5分以内で読める中野鈴子の短編作品
青空文庫で公開されている中野鈴子の作品の中で、おおよその読了目安時間が「5分以内」の短編作品を、おすすめ人気順で表示しています。
1-44件 / 全44件
| 作品名 | 著者 | 読了時間 | 人気 |
|---|---|---|---|
| 小林多喜二のお母さん | 中野鈴子 | 5分以内 | |
小林多喜二のお母さん あなたの長男である多喜二さんが死なれてから 十九年の日が流れています そして あなたは八十才になられました この十九年の年月は お母さんにとって どのようなものでありましたでしょう 戦争が敗けて 日本共産党の人たちが赤い旗をかかげて 刑務所から出てきた時 あなたの喜びとかなしみはどんなでありましたでしょう その人たちが子供も育っている家庭を形作っているのをながめられたときの | |||
| お前は此の頃よくねむる | 中野鈴子 | 5分以内 | |
お前は此の頃よくねむる 朝もなかなか目が覚めない 若いお前には深いねむりが必要なのだ お前よ お前は母の手に返ってきた 日本が敗けたとき お前はわたしの子供となった お前が生まれたとき はじめてねむったあの時の母子のように わたし自身によって生まれた子供として 母の誇りをもって抱くことのできる 何と言う喜びぞ わたしは乳をしぼった 出ない乳をしぼり、つかれて痩せ夜もねむらずに お前を育てた育て | |||
| ふしあわせ者のうた | 中野鈴子 | 5分以内 | |
人間には幸福と不幸がある それは何処からきているか みなもと深く学者はしらべた 人々は自分に照りあわせ 実際的に納得した けれども 目ざす彼岸は高く あまりに遠い ふしあわせは 片時もはなれずつきまとう 人という人はことごとく 本能 感情 意志を持つ 不幸は四六時中五感をつっさす みんなは生きる ふしあわせとの組み打ち ふしあわせは一様でない その千差万別をうたいたい ことに 普遍的なものより | |||
| 母の手紙 | 中野鈴子 | 5分以内 | |
幸助 けさ 手紙をうけとった やっぱり達者でいてくれたか わたしは思わず手紙をおしいただいただ もしやこの暑さでやられてでもいるのではないかと心配していたに 牢やの中はどんなに暑いじゃろうねい そここそ地獄じゃもの 夏は出来るだけ暑いように冬はなるべく 寒いように仕掛けてあるんじゃろうさかいね コンクリで囲うた窓一つない箱みたいな建て物じゃと言うでないか ようく 障りなくいてくれた 苦労ばかりか | |||
| スペインの女 | 中野鈴子 | 5分以内 | |
軍服をつけ 銃を肩に 立ち上がったこの姿を見よ 沈着と決意に動かぬ この勢揃いを見よ 彼女らの全身の血の集中! すべてを明日に 未来にかけ 今日 立ちふさぐ我ら日本の女 我らの目はあつく燃える 正義と愛と憎しみとに波打つ その立派なたくましい 彼女らの整列の上に | |||
| 母の叫び | 中野鈴子 | 5分以内 | |
行ってしまった もう煙も見えない 息子を乗せた汽車は行ってしまった 剣を抜いて待ちかまえている 耳や 手足の指がくさって落ちるという そんな寒い 戦場の×煙の中へ 息子の汽車は走って行った 生きて帰るようなことはあるまい 汽車の窓のあの泣き笑いがお あれがあの子の見おさめなのか 親一人子一人の暮らしで あの子は毎晩 わたしの夜具の裾をたたいてくれた いつもやさしい笑顔で働いてくれた ああ わた | |||
| わたしの正月 | 中野鈴子 | 5分以内 | |
今日は一月一日 今日は正月だ 明けましておめでとうって たとえのようにいうけれど わたしらはそんなどころではないわ 年がら年じゅう米つくるが商売なのに 一片の雑煮もない 毎年ただ一本きていた 他国からの年賀状も今年は来ない 来るものは町の掛取りや 残りの年ぐ米を取りに来る地主の番頭だ 台所はポチャンポチャンと雨がもる 炭は買えず もみがらをぶすぶす燃やす くすぶり火が家一ぱいにひろがる 七十五 | |||
| ある日 | 中野鈴子 | 5分以内 | |
