60分以内で読める青空文庫の中編作品

小春日和の睡さったらない。

尾行者タバコ屋の前まで来ると、私は色硝子の輝く小窓から、チェリーを買った。

わたし達の勤めている臨海試験所のちょうど真向いに見える汐巻灯台の灯が、なんの音沙汰もなく突然吹き消すように消えてしまったのは、空気のドンヨリとねばった、北太平洋名物の紗幕のようなガスの深いある真夜中のことであった。

多分独逸物であったと思うが、或る映画の試写会で、青山喬介――と知り合いになってから、二カ月程後の事である。

日本犯罪研究会発会式の席上で、数日前に偶然にも懇意になったＭ警察署の内木司法主任から、不思議な殺人事件の急電を受けて冷い旅舎に真夜中過ぎの夢を破られた青山喬介と私は、クレバネットのレイン・コートに身を包んで烈しい風を真面に受けながら、線路伝いに殺人現場のＷ停車場へ向って速足に歩き続けていた。

――いや、全く左様ですよ。

みち幅三間とない横町の両側には、いろとりどりの店々が虹のように軒をつらねて、銀座裏の明るい一団を形づくっていた。

「どかんと一発撃てば、それでもう、三十円丸儲けさ」いつでも酔って来るとその女は、そう云ってマドロス達を相手に、死んだ夫の話をはじめる。

また雪の季節がやって来た。

小初は、跳ね込み台の櫓（やぐら）の上板に立ち上った。

ある時、半七老人をたずねると、老人は私に訊いた。

第三の男は語る。

第四の男は語る。

第五の男は語る。

第十五の男は語る。

Ｙ君は語る。

登場人物青山播磨用人柴田十太夫奴權次權六青山の腰元お菊お仙澁川の後室眞弓放駒四郎兵衞並木の長吉橋場の仁助聖天の萬藏田町の彌作ほかに若党陸尺茶屋の娘など第一場麹町、山王下。

死体、橇を駆る※いよいよ本篇から、魔境記も大ものばかりになってくる。

郵便配達が巡査のやうな靴音をさして入つて来た。

只、假初の風邪だと思つてなほざりにしたのが不可かつた。

二月の中旬、圭一郎と千登世とは、それは思ひもそめぬ些細な突發的な出來事から、間借してゐる森川町新坂上の煎餅屋の二階を、どうしても見棄てねばならぬ羽目に陷つた。

京都帝大の経済学部教授をしてゐた頃、大正九年九月の新学期から、私は経済学部の部長に補せられた。

自分は、その頃、新聞小説の筋を考えていた。

司法大臣閣下。

切支丹宗徒蜂起之事肥後の国宇土の半島は、その南方天草の諸島と共に、内海八代湾を形造って居る。

妖僧の一泊「……ええと、然らば、匁という字じゃ、この文字の意義ご存知かな？」本条純八はやや得意気に、旧い朋友の筒井松太郎へ、斯う改めて訊いて見た。

鼻が凍てつくような寒い風が吹きぬけて行った。

牛乳色の靄（もや）が山の麓へ流れ集りだした。

ぽか／＼暖かくなりかけた五月の山は、無気味で油断がならない。

一、反戦文学の階級性戦争には、いろ／＼な種類がある。

ええ、お話しするわ、あたしどうせお喋りだわ。

私は今でもあの夜の光景を思い出すとゾットする。

辻川博士の奇怪な研究室は葉の落ちた欅（けやき）の大木にかこまれて、それらの木と高さを争うように、亭々として地上三十尺あまりにそびえている支柱の上に乗っていた。

奇怪な死人別荘――といっても、二昔も以前に建てられて、近頃では余り人が住んだらしくない、古めかしい家の中から、一人の百姓女が毬（まり）のように飛出して来た。

上野の春の花の賑ひ、王子の秋の紅葉の盛り、陸の東京のおもしろさは説く人多き習ひなれば、今さらおのれは言はでもあらなん。

ずっと前の事であるが、或（ある）人から気味合の妙な談を聞いたことがある。

魔法。

花のいろ／＼幸田露伴梅梅は野にありても山にありても、小川のほとりにありても荒磯の隈にありても、たゞおのれの花の美しく香の清きのみならず、あたりのさまをさへ床しきかたに見さするものなり。

ここは××署の訊問室である。

Ｔ医科大学の四年級の夏休みに、わたしは卒業試験のため友人の町田と二人で伊豆山のＳ旅館に出かけました。

親愛なるＡ君！君の一代の盛典を祝するために、僕は今、僕の心からなる記念品として、「恋愛曲線」なるものを送ろうとして居る。

Ｋ君。

その第六話です。

――第七話です三十五反の帆を張りあげて行く仙台石の巻とは、必ずしも唄空事の誇張ではない。

――その第九話です。

――その第十話です。

――その第五話です。

ゆらりとひと揺れ大きく灯ざしが揺れたかと見るまに、突然パッと灯りが消えた。

燐（りん）の火だ！さながらに青白く燃えている燐の火を思わすような月光である。

「足音が高いぞ。