青空文庫の全作品

僕は僕の下宿の路次の僕の薄暗い穴から出た。

MONICO（モニコ） ! MONICO ! TR※S（トレ） JOLIIE（ジヨオリイ） !今夜もモニコで飲み明そ。

その朝、洋画家葛飾龍造の画室の中で、同居人の洋画家小野潤平が死んでいた。

――曾て、哲人アビュレの故郷なるマドーラの町に、一人の魔法をよく使う女が住んでいた。

………………………………（――あたしの赤い煙突。

上野の博覧会で軽気球が上げられた。

何が南京鼠だい『エミやあ！エー坊！エンミイ―おい、エミ公！ちょっと来てくれよオ、大変々々！』出勤際に、鏡台へ向って、紳士の身躾をほどこしていた文太郎君が、突然叫びたてました。

三〇五明治三十九年一月一日午前零時―五時本郷區駒込千駄木町五十七番地より廣島市猿樂町鈴木三重吉へ加計君の所へいつか手紙をやりたい。

寛宝三年の四月十一日、まだ東京を江戸と申しました頃、湯島天神の社にて聖徳太子の御祭礼を致しまして、その時大層参詣の人が出て群集雑沓を極めました。

柴田登恵子――といって置く。

萩原朔太郎！少年時からの懷かしさで、今では兄のやうに思へる。

駿河灣一帶の風光といふとどうしても富士山がその焦點になる。

永いあいだの失業から生活難に追われて焦燥し、妻のヒステリーはひどくこうじて来た。

去年の十一月二十日だった。

市ヶ谷の巻前科割り東京監獄の未決監に「前科割り」というあだ名の老看守がいる。

畜生恋僕はいつも独房にばかりいて、雑房の方のことはよく知らない。

楯井夫婦が、ようやく未墾地開墾願の許可を得て、其処へ引移るとすぐ、堀立小屋を建てゝ子供と都合五人の家族が、落著いた。

緒論個人に就いて觀察しても、一人一人にその個性がある樣に、國民なり民族なりにも、それぞれ特有の氣質性癖をもつて居る。

緒言日本と支那とは、いはゆる唇齒輔車相倚るべき國で、勿論親善の間柄でなければならぬ。

「こんなことを申上げますと、なんだか嘘らしいやうに思召すかも知れませんが、これはほんたうの事で、わたくしが現在出会つたのでございますから、どうか其（その）思召でお聴きください。

木村は官吏である。

巌（いわ）が屏風のように立っている。

東京化学製造所は盛に新聞で攻撃せられながら、兎（と）に角一廉の大工場になった。

木村は役所の食堂に出た。

私は、最近米国の所謂文壇が、どんな作品を歓迎し称讚しているかは知らない。

形而上学的文学論の破産「文学は種々の要素から成り立つ。

ある地方の郡立病院に、長年看護婦長をつとめて居るもとめは、今日一日の時間からはなたれると、急に心も體（からだ）も弛（たる）んでしまつたやうな氣持ちで、暮れて行く廊下を靜（しづ）かに歩いてゐた。

Ｋ造船工場の第二号乾船渠に勤めている原田喜三郎と山田源之助の二人が行方不明になってから五日目の朝の事である。

問題は如何にもハイカラに聞こえる問題でありまして、近頃の考へに向きさうでありますけれども、材料は私が考へて居る材料でありますから、至つて古臭いので、一向内容にハイカラな所はありませぬ。

清朝はその初頃から有名な藏書家が多く、錢謙益及その族孫錢曾、又は季振宜などは、順治より康煕の初年に有名であるが、併し藏書家の最盛期は乾隆の中頃以後にあるので、乾隆の末から嘉慶を經て、道光の初頃まで居つた蘇州の黄丕烈は最も有名で、殆ど清朝を通じて第一の藏書家と言つてよいのである。

支那に於ける史の起源内藤湖南支那に於ける史の起源に就て述べようと思ふのですが、此の史といふ字には支那では二樣の意義を持つ事になります、一は歴史の書籍の方の意義で、一は歴史を掌る官吏、即ち史官の事になります、其の史籍の方の起源になりますと種々込入つて居りますので、今日は單に史官の起原の事に就てお話を致さうと思ひます。

支那を解釋するには、支那人が是迄積み上げた事業と云ふ者を十分に研究して見なければならぬ。

支那古代の經濟事情を研究するに就いて、尚書の禹貢が重要なる史料であることは勿論のことである。

（一）緒言毎年この六月に、弘法大師降誕會が主催となり、東西の碩學を聘して講演會を開き、大師の遺風餘徳を偲ぶといふことは、極めて結構な企と思ふ。

棄てる金若杉鳥子その日は暮の二十五日だった。

事件依頼人昭和五十二年の冬十二月十二日は、雪と共に夜が明けた。

私は宗教といふものを持たない。

貧しとし時にはなげく時としてその貧しさを忘れてもをるゆく水のとまらぬこころ持つといへどをりをり濁る貧しさゆゑに小生の貧困時代は首尾を持つてゐない。

いちはやく秋風の音をやどすぞと長き葉めでて蜀黍（もろこし）は植う私は蜀黍の葉が好きである。

生の歡びを感ずる時は、つまり自己を感ずる時だとおもふ。

光を含んだ綿雲が、軒端に見える空いつぱいに輝いて、庭木といふ庭木は葉先ひとつ動かさず、それぞれに雲の光を宿して濡れた樣に靜まつてゐる。

この沼津に移つて來て、いつの間にか足掛五年の月日がたつてゐる。

駿河なる沼津より見れば富士が嶺の前に垣なせる愛鷹の山東海道線御殿場驛から五六里に亙る裾野を走り下つて三島驛に出る。

○乾きたる落葉のなかに栗の實を濕りたる朽葉がしたに橡（とち）の實をとりどりに拾ふともなく拾ひもちて今日の山路を越えて來ぬ長かりしけふの山路樂しかりしけふの山路殘りたる紅葉は照りて餌に餓うる鷹もぞ啼きし上野の草津の湯より澤渡の湯に越ゆる路名も寂し暮坂峠○朝ごとにつまみとりていただきつひとつづつ食ふく...

冷たさよわが身をつゝめわが書齋の窓より見ゆる遠き岡、岡のうへの木立一帶に黝（くろ）み靜もり岡を掩ひ木立を照しわが窓さきにそゝぐ夏の日の光に冷たさあれわが凭る椅子腕を投げし卓子脚重くとどける疊部屋をこめて動かぬ空氣すべてみな氷のごとくなれわがまなこ冷かに澄みあるとなきおもひを湛へ勞れはてしこゝろは森の奧に古びたる池の如くにあれあゝねが...

底深い群青色の、表ほのかに燻（いぶ）りて弓形に張り渡したる眞晝の空、其處には力の滿ち極まつた靜寂の光輝があり、悲哀がある。

ソレ、君と通つて此處なら屹度釣れると云つたあの淀み富士からと天城からとの二つの川の出合つた大きな淀みにたうとう出かけて行つて釣つて見ましたかなり重い錘でしたが沈むのによほどかゝる四尋からの深さがありましたとろりとした水面にすれ／＼に釣竿が影を落すそれだけで私の心は大滿足でした山の根はいゝが惜しいことに釣つてゐる上に道があるなるたけ身體を小松の蔭にかくしてゐ...

噴火口のあとともいふべき、山のいただきの、さまで大きからぬ湖。

私は日向國耳川（川口は神武天皇御東征の砌（みぎり）其處から初めて船を出されたといふ美々津港になつてゐます）の上流にあたる長細い峽谷の村に生れました。

東京にてＭ――兄。