30分以内で読める岡本綺堂の短編作品

天保五、午年の四月十二日に播州無宿の吉五郎が江戸の町方の手に捕われて、伝馬町の牢屋へ送られた。

Ｋ君は語る。

「その頃の箱根はまるで違いますよ」半七老人は天保版の道中懐宝図鑑という小形の本をあけて見せた。

登場人物漆間の翁嫗（うば）娘里の青年（坂東三吉）蟹蛇蛙里のわらべなど［＃改ページ］時代は昔、時候は夏、場所は山城国。

「これも狐の話ですよ。

「きのうは家のまえで大騒ぎがありましたよ」と、半七老人は云った。

ある冬の日、わたしが老人を赤坂の家にたずねると、老人は日あたりのいい庭にむかって新聞をよんでいた。

改めて云うまでもないが、ここに紹介している幾種の探偵ものがたりに、何等かの特色があるとすれば、それは普通の探偵的興味以外に、これらの物語の背景をなしている江戸のおもかげの幾分をうかがい得られるという点にあらねばならない。

嘉永五年八月のなかばである。

池袋の女江戸の代表的怪談といえば、まず第一に池袋の女というものを挙げなければなりません。

第六の男は語る。

第七の女は語る。

第十の男は語る。

第十一の男は語る。

第十二の夫人は語る。

第十三の男は語る。

「こんなことを申上げますと、なんだか嘘らしいやうに思召すかも知れませんが、これはほんたうの事で、わたくしが現在出会つたのでございますから、どうか其（その）思召でお聴きください。

六月七日、午前六時頃にベッドを這い降りて寒暖計をみると八十度。

「かぞえると三十年以上の昔になる。

春の雪ふる宵に、わたしが小石川の青蛙堂に誘い出されて、もろもろの怪談を聞かされたことは、さきに発表した「青蛙堂鬼談」にくわしく書いた。

「あのときは実に驚きました。

Ｍ君は語る。

「番町の番町知らず」という諺（ことわざ）さえある位であるから、番町の地理を説明するのはむずかしい。

Ａ君は語る。

上「来年は丑（うし）だそうですが、何か牛に因んだようなお話はありませんか。

日清戦争の終った年というと、かなり遠い昔になる。

Ｅ君は語る。

上「去年は牛のお話をうかがいましたが、ことしの暮は虎のお話をうかがいに出ました。

Ｏ君は語る。

大田蜀山人の「一話一言」を読んだ人は、そのうちにこういう話のあることを記憶しているであろう。

「海老の天ぷら、菜のひたしもの、蠣（かき）鍋、奴豆腐、えびと鞘豌豆の茶碗もり――こういう料理をテーブルの上にならべられた時には、僕もまったく故郷へ帰ったような心持がしましたよ。

むかしから鰻（うなぎ）の怪を説いたものは多い。

例の青蛙堂主人から再度の案内状が来た。

文政四年の江戸には雨が少なかった。

Ｅ君は語る。

Ｎ君は語る。

「こんなことを申しますと、なんだか嘘らしいように思召すかも知れませんが、これはほんとうの事で、わたくしが現在出会ったのでございますから、どうかその思召しでお聞きください。

明治時代の湯屋について少しく調べたいことがあったので旧い雑記帳を引っくり返したり、旧い記憶を呼び起したりした。

今度はわたしの番になった。

ペテロは三たびキリストを知らずといえり。

上「あの、お菊。

草花と果物盂蘭盆の迎い火を焚くという七月十三日のゆう方に、わたしは突然に強い差込みに襲われて仆（たお）れた。

なんだか頭がまだほんとうに落ちつかないので、まとまったことは書けそうもない。

十年ぶりで三島駅から大仁行の汽車に乗換えたのは、午後四時をすこし過ぎた頃であった。

昭和十二年八月三十一日、火曜日。

『戯場訓蒙図彙』や『東都歳事記』や、さてはもろもろの浮世絵にみる江戸の歌舞伎の世界は、たといそれがいかばかり懐かしいものであっても、所詮は遠い昔の夢の夢であって、それに引かれ寄ろうとするにはあまりに縁が遠い。

震災以来、諸方を流転して、おちつかない日を送ること一年九ヵ月で、月並の文句ではあるが光陰流水の感に堪えない。

久保田米斎君の事に就て何か話せということですが、本職の画の方の事は私にはわかりませんから、主として芝居の方の事だけ御話するようになりましょう。

ことしの梅雨も明けて、温泉場繁昌の時節が来た。

赤蜻蛉私は麹町元園町一丁目に約三十年も住んでいる。