30分以内で読める青空文庫の短編作品

私の演題には、二つの説明して置かなければならぬことがあります。

芸能といふことばの発生お互ひにおめでたうございます。

しゞまの姫父君早世の後、辛い境涯が続いた。

今度秋田県北秋田郡荒瀬村根子といふ山の中の村から、番楽といふものが来る。

此会の此役は久しく、先輩山崎楽堂さんが続けられてゐましたが、今度は私が代つて申すことになりました。

我々の生活してゐる明治・大正・昭和の前、江戸時代、その前室町時代、その前鎌倉時代――その鎌倉から江戸迄の武家の時代と言ふものが、どの時代でも同じやうに思はれますが、違つてゐます。

私はまづ、縁遠さうな舞踊の方面からはじめるつもりである。

角力の頃になると両国界隈がトピックになるやうである。

浴衣がけは便利だといふ、無論便利だ。

大正文化の一断片たる浅草オペラの楽屋並びにその俳優たちの生活を最も具さに美しく描破してゐるものは、谷崎潤一郎氏の「鮫人」だらう。

洋装の女どこで何をしていたのか、新聞記者の村井は、星田代二が検事の第一回訊問を受けた日、彼が警視庁へかえされたのと入れちがいに、検事局の構内に姿を現わした。

大熊老人にとって、凡そ不思議な存在は、少年喜助であった。

親友？仇敵？疑問の洋装の女が、三映キネマの如月真弓！寺尾に示されたスチールで、それを発見した津村は唸った。

もう十時は疾くに過ぎたのに、妻の伸子は未だ帰って来なかった。

意外な夢遊探偵一方、星田代二と別れた雑誌記者の津村は、殆んど逃げる様にして新橋駅構内を出た。

……別の一台の方では、四人の人間が大声に笑いながら、賑かに三人上りの球を撞（つ）いていた。

私は、昨年の明日、東京巣鴨花街の居宅を兵火に焼かれた。

時雨・雪・三味線堀亡くなられた泉鏡花先生のお作の中でも、「註文帳」は当然代表作の一つに数へていいものだらう。

昭和廿年花季の戦火に巣鴨花街の僑居を焼かれてから早や二年有余の歳月がながれ去つた。

わが川柳素描省線浅草橋駅歩廊の外側には、このほど穴だらけの焼トタン一めんに貼りめぐらされてゐるが、その南側の方の、なるほどすぐ目の前にはハッキリと両国橋の見られさうな小さな焼穴の上へ、幼稚な白墨の字で、「ココカラ両国見エル」と落書してある。

猿飴猿飴の猿に湯島の時雨かな綺堂古風な彩色を施し市井芸術としての匂ひいと高い昔ながらの木づくりの猿の看板をかかげて本郷湯島の猿飴は、昭和十八年の末ちかくまで本郷三丁目から湯島天神祠へ至る南側の電車通りに、辛くも伝来の営業をつゞけてゐたが已にその舗のたゞずまひは安価低調なバラック同様の和洋折衷館となつてゐて、伝統猿飴の美しき陰影をつたへる何物とても最早なかつた。

秋色寄席懐古秋になると、あたしの思い出に、旧東京の寄席風景のいくつかが、きっと、儚（はかな）い幻灯の玻瑠絵ほどに滲み出す。

へるまあの喜劇「人形の家」久しぶりで又、「人形の家」が、町の話題に上つてゐる。

今の梅玉が、福助から改名した披露の狂言は、その当時、親をがみに正月郷家に帰つてゐて、見ることが出来た。

わたしは刑務所を見にゆくと云うことは初めてのことです。

歌舞妓にからんだ問題は、これをまじめにあつかふと、人が笑ふくらゐになつてゐる。

理想主義者としてつぎに、明治年間における自分の立場について、少しく話してみようと思うのであるが、だいたい自分は理想主義の側に立って絶えず唯物主義、功利主義、機械主義等の主張者とたたかってきたのである。

是れは實驗の結果ではなくして、唯、學究的の觀察に過ぎぬのであります。

上州岩鼻の代官を斬り殺した国定忠次一家の者は、赤城山へ立て籠って、八州の捕方を避けていたが、其処も防ぎきれなくなると、忠次を初、十四五人の乾児は、辛く一方の血路を、斫（き）り開いて、信州路へ落ちて行った。

僕は、ベツドのかたはらの天使に向つて云つた。

その女が僕を見てあんまり親しげに微笑したので、僕はその女について行かずにゐられなかつた。

※丘の上のＵ塔には、千羽の鳩が棲んでゐた。

「やあ綺麗だなあ……」埃りまみれの靴の紐をほどきながら、ひよいと顏を上げた私は、さう思はずひとりごとを言つた。

アトリエとその中庭は、節子の死後、全く手入れもせずに放つておかれたので、彼女が繪に描くために丹精して育てられてゐた、さまざまな珍らしい植木は、丁度それらの多くがいま花をさかせる季節なのでごちやごちやにそれぞれの花を簇がらせながら、一層そこいらの荒れ果てた感じを目立たせてゐた。

彼女は窓をあけた、さうすると、まるでさういふ彼女を待つてゐたかのやうに、小屋のすぐ傍らの大きな樅（もみ）の木から、アカハラが一羽、うれしさうに啼きながら飛び下りてきて、その窓の下で餌をあさり出した。

丸岡明に一九三三年六月二十日、Ｋ村にてこつちへ來てから、もう二十日になる。

一九三七年九月十一日、追分にてお手紙を難有う。

秋になりました……秋になりました。

夏に先立つて、村の會堂の廣場には辛夷の木に眞白い花が咲く。

これはレイモン・ラジィゲの小説だ。

滝井孝作氏の筆になる『志賀直哉対談日誌』というのを読んでいたら、偶然次のような一節にぶつかった。

はてしなき議論の後一九一一・六・一五・ＴＯＫＹＯわれらの且つ読み、且つ議論を闘はすこと、しかしてわれらの眼の輝けること、五十年前の露西亜の青年に劣らず。

このリルケの手紙は、彼の死後、程なく、「新佛蘭西評論」（一九二七年二月號）に發表せられたものである。

「更級日記」は私の少年の日からの愛讀書であつた。

「旗手クリストフ・リルケの愛と死の歌」はリルケの小時の作（一八九九年）である。

源氏物語の「總角」の卷で、長患ひのために「かひななどもいとほそうなりて影のやうによわげに」、衾（ふすま）のなかに雛（ひいな）かなんぞの伏せられたやうになつたきり、「御髮はいとこちたうもあらぬほどにうちやられたる、枕よりおちたるきはの、つやつやと」した宇治の姫君が愛人の薫の君たちにみとられながら、遂に息を引きとつてしまふ。

私はいま自分の前に「窓」といふ、插繪入りの、薄い、クワルト判の佛蘭西語の詩集をひろげてゐる。

「吾人の賞美する建築は、その建築家が目的によく副ふやうな手段を用ひて、その柱が、エレクションの麗はしき人像柱の如く、上にかかる重みを苦もなく輕々と支へてゐるやうな建築である。

四月十七日追分にてホフマンスタアルの「文集」を讀み續ける。

この頃私は逢ふ人ごとにモオリアックの小説論の話をしてゐる位だ。