ある日 市電ののりかえで待っていると 一人の女の人がやってきた 洋服も帽子も見たこともないような古い型で 汚れて穴もあいている 断髪の毛は赤ちゃけ 木綿靴下の足がすりこぎのように弾力がない 電車がきて 彼女はわたしの前に向かい合った 健康でない むしろやつれた細面のかお けれども 目は 生き生きとして ひとところを見ていた 彼女はどんな過去を持っているのだろう 風呂敷き包みをきちんとかかえ ど | |||
| 飢餓の中から | 中野鈴子 | 5分以内 | |
腹は凹んで皮ばかりのようだ 口はほせからツバも出ない 目はかすんでものが見えぬ 三分作なのに地主はおしかけて来た 来年の年貢をよこせと そして 手をあわせて拝むわたしらを尻目にかけ 一粒のこらず かっさらって行った 毎日毎晩 わたしらは夢中で外へ這い出た キョロキョロになって吹雪の中をかけまわった 木の根をむしった 草の芽をかんだ 見つけ次第 犬猫を殺し奪い合って食った 腹がキリキリした ゲイ | |||
| 歓喜 | 中野鈴子 | 5分以内 | |
思っただけでも胸がおどる 裸一貫のわたしらが堂々と乗りこんでゆき おお このわたしら わたしらのタコだらけの手 真黒に焼けたおでこ ただ一つの心臓 二本の足 二本の腕に あらゆる権力と最上の美しさを打ちたてる日 働いて笑える 働いて肥える おお その日、その世界よ 思っただけでも胸がおどる | |||
| 許南麒の詩のように | 中野鈴子 | 5分以内 | |
「詩とたたかいとは もはや 朝鮮において 区別出来ず たたかいと 詩とは もはや 朝鮮では二つのものではない 若し朝鮮の詩人の名のすべてを聞く人 愛国者の名を聞く人があったら すべての朝鮮の人民の名を のこらず 挙げよう」 (許南麒の詩) 我がサークルの仲間たち 田をおこす 土方をしている 洋服屋へ 通うている 下駄屋 古着屋 奨学資金で 大学にいるもの そして 刑務所にいる 我がサークルの仲 | |||
| 一家 | 中野鈴子 | 5分以内 | |
わたしの祖先は代々が百姓であった 八町はなれた五万石の城下町 ゆきとどいた殿様のムチの下で這いまわった 少しのことに重いチョウバツ 百たたきの音が夜気を破った 天保に生まれた祖父はいつも言った 百姓のようなつらい仕事があろうか 味無いもの食って着るものも着ず 銭ものこらん 金づちの川流れだ わたしの父母は五人の子供を育てた 父母は子供を百姓にさせる気はなかった 二人の男の子は五つ六つから朝晩瀬 | |||
| 月は中天に | 中野鈴子 | 5分以内 | |
土も凍る夜 友と二人 炭のない部屋にねむろうとしている われらの「戦旗」がいま 二三の女の手にカギが渡され 必死のこぶしを 彼らの靴先が踏みくだこうとしている 友の夫 わたしの兄たち いく百の前衛は牢や いく千の兵士は満洲の戦場に狩り出され 友と二人 破れた雨戸の部屋にねむろうとしている ガラスの窓に月が冴えて光る 月は中天に輝々として | |||
| 方向 | 中野鈴子 | 5分以内 | |
わたしはこの頃しきりに考える 自分というものについて わたしは下宿の二階に兄のくれる金で暮らしている それはわずかな金だ けれども兄の彼が夜ヒル書きつづける血のしたたりなのだ わたしはそれで米や炭をととのえ腹を満たしている わたしの仕事は詩を書くこと、文学の途をゆくことになっている わたしは机に向かって本を読む あるいは書こうとする けれども書けない わたしはうっ伏して足りない才能をかなしむ 心 | |||
| 途中で | 中野鈴子 | 5分以内 | |
わたしは途中で一人の女とすれちがった 女のかおは白粉と紅で白く赤く美しかった 背が高くふっくら円かった 年は二十三四 そして藤色チリメンの長袖 厚いフェルト草履の大股でトットッと歩いて行った それは大変に自慢そうで からだ全体が得意で一ぱいのようだった わたしは洗いざらしの浴衣を着て 青じけた顔をうつむけて通りすぎた わたしは顔をうつむけて通りすぎた そうしてわたしは振りかえった 振りかえった | |||
| あつき手を挙ぐ | 中野鈴子 | 5分以内 | |
都会、町、部落、 何処にも 朝鮮の人たち満ち溢れ 働き たたかい 生活を打ち立て 話す言葉 国語正しく われら朝夕 親密濃く深まりつつ 出征、入営を送る折々には 先んじて旗振り、万歳を叫ぶ 朝鮮の人たち 朝鮮の人等 手に力こもり、唇は叫びつつ 心の底に徹し得ぬものがあるならん 常にわれかく思い 心沈みし 今 朝鮮に徴兵制布かる こころ新たに あつき手を挙ぐ | |||
