30分以内で読める青空文庫の短編作品

遠望であるから細かいところは見えないものと承知していただきたい。

歌舞伎芝居や日本音曲は、徳川時代に完成せられたものからほとんど一歩も出られない。

蓮（はす）の花は日本人に最も親しい花の一つで、その大きい花びらの美しい彎曲線や、ほのぼのとした清らかな色や、その葉のすがすがしい匂いや肌ざわりなどを、きわめて身近に感じなかった人は、われわれの間にはまずなかろうと思う。

京都に足かけ十年住んだのち、また東京へ引っ越して来たのは、六月の末、樹の葉が盛んに茂っている時であったが、その東京の樹の葉の緑が実にきたなく感じられて、やり切れない気持ちがした。

五、六年前のことと記憶する。

私がここに観察しようとするのは、「偶像破壊」の運動が破壊の目的物とした、「固定観念」の尊崇についてではない。

大地震以後東京に高層建築の殖えて行った速度は、かなり早かったと言ってよい。

自分にとっては、強く内から湧いて来る自己否定の要求は、自己肯定の傾向が隈（くま）なく自分を支配していた後に現われて来た。

青春を通り越したというのでしきりに残り惜しく感じている人があるようですが、私はまだその残り惜しさをしみじみ感ずるほどな余裕をもっていません。

講和近づけりという噂がある。

我々は創作者として活らく時、その創作の心理を観察するだけの余裕を持たない。

ある雨の降る日、私は友人を郊外の家に訪ねて昼前から夜まで話し込んだ。

過去の生活が突然新しい意義を帯びて力強く現在の生活を動かし初めることがある。

藤村は非常に個性の強い人で、自分の好みによる独自の世界というふうなものを、おのずから自分の周囲に作り上げていた。

夏目先生の大きい死にあってから今日は八日目である。

日本文化協会の催しで文楽座の人形使いの名人吉田文五郎、桐竹紋十郎諸氏を招いて人形芝居についての講演、実演などがあった。

麦積山の調査が行なわれたのは四年ほど前で、その報告も、すぐその翌年に出たのだそうであるが、わたくしはついに気づかずにいた。

問題にしない時にはわかり切ったことと思われているものが、さて問題にしてみると実にわからなくなる。

関東大震災の前数年の間、先輩たちにまじって露伴先生から俳諧の指導をうけたことがある。

ロシアの都へ行く旅人は、国境を通る時に旅行券と行李とを厳密に調べられる。

一八八三年七月三日、当時オーストリア帝国領であったプラーク（現在のチェコ首都プラハ）に生まれる。

琴手トオカルがその友「歌のアイ」の死をきいた時、彼は三つの季節、即ち青い葉の季節、林檎の季節、雪の季節のあいだ、友のために悲しむ誓いを立てた。

神がコラムを永遠の宴に召される一年ほど前のことである、［＃「ことである、」は底本では「ことである。

グラッドロンがブリタニイを領していたアルモリカ人の王であった時、即ちアルヴォルの王であった時、彼の名にまさる名はなかった。

ロックリンの海賊どもがヘブリッド島の鴉に餌じきを与えた時から三年目の、しろき六月とよばれる月に、夏の航海者たちは又もスカイの海峡を下って来た。

強い女王スカァアが剣持つ手の掌に死の影を握って支配していたスカイの島をクウフリンが立ち去った時、そこには彼の美を惜しむなげきがあった。

モイルの荒々しい水に洗われているアルバンの南方の王であったケリルが寂しい土地にたった一疋の猟犬をつれて一人で猟している時のことであった、ケリルはその時、同じ生命を持っている二人の生命は互に触れて一つになることがあるという事を見出した。

シェーン婆さんは青々した草原の向うのほそい流れで馬鈴薯の皮むきに使う板を洗うとやがて自分の小舎に帰って来て泥炭の火の前に腰を下ろした。

講演会なんかといいますと、学校の仕事みたいでなんだかけちくさくおもしろくありませんから、講演会なんかといわないで、膝つき合わせて皆様もわたしも語るという会にいたしましょう。

『陶』の紙上で、現代の茶道人として名のある松永耳庵さんは、作陶家に諭さんその心として、汝（なんじ）らはすべからく茶を知れ、そして茶家の指導を受けよ、しからざれば茶器は生まれないぞ……と垂教された。

展覧会のことはただいまお聞きのとおりでございますから繰り返して申し上げませぬが、私に喋（しゃべ）れといわれましたことは、古陶磁はなぜそんなに尊いかということをいってくれというお話でありましたので、それをうまく申すことは出来ないと思いますが、まあ簡単にそれをいえるだけ申し上げてみたいと思っております。

昔の料理は至極簡単なものであった。

東京における戦後の寿司屋の繁昌は大したもので、今ではひと頃の十倍もあるだろう。

私どもが旅行をしますと、汽車の弁当を食ったり、旅館の料理を食ったりしなければなりませんが、それらはいかにも不味くてまったく閉口します。

優れた作品を書く方法の一つとして、一日に一度は是非自分がその日のうちに死ぬと思うこと、とジッドはいったということであるが、一日に一度ではなくとも、三日に一度は私たちでもそのように思う癖がある。

上京の頃僕が初めて東京に出て来た年少時に、京橋のビアホールになにか祝いごとがあってね。

東京ほどまぐろを食うところはあるまい。

美味い不味いは栄養価を立証する。

赤城の大沼明治四十一年十月の末、われ三度目にて妙義山に遊び、去つて榛名山の麓を過ぎて、赤城山に上りぬ。

自稱判者足柄山へとて、天野長川をつれて、新橋より汽車にのりけるが、何十度となく通過せる路なれば、送る水、迎ふる山、最早めづらしくも無し。

甲子温泉『白川へ至りて甲子の山見ざらむは、甲子の門過ぎて入らざるが如し。

『石田三成』一部、朝吹英二氏よりおくりこさる。

上野公園の新緑に送られて、來て鹽釜神社に詣づれば、祠側の鹽釜櫻、笑つて我を迎ふ。

夜光命、十口坊、打揃ひて裸男を訪ひ、『鹽原温泉に遊ばずや』といふ。

南湖公園甲子温泉に滯在する中、一日白河へとて、田中桃葉と共に山を下りけるに、白河の青年藤田虎太、長谷部英一、同英吉の三氏後より追付き來りて、共にす。

山間のがたくり馬車秋の雨しめやかに降る日、夜光命飄然來りて裸男を訪ひ、『久しく旅行せざりき。

大いに醉ひて、洋服着たるまゝにて、寢につきたるは夜の一時半、五時の出發には間もなけれど、少しでも睡らむと思へるなり。

日本へ来て貿易商館を開いてからまだ間もない瑞典人で、キャリソン・グスタフという六尺有余の大男がある。

上広告拙者昨夕散歩の際此（この）辺一町以内の草の中に金時計一個遺失致し候間御拾取の上御届け下され候御方へは御礼として金百円呈上可仕候月日あーさー、へいげんこれ相州西鎌倉長谷村の片辺に壮麗なる西洋館の門前に、今朝より建てる広告標なり。

ある晩私は桂三郎といっしょに、その海岸の山の手の方を少し散歩してみた。