青空文庫の全作品

躍場が二つもある高い階段を軽くあがつて、十六ばかりの女給仕が社長室の扉をそつと叩いた。

夏水をかぶつた猿ヶ馬場耕地の田地は、出来秋の今となつては寔に見すぼらしいものであつた。

石川啄木が歿（なくな）つてからいまだ二十年かそこらにしかならないのに、石川の伝記が往々誤り伝へられてゐるのは石川のためにも喜ばしいことではない、況んや石川が存生中の知人は今なほ沢山あるにも拘はらず、その伝記がたまたま誤り伝へられてゐるのを考へると、百年とか二百年とかさきの人々の伝記なぞは随分信をおけない杜撰なものであるとも思へば思はれます。

前橋の鈴蘭燈籠停車場前から市街の外側をめぐる、新にひらかれた八間道路は前橋市の一偉観である。

石川啄木の代表作は和歌にある。

文学の方法論的研究が、近頃やうやく一部の人々の注意を、惹くやうになつて来た。

杉兄弟は支配人の娘の歌津子とほとんど同じ一つの揺籃の中で育った。

人と別れた瞳のように、水を含んだ灰色の空を、大きく環を描きながら、伝書鳩の群が新聞社の上空を散歩していた。

世にうれしき事はかずあれど、親が結びし義理ある縁にて、否でも否といひいでがたき結髪の夫にもあれ、妻にもあれ、まだ祝言のすまぬうち、死せしと聞きしにまさりたるはあらずかし。

「我が良人は今宵も帰りのおそくおはしますよ。

あやしうつむりのなやましうて、夢のやうなるきのふ今日、うき世はしげるわか葉のかげに、初ほとゝぎすなきわたる頃を、こぞの秋袷ふるめかしう取出ぬる、さりとは心もなしや。

ほとゝぎすほとゝぎすの声まだしらねば、いかにしてか聞かばやと恋しがるに、人の訪ひ来て、「何かは聞えぬ事のあるべき。

年中夫婦喧嘩をしているのである。

自分の信ずる事の出来る唯一のものは、やはり自分自身より他にはありません。

野枝さん。

ガラーリ格子の開く音がした。

流鶯啼破す一簾の春。

この小説は、大正十三年の九月から十五年の九月までの間に、一部分ずつ改造に掲載されたものだ。

この本に集められている作物は、殆どみんなモスク※で書かれたものだ。

この一冊に集められている作品の中には、「一太と母」のように随分古く書かれたものもあり、本年の一月に発表した「雑沓」のようなものもある。

この集にまとめられている感想評論は、大体一九三四年の秋から一九三五年の春ごろまでに書かれたもの、及び一年ばかりとんで、一九三六年の初夏から今日に至るまでの間に書かれたものである。

今日の私たちの生活にとって、明日というものは、世界の歴史のなかで考え得る最も複雑な内容で予想されるものとなって来ている。

この短篇集は私にとってもすこし風変りな集となった。

世界の歴史は大きく動いていて、日本の生活と文化文学も、この数年の間に示して来たうつりかわりを、これからは一層つよく広汎に現してゆくことだろうと考える。

ここに、四人の婦人の物語がある。

「伸子」は、一九二四年頃から三年ほどかかって書かれた。

「貧しき人々の群」は一九一六年、十八歳のときに書かれた。

「貧しき人々の群」は一九一六年、十八歳の秋に発表された。

こんにち、わたしたちの生活と文学との建設のために、いくつもの大きい課題があらわれて来ている。

「美しき月夜」は一九一九年の夏アメリカのレーク・ジョウジという湖畔に暮したころに書かれた。

私たち日本の女性が今日めいめいの生活にもっている理想と現実とは非常に複雑な形で互に矛盾しからみあっている。

わたしたちが文学を愛するこころもちの最も純粋な情熱は、いつも、その作品をよみ、それを書いた作家に心をひかれる人々自身の、いかに生きるか、の課題に関連している。

この本にたいする要求は、第一版のでた一九四六年の春から後、一般にたかまっていた。

この一冊におさめられた八篇の小説は、それぞれに書かれた時期もちがい、それぞれにちがった時期の歴史をももっている。

一九三三年ごろから最近までの十二、三年の間日本の文学者たちの経験したさまざまの苦しい境遇は、ほんとうに日本の全人民の辛苦と共通なものであった。

この集には、一九三七年、三九年、四〇年の間にかいた十篇の小説と亡くなった父母について記念のための随筆二篇が収められている。

暗くしめっぽい一つの穴ぐらがある。

「伸子」は一九二四年より一九二六年の間に執筆され、六七十枚から百枚ぐらいずつに章をくぎって、それぞれの題のもとに二三ヵ月おきに雑誌『改造』に発表された。

「古き小画」の新聞切抜きが見つかって、この集に入れられたのは思いがけないことだった。

「伸子」は一九二四年から一九二六年の間に書かれた。

この文芸評論集には、ごく最近に書かれた数篇と、いくらかさかのぼって一九四五年の十二月ごろから書かれた数篇とがあつめられている。

「乳房」について「乳房」は一九三五年（昭和十年）三月に書かれた。

選集第八巻、第九巻に、ソヴェト見学時代のいろいろな報告をあつめることができたのは、思いもかけなかったよろこびである。

わたしがソヴェト同盟に暮したのは、もう二十年も前のことになる。

この第八巻には、主としてソヴェト生活の見聞記があつめられている。

「伸子」の続篇をかきたい希望は、久しい間作者の心のうちにたくわえられていた。

一九三〇年の暮にソヴェト同盟から帰って来て、翌年「ナップ」へ参加するまで、わたしは評論、紹介めいたものを書いたことがなかった。

ここには、一九三二年の一月の創刊で、日本プロレタリア文化連盟から出版されていた『働く婦人』に書いた短いものからはじまって、一九四一年（太平洋戦争のはじまった年）の一月執筆禁止をうけるまで婦人のために書いた感想、評論、伝記、書評など四十篇が集められている。

「広場」は、一九四〇年にかかれた。

歴史の可能は、いつの時代にも青春のうちに見出されて来た。