| 「野菊の如き君なりき」を見て | 中野鈴子 | 5分以内 | |
湧く水のように 自然の素直さ 自然の親しさ 親しさの深まった 少女と少年の 永遠をねがう二人の 愛 親しみ 子供から大人へ 成長してゆく ありのままの 素直なねがい りんどうと野ぎくと 花にたとえて りんどうの花しか知らぬ 触れもせぬ 野菊の花の りんどうの花しか知らぬ 子供をみもごり 死んだ方がいいのです 死んだ手に りんどうの花と手紙とにぎられていた | |||
| 妹 | 中野鈴子 | 5分以内 | |
妹は出かけて行った 一か月に一回の面会を 三か月のばして やっと出かけて行った タンスの底の しめっぽくなっているきものを引っぱり出し 右と左のびっこの足袋をはいて―― 妹はモチ米を一斗さげて行った 米を代えて汽車賃をつくるためだった 停車場 汽車の中 歩く道にもヤミ米テキハツの警官が立っている 妹は 一斗の米をふた包みにし、軽い風呂しき包みにみせかけ奥さん風に停車場を降りた いま降りた乗客 | |||
| おとろえ 1 | 中野鈴子 | 5分以内 | |
人の作品をみてから その人のことが気になって仕方がない こういう気持ちの行く手には恋が立っていることにもなるのだろう そう思ったら涙が出てきた | |||
| おとろえ 2 | 中野鈴子 | 5分以内 | |
陽が かげってくるとほっとする 夜が来ると 過ぎた年月が闇の底に埋められるような気がする | |||
| 壁と重石と | 中野鈴子 | 5分以内 | |
山裾を走る電車の窓からみた 紋入りに染め上げたおおいをかけ ふたつの車に積みあげた嫁入り道具が いま村の端を出かかったところを 春はやいくもり日が暮れかけていた 荷物は運ばれるのだ うすぐらい物置き倉 古ぼけた姑の箪笥と並ぶために 生まれた家と親とが この荷物を背負わせ 娘を押し出す 娘は のろのろと家を出てゆく 荷物と娘と一束にして計量にかけ むすめのいのちに手づけが打たれてしまった 荷物 | |||
| 君すでに | 中野鈴子 | 5分以内 | |
君 すでに半身なり 君 すでに片足なり 二つの命 持ち寄りて 全き一つでありし 夫と君 君が夫 戦線に散りたり 君が命 割れたるなり 君なおも 家と裔を守るなり | |||
| 今日はよく晴れ上がって | 中野鈴子 | 5分以内 | |
今日はよく晴れ上がって 村じゅうの苗代に種がまかれた 鍬では切れない土のかたまり 切り株の切れ端を深く埋める 手で埋めて撫でてゆく きれいに水をはって消毒した種をまく 雨のふらない風の吹かない晴れた日にまく わたしは外へ立ちながら苗代の人だかりの方をながめていた いろりの場所ほども耕されたらと笑われながら田圃に入り 足りないところは田圃を売り 病気の母を放っておき 湯もわかさず 破れた傘もそのま | |||
| 五十の春に 1 | 中野鈴子 | 5分以内 | |
一 からだに合わぬ体 こころに合わぬ心 胃に腹に切開手術を受け 一つの手紙もない 二 きのうはすでに 去年の雪と思え 消えたと思え 来年は向こうからやってくる 明日もやってくる はじめての人も 新しい言葉も | |||
| 五十の春に 2 | 中野鈴子 | 5分以内 | |
いまようやくここまで歩いてきたところだ 誰かが呼んだと思うときもあったが それは空耳だった 振り返って返事をしているわたしに 呼び止めたと思った人は気のつかぬ如く とっとっと先の方を歩いて行った わたしは一人とぼとぼここまでたどりついた 花の咲く頃には却って身を細くして 自動車をよけるような恰好になったものだ ようやくここまでたどりつき 山道にさしかかったところだ この山道を入ってゆくと道が分から | |||
| 三拍子 | 中野鈴子 | 5分以内 | |
夜中の十二時頃、おくさんが寝室からのぞく もう寝ていいですよ 足も頭も出てしまう夜具 見たこともない短いふとんの中へ たおれるように 夜中に、二、三度はね起き はなれた部屋まで時計を見にゆき 広いエンガワ 広いタタミ 掃除 めしたき 赤ん坊を背中にくくり 破れたふとんを片っ端から解いて洗って綿を入れ 縫いはじめては手をはなし 買い物に走り 洗い物は朝と晩 五本のサオにいっぱい 光がななめに | |||
