坂口安吾の全作品

仙台は伊達政宗のひらいた城下町。

海を見たことがないという山奥の子供でも汽車や自動車は見なれているという文化交通時代であるが、紀伊半島を一周する汽車線はいまだに完成していない。

この正月元旦に大島上空を飛行機で通過したとき（高度は三千メートルぐらいだったらしい）内輪山の斜面を熔岩が二本半、黒い飴ン棒のように垂れていただけであった。

急行列車が駅にとまると、二人か三人の私服刑事らしき人物が車内の人物の面相を読みつつ窓の外を通りすぎる。

飛騨（実にメンドウな字だから以後カナで書かせてもらいますよ）は日本の古代史では重大きわまる土地であります。

宝塚少女歌劇というものは、現代の神話的存在の一ツである。

私は犬が好きだ。

今日では埼玉県入間郡高麗村ですが、昔は武蔵の国の高麗郡であり、高麗村でありました。

過去の文士の論争がどんな風に行われたかということについて私は不案内であるが、佐藤春夫、河盛好蔵両先生の大論争には新時代風があると思った。

人形をだく婦人の話高木貴与子（卅四歳）女礼チャン（六ツ）の事でございますか、動機と申しましても、さあ他人はよく最愛の子供を亡くしたとか、失恋して愛情の倚（よ）りどころを人形に托したと御想像になりますが、これといって特別な訳があるのではございません。

華頂博信氏手記私どもの離婚は決して夫婦喧嘩ではありません。

不見転観相学桜井大路この写真（次頁の）から観た処では、額、眉、耳と何れにも非常に強く反家庭的な相が感じられる。

ふと校庭を眺めると、例の学生がまた走っていた。

その山奥の村に殺人事件があった。

ゴルフをしなかった話私は二ヶ月前からゴルフをはじめた。

晦日風呂その日は大晦日です。

アナタハン島の悲劇はむろん戦争がなければ起らなかった。

消えた男「ここの女主人は何者だろうな」この家の前を通る時、波川巡査は習慣的にふとそう思う。

「炉辺夜話集」といふこの本の題名は、この本にあつめられた五ツの物語に対して、作者がどのやうな心持をもつてゐるか、それを率直に表しもし、又、ある意味では、作者が文学そのものをどのやうなものに考へてゐるかといふことを、率直に露呈もしてゐます。

こゝに、歴史的事実といふものがあつて、作家が、製作欲をそゝられる場合、然しながら、如何に書くべきか、といふことは、かやうな意欲と同時に忽ち構想されるほど容易なものでは決してない。

ふるさとの雪国でこんな雑誌がでゝゐるかと思ふと、それだけでたのしい思ひになります。

危険な関係（創元社からでる由）ラクロ著マノンレスコオ（春陽堂文庫）プレボオ著一、娼婦とか妖婦といはれる女達の徳性に就て、家庭婦人に読み、考へていたゞきたいのです。

挨拶予告して申し上げるほどの言葉はまだないのです。

私たちが羽田をたつ日、東京は濃霧であった。

発端先月日向を旅行したとき、宮崎市内の鉄道沿線に「クスリは富山の広貫堂」という広告板を見た。

僕らが「言葉」という飜訳雑誌、それから「青い馬」という同人雑誌をだすことになって、その編輯に用いた部屋は芥川龍之介の書斎であった。

私の父は私の十八の年（丁度東京の大地震の秋であったが）に死んだのだから父と子との交渉が相当あってもよい筈（はず）なのだが、何もない。

私はそのころ耳を澄ますようにして生きていた。

およそ芸ごとには、その芸に生きる以外に手のない人間というものがあるものだ。

神田のアテネ・フランセという所で仏蘭西語を習っているとき、十年以上昔であるが、高木という語学の達者な男を知った。

東洋大学の学生だったころ、丁度学年試験の最中であったが、校門の前で電車から降りたところを自動車にはねとばされたことがあった。

私はいつも神様の国へ行こうとしながら地獄の門を潜ってしまう人間だ。

私は友達から放浪児と言われる。

小説の文章を他の文章から区別する特徴は、小説のもつ独特の文章ではない。

本日（一九四六年七月七日・日曜）朝食の折から一通の速達が舞いこんできた。

毎日新聞所載、尾崎咢堂の世界浪人論は終戦後現れた異色ある読物の一つであったに相違ない。

この日記を発表するに就ては、迷った。

敗戦後国民の道義頽廃せりというのだが、然らば戦前の「健全」なる道義に復することが望ましきことなりや、賀すべきことなりや、私は最も然らずと思う。

極意だの免許皆伝などというのは茶とか活花とか忍術とか剣術の話かと思っていたら、関孝和の算術などでも斎戒沐浴して血判を捺（お）し自分の子供と二人の弟子以外には伝えないなどとやっている。

妖雲天地にたちこめ、円盤空をとび、巷（ちまた）の天文家は戦争近しと睨（にら）んだ形跡であるが、こと私自身に関しては、戦争になっても余り困らない人間だ。

私はいつか眼鏡をこわしたことがあった。

先日朝日評論のＯ氏現れ、開口一番、舟橋聖一のところには日に三人の暴力団が参上する由だが、こちらはどうですか、と言う。

勝海舟の明治二十年、ちょうど鹿鳴館時代の建白書の一節に次のようなのがある。

天草四郎という美少年は実在した人物には相違ないが、確実な史料から彼の人物を知ることはほとんどできない。

国史上「威風高き女性」をもとめると数は多いが、私は高野天皇の威風が好きである。

昔、越後之国魚沼の僻地に、閑山寺の六袋和尚といって近隣に徳望高い老僧があった。

雪国の山奥の寒村に若い禅僧が住んでいた。

「扨（さ）て一人の男が浜で死んだ。

日本史に女性時代ともいうべき一時期があった。

四郎は南の島から復員した。