5分以内で読める田中貢太郎の短編作品

伝奇物語に興味を有する私は、折にふれて支那の随筆小説を読んだ。

秦の始皇の時、王道平という男があった。

燕（えん）の恵王の墓の上に、一疋の狐と一疋の狸が棲んでいた。

漢の時、東華郡の陳司空が死んで葬っておくと、一年ばかりして不意に家へ帰ってきた。

志玄という僧があったが、戒行の厳しい僧で、法衣も布以外の物は身に著けない。

李汾（りふん）は山水が好きで四明山にいた。

支那の万暦年中、毘陵に猿曳の乞児があって、日々一疋（ぴき）の猴（さる）を伴れて、街坊に往き、それに技をさして銭を貰っていたが、数年の後にその金が集まって五六両になった。

村に一人の男があって梨を市に売りに往ったが、すこぶる甘いうえに芳もいいので貴い値で売れた。

車という男は、貧乏でありながら酒ばかり飲んでいた。

寛文十年と云えば切支丹で世間が騒いでいる時である。

某禅寺に壮い美男の僧があって附近の女と関係しているうちに、僧は己の非行を悟るとともに大に後悔して、田舎へ往って修行をすることにした。

千住か熊谷かのことであるが、其処に某尼寺があって、その住職の尼僧と親しい壮い男が何時も寺へ遊びに来ていたが、それがふっつりと来なくなった。

番町の青山主膳の家の台所では、婢（げじょ）のお菊が正月二日の昼の祝いの済んだ後の膳具を始末していた。

幕末の話である。

私は物を書く時、面白い構想が浮ばないとか、筋が纏（まと）まらないとかいうような場あいには、六朝小説を出して読む。

鶴岡城下の話であるが、某深更に一人の武士が田圃路を通っていると、焔のない火玉がふうわりと眼の前を通った。

遠州の御前崎に西林院と云う寺があった。

越前の福井は元北の庄（しょう）と云っていたが、越前宰相結城秀康が封ぜられて福井と改めたもので、其の城址は市の中央になって、其処には松平侯爵邸、県庁、裁判所、県会議事堂などが建っている。

鶴岡の城下に大場宇兵衛という武士があった。

山形県最上郡豊田村に沓澤仁蔵と云う行商人があった。

安永年間のことであった。

市ヶ谷の自証院の惣墓の中に、西応従徳と云う法名を彫った墓がある。

安政年間の事であった。

三代目尾上菊五郎は怪談劇の泰斗として知られていた。

四手網俳優の木下がまだ田舎まわりの馬の脚であった時、夜、利根川の土手を歩いていると、むこうの方の川縁に時とすると黒い大きな物があがって、それが星あかりに怪しく見える。

私が最初に怪談に筆をつけたのは、大正七年であつた。

怪談も生活様式の変化によって変化する。

閨秀画家の［＃「閨秀画家の」は底本では「閏秀画家の」］伊藤美代乃女史は、秋田の出身であるが、その女史が小さい時、それは晩春の事であった。

これは小説家泉鏡花氏の話である。

怪談浪曲師浪華綱右衛門の家に、怪奇なお化の面があった。

震災の前であった。

大正七八年比のことであった。

コクリと云う遊戯は、海外から渡来したものであって、渡来期は正確には判らないが、明治十六年比、米国船が伊豆の下田へ寄港した時、水夫の一人がそれを伝えたと云われている。

北海道の○○大学は、後に農園があって、側面が運動場になっているが、その運動場の端れから農園にかけて草の堤が続き、そして堤の外は墓場になっていた。

昔から山には魑魅、水には魍魎（もうりょう）がおると云われているが、明治二十年比の事であった。

この話は長谷川伸君から聞いた話であるが、長谷川君は日露役の際、即ち明治三十七年の暮に、補充兵として国府台の野砲連隊へ入営した。

大正十二年九月一日、高橋秀臣君は埼玉県下へ遊説に往っていたが、突如として起った大震災の騒ぎに、翌二日倉皇として神田錦町の自宅へ帰ったが、四辺は一面の焼野原。

長崎市の今博多町、中島川に沿うた処に、竹田と云う青年が住んでいた。

鏑木清方画伯の夫人が産褥熱で入院した時の話である。

小説家の山中峯太郎君が、広島市の幟町にいた比のことであった。

兵庫県と岡山県の境になった上郡と三石間の隧道の開鑿工事は、多くの犠牲者を出してようやく竣工しただけに、ここを通る汽車は、その車輪の音までが、「骨がたりない、トコトコトン」と聞えると云って、車掌たちから恐れられていた。

よく肉親の身の上に変事があると、その知らせがあると云いますが、私にもそうした経験があります。

昭和十年九月二十八日の夜の八時比、駒込神明町行の市電が、下谷池の端の弁天前を進行中、女の乗客の一人が、何かに驚いたように不意に悲鳴をあげて、逃げ出そうとでもするようにして上半身を窓の外へ出したところで、そこにあったセンターポールで顔を打って昏倒した。

長谷川時雨女史の実験談であるが、女史が佃島にいた比、令妹の春子さんが腸チブスに罹（かか）って離屋の二階に寝ていたので、その枕頭につきっきりで看護していた。

昭和九年の夏、横井春野君が三田稲門戦の試合を見て帰って来たところで、その時千葉の市川にいた令弟の夫人から、「病気危篤、すぐ来い」と云う電報が来た。

品川駅の近くに魔の踏切と云われている踏切がある。

明治二十二三年比のことであった。

少し古い土地の人なら、八丁堀に岡吉と云う色物専門の寄席があったのを記憶しているはずである。

長野県の上田市にある上田城は、名将真田幸村の居城として知られているが、その上田城の濠の水を明治初年になって、替え乾そうと云う事になった。

洋画家の橋田庫次君の話であるが、橋田君は少年の頃、吾川郡の弘岡村へ使いに往って、日が暮れてから帰って来たが、途中に荒倉と云う山坂があって、そこには鬼火が出るとか狸がいるとかと云うので、少年の橋田君は鬼魅がわるかった。