| 四月の夜 | 中野鈴子 | 5分以内 | |
油気を食べてはいけない アルコールはなめてもいけない つかれることはいけない あんまり話もつづけられない あんまり本もよみつづけられない 手紙を書くことは 返事を要求することになるので手紙も書けない それで 郵便もこない 役場の税金 村の盛金 寄附の金らは 一反の田圃から五俵の純益あるものとして割り出されている 田圃一反から 米七俵実る 雇人の賃金一反につき 米二俵半 肥料代一反につき 米 | |||
| 霜のように | 中野鈴子 | 5分以内 | |
若いときは やみくもに雲にのせられてしまう 年を重ねてからは何も彼も 霜のようにおりて来る | |||
| 心臓 | 中野鈴子 | 5分以内 | |
心臓の上に重い石が載っている 心臓は重い石の下でメートルグラスをつかまされている メートルグラスの中には何も入っていない そしてメートルグラスに革のムチが下がっている 革のムチに鮮やかに濃い字が記されている 正しく適切にと 心臓は破れて血を出しながらふるえている | |||
| 花束 | 中野鈴子 | 5分以内 | |
いくつもの花束をわたされ わたしはうっ伏してしまった 花束をあたまにかぶり 泪はふりあふるる 我が師 友どち 酒をくみ こと挙げて まずしき詩集を祝いいただく 何にたとえん わが生きの日の | |||
| 地震 | 中野鈴子 | 5分以内 | |
家はくずれていた 倉も納屋も 全部の屋根 門もくだけ ヘイもたおれ 石垣の石ひとつのこさず 家の中にあったもの 倉にいっぱい押し込められた 長持ち タンスども 美しい瀬戸物類 昔古来のガンジョウな遺物 ことごとく形をなくした 立ち木だけが突っ立って 何一つない 池にも水は絶え 古い柱 黒い板戸 大きな屋根 厚い壁 壁の土 机と太鼓 静かな音を出した門のあく音 湧き出た冷たい井戸 井戸水にあふれた | |||
| 竹の皮の飴包み | 中野鈴子 | 5分以内 | |
どのお菓子屋の店先もくじを当てる時のような人だかり 露店商人らは 飴市に限って軒を並べない 町の角 角に 雪があれば 雪の上 土が見えれば板を敷き 白木造りの大きな桶に 飴を山盛りにする 飴は大きな かたまり コハク色を帯びて 黒ゴマがふりかかっている 小さな城下町 小一里向こうに国境の山々がずっとつらなる 北陸の丸岡の町に 年に一度 飴市がたつ 二月はじめのこの日は 毎年吹雪く 一里四方の村 | |||
| 著者におくる | 中野鈴子 | 5分以内 | |
今ここに君を見る 昔の姿そのままに 若き日に志したる 君が望み 君が年輪に添い磨き輝く 立派なる結実よ はじめて 君を見し時 君は人の家に我ならぬ日を送りてありき 君あまりに若く こころ失わんとし 立ち出でんとし 路分かたず われ君を祈り 祈ることを与えられしに 黒き手 十八の我を阻みぬ われは狂い 狂いたれども 我は君を離れたるなり 十数年の歳月去り 今ここに君を見る 立派なる結実よ 手に | |||
| 突然に | 中野鈴子 | 5分以内 | |
突然に 真夜中の一時五十五分に呼吸を断たれた 五十一年を生きた人 あなたは生まれた 比類ないものを持って 満ちあふれた輝き あなたは出て立って行った じゅうたんを蹴って 素足のまま むき出した心臓を 荒風の中に 額を打つ嵐の中へ…… 一すじに 一すじに あなたの剣は 敵の胸板にキリキリと深く あなたの火の言葉は 目つぶしの灰となって彼等の上に…… あなたの選ばれた言葉は ひらめきのように し | |||
| 友よ 友だちよ | 中野鈴子 | 5分以内 | |
わたしは 三度目の開腹手術を受けるために 行ってきます 友よ 手術をしなければならぬということは 命があるということです いろいろの 心のキズを耐え 力あつめて立ちつづけてきた 体に三度目のメスを受けねばならぬ 黄色い目じりから泪がにじんで流れようとする 友よ 手術をしなければならぬということは 命があるということです 命がなければ 誰の顔も見えなくなるではないか 誰も わたしをもう見る | |||
