国枝史郎の全作品

［＃ページの左右中央］この Exotic の一巻を三郎兄上に献ず、兄上は小弟を愛し小弟を是認し小弟を保護したまう一人の人なり。

第一回土屋庄三郎は邸を出てブラブラ条坊を彷徨（さまよ）った。

妖僧の一泊「……ええと、然らば、匁という字じゃ、この文字の意義ご存知かな？」本条純八はやや得意気に、旧い朋友の筒井松太郎へ、斯う改めて訊いて見た。

元文年間の物語。

邪宗縁起十四の乙女久田姫は古い物語を読んでいる。

「お侍様というものは……」女役者の阪東小篠は、微妙に笑って云ったものである。

滝と池「綺麗な水ですねえ」と、つい数日前に、この植甚の家へ住込みになった、わたりの留吉は、池の水を見ながら、親方の植甚へ云った。

ここは浅草の奥山である。

ご家人の貝塚三十郎が、また芝山内で悪事をした。

安政五年九月十日の、午の刻のことでございますが、老女村岡様にご案内され、新関白近衛様の裏門から、ご上人様がご発足なされました際にも、私はお附き添いしておりました。

将軍家斉の時代であった。

痛む耳「耳が痛んでなりませぬ」と女は云って、掌で左の耳を抑えた。

帷子姿の半身トントントントントントン……トン。

文化年中のことであった。

乞食の権七が物語った。

占われたる運命は？「お侍様え、お買いなすって。

江川太郎左衛門、名は英竜、号は坦庵、字は九淵世々韮山の代官であって、高島秋帆の門に入り火術の蘊奥を極わめた英傑、和漢洋の学に秀で、多くの門弟を取り立てたが、中に二人の弟子が有って出藍の誉を謳われた。

天草騒動の張本人天草四郎時貞は幼名を小四郎と云いました。

時は春、梅の盛り、所は信州諏訪湖畔。

サラサラサラと茶筌の音、トロリと泡立った緑の茶、茶碗も素晴らしい逸品である。

木曽の代官山村蘇門は世に謳（うた）われた学者であったが八十二才の高齢を以て文政二年に世を終った。

ままごと狂女「うん、あの女があれなんだな」大髻（たぶさ）に黒紋付き、袴なしの着流しにした、大兵の武士がこういうように云った。

ぴかり！剣光！ワッという悲鳴！少し［＃「少し」は底本では「少し」］間を置いてパチンと鍔音。

吉備彦来訪読者諸君よ、しばらくの間、過去の事件について語らしめよ。

「元禄の政は延喜に勝れり」と、北村季吟は書いているが、いかにも表面から見る時は、文物典章燦然と輝き、まさに文化の極地ではあったが、しかし一度裏へはいって見ると、案外諸所に暗黒面があって、蛆（うじ）の湧いているようなところがある。

「御用！御用！神妙にしろ！」捕り方衆の叫び声があっちからもこっちからも聞こえて来る。

女から切り出された別れ話天明六年のことであった。

女軽業の大一座が、高島の城下へ小屋掛けをした。

「将軍義輝が弑（しい）された。

「宿をお求めではござらぬかな、もし宿をお求めなら、よい宿をお世話いたしましょう」こう云って声をかけたのは、六十歳ぐらいの老人で、眼の鋭い唇の薄い、頬のこけた顔を持っていた。

初対面「あの、お客様でございますよ」女房のお菊が知らせて来た。

丸橋忠弥召捕りのために、時の町奉行石谷左近将監が与力同心三百人を率いて彼の邸へ向かったのは、慶安四年七月二十二日の丑刻を過ぎた頃であった。

ここは大阪天満通の大塩中斎の塾である。

別るる恋「相手の権勢に酔わされたか！ないしは美貌に魅せられたか！よくも某を欺むかれたな！」こう罵ったのは若い武士で、その名を北畠秋安と云って、年は二十三であった。

天保元年正月五日、場所は浅草、日は午後、人の出盛る時刻であった。

何とも云えぬ物凄い睨視！海賊赤格子九郎右衛門が召捕り処刑になったのは寛延二年三月のことで、所は大阪千日前、弟七郎兵衛、遊女かしく、三人同時に斬られたのである。

（水戸の武士早川弥五郎が、清国上海へ漂流し、十数年間上海に居り、故郷の友人吉田惣蔵へ、数回長い消息をした。

仇な女と少年武士「可愛い坊ちゃんね」「何を申す無礼な」「綺麗な前髪ですこと」「うるさい」「お幾歳？」「幾歳でもよい」「十四、それとも十五かしら」「うるさいと申すに」「お寺小姓？それとも歌舞伎の若衆？」「斬るぞ！」「ホ、ホ、ホ、斬るぞ、うるさい、無礼、なんて、大変威張るのね、いっそ可愛いいわ。

袖の中には？舞台には季節にふさわしい、夜桜の景がかざられてあった。

「おいおいマリア、どうしたものだ。

初夏の夜は静かに明け放れた。

乃信姫に見とれた鼠小僧「曲者！」という女性の声。

「いや彼は隴西の産だ」「いや彼は蜀（しょく）の産だ」「とんでもないことで、巴西の産だよ」「冗談を云うな山東の産を」「李広［＃「李広」は底本では「季広」］の後裔だということだね」「涼武昭王※（りょうぶしょうおうこう）の末だよ」――青蓮居士謫仙人、李太白の素性なるものは、はっきり解っていないらしい。

娘を売った血の出る金今年の初雷の鳴った後をザーッと落して来た夕立の雨、袖を濡らして帰って来たのは村井長庵と義弟十兵衛、十兵衛の眼は泣き濡れている。

消えた提灯、女の悲鳴「……雪の夜半、雪の夜半……どうも上の句が出ないわい」寮のあるじはつぶやいた。

腰の物拝見「お武家お待ち」という声が聞こえたので、伊東頼母は足を止めた。

第一回獣人「マドリッド日刊新聞」の記事……怪獣再び市中を騒がす。

木剣試合文政×年の初夏のことであった。

楽書きをする女京都所司代の番士のお長屋の、茶色の土塀へ墨黒々と、楽書きをしている女があった。

観世縒りの人馬「飛天夜叉、飛天夜叉！」「若い女だということだね」「いやいや男だということだ」「ナーニ一人の名ではなくて、団体の名だということだ」「飛天夜叉組ってやつか」「術を使うっていうじゃアないか」「摩訶不思議の妖術をね」「宮方であることには疑がいないな」「武家方をミシミシやっつけている」「何がいったい目的なんだろう？」「大盗賊だということだが」「馬鹿を云え、勤王の士だよ」「武家方...