長い顎を出しました。 | |||
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「八、居るかい」向う柳原、七曲の路地の奧、洗ひ張り、御仕立物と、紙に書いて張つた戸袋の下に立つて、平次は二階に聲を掛けました。 | |||
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浪人大澤彦四郎は、まことに評判の良い人でした。 | |||
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「へツ、へツ、親分え」ガラツ八の八五郎は、髷節で格子戸をあけて、――嘘をつきやがれ、髷節ぢや格子は開かねえ、俺のところは家賃がうんと溜つて居るから、表の格子だつて、建て付けが惡いんだからと――、錢形の平次は言やしません。 | |||
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「八、花は散り際つて言ふが、人出の少くなつた向島を、花吹雪を浴びて歩くのも惡くねえな」錢形平次は如何にも好い心持さうでした。 | |||
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かねやす迄を江戸のうちと言つた時代、巣鴨や大塚はそれから又一里も先の田舍で、田も畑も、武藏野の儘の木立も藪もあつた頃のことです。 | |||
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相變らず捕物の名人の錢形平次が大縮尻をやつて笹野新三郎に褒められた話。 | |||
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「あ、あ、あ、あ、あ」ガラツ八の八五郎は咽喉佛のみえるやうな大欠伸をしました。 | |||
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錢形平次もこんな突拍子もない事件に出つくはしたことはありません。 | |||
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芝三島町の學寮の角で、土地の遊び人疾風の綱吉といふのが殺されました。 | |||
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「旦那よ――たしかに旦那よ」「――」盲鬼になつた年増藝妓のお勢は、板倉屋伴三郎の袖を掴んで、斯う言ふのでした。 | |||
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「さあ大變だ、親分」ガラツ八の八五郎は、髷先で春風を掻(か)きわけるやうにすつ飛んで來ました。 | |||
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「わツ驚いた、ドブ板が陷穴になつて居るぜ。 | |||
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江戸開府以來の捕物の名人と言はれた錢形の平次は、春の陽が一杯に這ひ寄る貧しい六疊に寢そべつたまゝ、紛煙草をせゝつて遠音の鶯(うぐひす)に耳をすまして居りました。 | |||
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「親分」ガラツ八の八五郎が、泳ぐやうに飛込んで來たのは、江戸中の櫻が一ぺんに咲き揃つたやうな、生暖かくも麗らかな或日の朝のことでした。 | |||
銭形平次捕物控 | 野村胡堂 | 60分以内 | |
「親分、變な奴が來ましたよ」ガラツ八の八五郎は、長んがい顎を鳶口のやうに安唐紙へ引つ掛けて、二つ三つ瞬きをして見せました。 | |||
銭形平次捕物控 | 野村胡堂 | 60分以内 | |
「こいつは驚くぜ、親分」ガラツ八の八五郎は、相變らず素頓狂な聲を出し乍ら飛込んで來ました。 | |||
銭形平次捕物控 | 野村胡堂 | 60分以内 | |
飯田町の地主、朝田屋勘兵衞が死んで間もなく、その豪勢な家が、自火を出して一ぺんに燒けてしまつたことがあります。 | |||
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「親分、良い陽氣ですね」「何んだ、八にしちや、大層お世辭が良いぢやないか。 | |||
銭形平次捕物控 | 野村胡堂 | 60分以内 | |
「わツ、親分」まだ明けきらぬ路地を、鐵砲玉のやうに飛んで來たガラツ八の八五郎。 | |||
銭形平次捕物控 | 野村胡堂 | 60分以内 | |
「親分は長い間に隨分多勢の惡者を手掛けたわけですが、その中で何んとしても勘辨ならねエといつた奴があるでせうね」ガラツ八の八五郎は妙なことを訊ねました。 | |||
銭形平次捕物控 | 野村胡堂 | 60分以内 | |
「親分、平右衞門町の忠義酒屋といふのを御存じですかえ」「名前は聞いて居るが、店は知らないよ」ガラツ八の八五郎は何んかまた事件を嗅ぎ出して來た樣子です。 | |||
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「親分、今日は、良い陽氣ですぜ。 | |||
銭形平次捕物控 | 野村胡堂 | 60分以内 | |
菊屋傳右衞門の花見船は、兩國稻荷の下に着けて、同勢男女十幾人、ドカドカと廣小路の土を踏みましたが、「まだ薄明るいぢやないか、橋の上から、もう一度向島を眺め乍(なが)ら、一杯やらう」誰やらそんなことを云ふと、一日の行樂をまだ堪能し切れない貪婪な享樂追及者達は、「そいつは一段と面白からう、酒が殘つて居るから、瓢箪(へうたん)に詰めて、もう一度橋の上に引返さう、人波に揉まれ乍ら、欄干の酒盛なんざ洒落れて居るぜ」そんな事を言ひ乍ら、氣を揃へて橋の... | |||
銭形平次捕物控 | 野村胡堂 | 60分以内 | |
「八、お前近頃惡い料簡を起しやしないか。 | |||
銭形平次捕物控 | 野村胡堂 | 60分以内 | |
「親分、是非逢ひ度いといふ人があるんだが――」初冬の日向を追ひ乍ら、退屈しのぎの粉煙草を燻(くゆら)して居る錢形平次の鼻の先に、ガラツ八の八五郎は、神妙らしく膝つ小僧を揃へるのでした。 |