| 何故わたしたちに話してくださらなかったのです | 中野鈴子 | 5分以内 | |
あなたは療養所の松林の中で あなたはあなたの命を断ち切ってしまわれた あなた自らの手で わたしたちとかたく結ばれていたその二つの手で あなたは古い闘争の経歴を持ち 福井の党の土台石を作った 党活動はあなたを あなたの妻 二人の子供を苦しい生活に追い込んだ あなたはひるまなかった あなたはついに病いにたおれた あなたを病床におくらねばならなかったわたしたち わたしたちはあなたの病床をのり越えて起ち | |||
| 母 | 中野鈴子 | 5分以内 | |
わたしは子供のとき大変な甘えん坊で そしてあまやかされて育っていた あそびから帰るとすぐ母を呼び母をさがした 母はわたしをはなれて出かけることはできなかった 泣いて叫んでじたばたしたから けれどもスッカリ変わってしまった わたしは母を呼ばなかった 母には何もなかった あふれて流れる泪を拭いてくれる手も 伸びつつ円くなってゆく体の 体のなかのやわらかな芽生えも母には何も見えなかった ただ娘の年齢 | |||
| 春爛漫として | 中野鈴子 | 5分以内 | |
樹々花つけ 陽炎燃え 地上に満つ たのしき命 命あふれ 咲きさかる 天地のうたげ 君は往く 君は発つ 一つの命 千百の 君が青春 この春爛漫として 君が幸 かなしみ 才能 力 美しさ ながき はるかなる それら一切のもの いまここに投げ打たんとして | |||
| 人が人に | 中野鈴子 | 5分以内 | |
人が人に砂をかけるから 心が心に砂をかけるから 砂をかける人 かけられる人 かけられたからかけ返す かけ返すからまたもどって来る | |||
| 人々は持つだろう | 中野鈴子 | 5分以内 | |
人々は持つだろう あたたかい夕餉を持つだろう 静かな憩いを持つだろう 共感にほほ笑み 善意なるものに満ちていよう 無限なるものに包まれ 美しい手紙を秘めていよう すべてやさしくつよかろう 彼等の敷き布は白かろう 夜は深く ねむりはあまくまるかろう | |||
| 祭り日 | 中野鈴子 | 5分以内 | |
秋の風 野面を渡る さく さく 腕も軽し 早稲を刈る この祭り日に たわわに実るありがたさ 早出供米 他村に魁け お国につくす稲を刈る この祭り日に 息子らは遠き戦野に 村に居残る吾等 田畑引き受け 休みなし この祭り日に | |||
| 闇と光と | 中野鈴子 | 5分以内 | |
時間は流れていたのだ 囚われたまま 盲目となったままに 恐ろしい事実の成立 その日々 よみがえった自覚 日にさらされ 心を閉じ 身をさいなむ このように 絶対な 過失 捺印 日にいく度 生きがたい闇の淵に立つ しかもなお 胸に抱く 一つのかがり火 ひろがり照る 時代の暗雲に堪え 辛苦と犠牲を越えて 高く広く 新しき世界 新しき建設 困難とはげましと遠い長い里程 小さい大きいたくさんの仕事 仕事 | |||
| 夜 | 中野鈴子 | 5分以内 | |
足を伸ばす 体の横に手を垂れて 目を閉じる ねむろうとして自分の呼吸を聞いている かならず闇がおそいかかる夜というもの 夜 夜はかならずきて わたしはかならずねむったにちがいなかった 夜が来ればねむったであろう そして夜 ねむれぬままにも ねむったであろう 五十年の美しい昼と夜 一個の生きとし生きる者として 春の花 冬の雪にも お前はいたのか お前はいたのか お前は赤ん坊でもあったのか あ | |||
| 別れ | 中野鈴子 | 5分以内 | |
広い堂楼の境内 焚火が燃え 村じゅうの人々が集まっている 「しっかり頼むぞの……」 「非常時じゃでのう……」 男衆等みな声を上げてはげます 一人の入営兵士をまん中に 酒徳利をかたむけ 祝いの 別れの 冷酒 女、子供、 かたまってふるえつつ 聯隊には十日ほどいて 直ぐ満洲行きやそな…… 女房等の目は泪にしばたたき 老婆は鼻をすすり上げる 村の停車場 十数本の入営旗 高くはためく 発車の汽笛 萬 | |||
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