10分以内で読める岡本綺堂の短編作品

ある雑誌から「正月の思い出」という質問を受けた。

安政の大地震の翌る年の事で、麻布の某藩邸に一種の不思議が起った。

わたしは入浴が好きで、大正八年の秋以来あさ湯の廃止されたのを悲しんでいる一人である。

青蛙堂は小石川の切支丹坂、昼でも木立ちの薄暗いところにある。

これは小生の父が、眼前に見届けたとは申し兼るが、直接にその本人から聞取った一種の怪談で今はむかし文久の頃の事。

頃は安政の末、内藤家（延岡藩）の江戸邸に福島金吾という武士があった、この男、剣術柔術が得意で、随って気象も逞しい人物で、凡そ世の中に怖い物無しと誇っていたが、或時測らず一種の妖怪に出逢って、なるほど世には不思議もあるものだと流石に舌を巻いたと云う。

栗の花、柿の花、日本でも初夏の景物にはかぞえられていますが、俳味に乏しい我々は、栗も柿もすべて秋の梢にのみ眼をつけて、夏のさびしい花にはあまり多くの注意を払っていませんでした。

六月二十八日の午後六時、ハイド・パークの椅子によりながら講和条約調印の号砲を聞いた。

今から八十年ほどの昔――と言いかけて、Ｏ君は自分でも笑い出した。

これは亡父の物語。

わたしは帝劇のために「小坂部姫」をかいた。

ある雑誌社から「あなたの机は」という問合せが来たので、こんな返事をかいて送る。

目黒へ移ってから三年目の夏が来るので、彼岸過ぎから花壇の種蒔きをはじめた。

このごろ少しく調べることがあって、支那の怪談本――といっても、支那の小説あるいは筆記のたぐいは総てみな怪談本といっても好いのであるが――を猟ってみると、遠くは『今昔物語』、『宇治拾遺物語』の類から、更に下って江戸の著作にあらわれている我国の怪談というものは、大抵は支那から輸入されている。

三月二十日、土曜日。

十一月の下旬の晴れた日に、所用あって神田の三崎町まで出かけた。

七月四日、アメリカ合衆国の独立記念日、それとは何の関係もなしに、左の上の奥歯二枚が俄（にわか）に痛み出した。

何といってもこの頃は読書子に取っては恵まれた時代である。

都は花落ちて、春漸く暮れなんとする四月二十日、森青く雲青く草青く、見渡すかぎり蒼茫（そうぼう）たる青山の共同墓地に入りて、わか葉の扇骨木籬まだ新らしく、墓標の墨の痕乾きもあえぬ父の墓前に跪（ひざまず）きぬ。

田圃の太夫といわれた沢村源之助も四月二十日を以て世を去った。

久しぶりで麹町元園町の旧宅地附近へ行って見た。

◇わが国古来のいわゆる「かたき討」とか、「仇討」とかいうものは、勿論それが復讎を意味するのではあるが、単に復讎の目的を達しただけでは、かたき討とも仇討とも認められない。

大正九年十月九日、甥の石丸英一逝く。

五分間用があって兜町の紅葉屋へ行く。

白人劇の忠臣蔵や菅原はかねて噂には聞いていましたが、今度米国へ渡って来て、あたかもそれを見物する機会を得ました。

今から廿二三年前に上海で出版された「騙術奇談」といふ四巻の書がある。

秋……殊に雨などが漕々（そうそう）降ると、人は兎角に陰気になつて、動もすれば魔物臭い話が出る。