30分以内で読める青空文庫の短編作品

プルウストに關する三つの手紙を神西清に宛てて書いてから數ヶ月が過ぎた。

七月二十五日、信濃追分にてこの前の土曜日にこちらに來るかと思つてゐたが、とうとう來られなかつたね。

一九〇六年一月二十五日、ライネル・マリア・リルケはロダン夫妻と同行して、シャアトルの本寺を見物に行つた。

あなたの、お父さんの雜誌に書けといはれた隨筆でも書けたら書かうと思つて、かうやつてけふも森の中へ、例の大きな drawing-book をかかへて、來てゐるのです。

御高著「室生犀星詩集」（第一書房版）をお送り下さつて有難うございました。

七月二十三日夕方だのに汽車は大へん混んでゐた。

次ぎの手紙の斷片は、リルケの作品をポオランド語に飜譯したヴィトルト・フォン・フレヴィチのさまざまな質疑に答へて詩人が書き與へた返事のうちの「ドゥイノ悲歌」に關する部分である。

散文の本質といふものは、自分の考へをどんな風にでも構はずに表現してしまふところにある、と言つてもいいやうであります。

一八七五年十二月四日、ボヘミヤの首都プラアグに生る。

「何よりもまづ獨創的であれ。

一九三五年晩秋。

まだ四条通りが、今のやうに電車が通つたり、道巾が取りひろげられなかつた頃、母と姉と私と三人で、今井八方堂と云ふ道具店の前にあたる、今の万養軒の処で葉茶屋をして居りました。

早いのが飛鳥山。

法律の前には罪を犯さなくても、神の前に罪を犯さぬ者はありません。

世の中には色々な職業がある。

陰獣評江戸川乱歩氏の「陰獣」は、同氏の久し振りに発表した作であったのと、同氏独特の念入りな、手のこんだ、寸分のゆるみもない作品であったとのために、探偵小説の作者仲間では、異口同音に近い好評を博したようである。

探偵小説の芸術的価値探偵小説は、英米では、ポー、スティーブンソンにはじまり、コナン・ドイルによって、近代小説の一つのカテゴリーとして、その存在を確立した。

明治時代の湯屋について少しく調べたいことがあったので旧い雑記帳を引っくり返したり、旧い記憶を呼び起したりした。

今度はわたしの番になった。

ペテロは三たびキリストを知らずといえり。

上「あの、お菊。

いやもう、いまから考えると途方もないようだが、元治元年といえば御維新の四年前で、蛤御門の変、長州征伐、おまけに英米仏蘭四カ国の聯合艦隊が下関を砲撃するなど、とかく人心が動揺している。

第一話四谷の菱屋横町に、安政のころ豆店という棟割長屋の一廓があった。

人影が動いた、と思ったら、すうっと消えた。

友人の書家の家で、私は経師屋の恒さんと相識になったが、恒さんの祖父なる人がまだ生きていて、湘南のある町の寺に間借りの楽隠居をしていると知ったので、だんだん聞いてみると、このお爺さんこそ安政の末から万延、文久、元治、慶応へかけて江戸花川戸で早耳の三次と謳われた捕物の名人であることがわかった。

「はいっ。

土蔵破りで江戸中を騒がし長い草鞋を穿いていた卍（まんじ）の富五郎という荒事の稼人、相州鎌倉は扇が谷在の刀鍛冶不動坊祐貞方へ押し入って召捕られ、伝馬町へ差立てということになったのが、それが鶴見の夜泊りで獄口を蹴って軍鶏籠抜けという早業を見せ、宿役人の三人も殺めた後、どうやらまたぞろお膝下へ舞い戻ったらしいとの噂とりどり。

秋も酣（たけなわ）なる十一月下旬のある夜、××楼の二階で、「怪談会」の例会が開かれた。

おなつかしきＴ様。

病室の一隅には、白いベッドの掛蒲団の中から、柳の根のように乱れた毛の、蒼い男の顔が、のぞいていた。

「もうじき、弘（ひろむ）ちゃんが帰ってくるから、そうしたら、病院へつれて行って貰いなさい」由紀子は庭のベンチに腰かけて、愛犬ビリーの眼や鼻をガーゼで拭ってやりながら、人の子に物言うように話すのであった。

「母危篤すぐ帰れ」という電報を受取った私は、身仕度もそこそこに、郷里名古屋に帰るべく、東京駅にかけつけて、午後八時四十分発姫路行第二十九号列車に乗りこんだ。

因果応報は仏教の根本をなす思想であって、私たち日本人も、伝統的にこの因果応報の観念に支配され、悪いことをすれば、必ずそれに対するむくいが来はしないかと、内心ひそかに恐れ慄くのが常である。

鯉坂嗣三君は生理学者であります。

京都の高等学校に居た頃、――それはたしか明治四十一年だったと思うが――私は、冬休みに、京都から郷里の名古屋まで、名所見物を兼ねて、徒歩で帰ろうと思い立った。

私は幼い時分から探偵小説が好きで、今でも相変わらず読みふけっている。

私に若しポオの文才があったならば、これから述べる話も、彼の「黒猫」の十分の一ぐらいの興味を読者に与えることが出来るかもしれない。

コホン、コホンと老按摩は彼の肩を揉（も）みながら、彼の吸う煙草の煙にむせんで顔をしかめた。

加藤君、僕はいよいよ自殺することにした。

四月十三日こんなことが信じられるだろうか？でもじっさい妾（わたし）は自分の眼で見たのだ。

私がこれから話すことは、全部正真正銘の事実である。

文芸は進化するか？阿部知二氏は『読売新聞』文芸欄（昭和五年五月六日）で、小林秀雄氏を評して次のように言う。

復興局の一技師の手が、大東京市の地図の上に、縦横に朱線をひいていく。

探偵小説を、一般の小説から、特にきりはなして、これを特殊の眼で見、特殊の批評の尺度をもってこれにのぞみ、あたかも、探偵小説が、先天的に、特殊の価値を約束されているように見做すのは、間違いであると私は考える。

これは一九三〇年型の実話ではなくて、ごく古風な実話である。

左手には三浦半島から房総半島の淡い輪郭が海の中に突きだしている。

下田の細君が台所の戸を開けたときは、まだ夜があけてまもない時刻だった。

『カラマーゾフ兄弟』のような小説を読むと、誰でも少なくも二日や三日は、作品の世界からぬけきれないで、平凡極まる自分の生活がいやになるに相違ない。

ガルシンを語る人はかならずその印象ぶかい目のことをいう。

六月のある素晴らしい日のこと――ただし素晴らしいと月並みなお断りをしたのは、列氏で二十八度という温度だったからですが――その素晴らしい六月のある午後のこと、どこもかしこもきびしい暑さでした。