5分以内で読める青空文庫の短編作品

火皿は油煙をふりみだし、炉の向ふにはこの家の主人の膝が大黒柱を切って投げ出しどっしりがたりと座ってゐる。

石ヶ森の方は硬くて瘠せて灰色の骨を露はし大森は黒く松をこめぜいたくさうに肥ってゐるが実はどっちも石英安山岩だ。

（四月の夜、とし老った猫が）友達のうちのあまり明るくない電燈の向ふにその年老った猫がしづかに顔を出した。

買ひものといふ事は、女性とは大変に密接な関係があるやうである。

或小学校に於ける手工の時間に、Ｆといふ教師の経験した話。

蕎麥屋須磨の浦を一の谷へ歩いて行く。

おれは設計図なぞ持って行かなかった。

こつこつと扉を叩いたのでさっきから大礼服を着て二階の式場で学生たちの入ったり整列したりする音を聞きながらストウヴの近くできうくつに待ってゐた校長は低くよしと答へた。

物を弄ぶのはその物の真髄を知らないからである。

自分の道を歩む人に堕落はない。

大の字に寝て涼しさよ淋しさよ一茶の句である。

いつからともなく、どこからともなく、秋が来た。

△春と共に白楊社が生れた。

私は此頃自から省みて『私は砕けた瓦だ』としみじみ感ぜざるをえないようになった。

現時の俳壇に対して望ましい事は多々あるが、最も望ましい事の一つは理解ある俳論の出現である。

私には私らしい、庵には庵らしいお正月が来た。

新年句会には失敬しました、あれほど堅く約束していた事ですから、私自身は必ず出席するつもりでしたけれど、好事魔多しとやらで、飛んでもない邪魔が這入って、ああいうぐうたらを仕出来しました、何とも彼とも言訳の申上様もありません、ただただ恐縮の外ありません、新年早※ぐうたらの発揮なんぞは自分で自分に愛想が尽きます、といったところで、ぐうたらは何処まで行ってもぐうたら、何時になってもぐうたらで、それは私の皮膚の色が黒いのとおなじく、私の性であります、私自身さえ何うする事も出来ません、有体に白状しま...

私は木花よりも草花を愛する。

熟した果実がおのずから落ちるように、ほっかりと眼が覚めた。

――私はその日その日の生活にも困っている。

茶の花庵のまわりには茶の木が多い。

私は長いあいだ漬物の味を知らなかった。

九月三日。

昭和八年一月一日、私はゆうぜんとしてひとり（いつもひとりだが）こここうしてかしこまっていた。

ここへ移って来てから、ほんとうにのびやかな時間が流れてゆく。

井泉水氏は印象詩乃至象徴詩としての俳句について屡々語られた。

家郷忘じ難しという。

私もどうやら思い出を反芻する老いぼれになったらしい。

禅門に「歩々到着」という言葉がある。

禅門――洞家には『永平半杓の水』という遺訓がある。

いつぞや、日向地方を行乞した時の出来事である。

物を大切にする心はいのちをはぐくみそだてる温床である。

あんまり早く起きたところで仕方がないから、それに今でもよく徹夜するほど夜更しをする性分の私だから、自分ながら感心するほど悠然として朝寝をする。

御飯ができ、お汁ができて、そして薬缶を沸くようにしておいて、私は湯屋へ出かける。

私もいつのまにやら五十歳になった。

この無題の小説は、泉先生逝去後、机辺の篋底に、夫人の見出されしものにして、いつ頃書かれしものか、これにて完結のものか、はたまた未完結のものか、今はあきらかにする術なきものなり。

五圓と十圓裸男著述の爲に、南郊に籠城して、世間と絶縁すること、幾んど半年に及べり。

夜光命も、十口坊も、第一回の夜行に閉口したりけむ、千葉に向つて第二回の夜行を爲したる時は、來り會せざりき。

靈魂爲質。

詠詩亡友南洲氏。

佐藤一齋ノ言志録凡一千三十四條。

先生諱ハ坦、通稱ハ捨藏、一齋ト號ス、佐藤氏。

先生諱ハ種樹、古香ト號ス。

僕は讀んでゐるうちに何かしら氣味惡くなつてくるやうな作品が好きだ。

たしかシングであつたと思ふ。

「馬車」は横光利一さんのもつとも特異な作品の一つである。

昔からよく隨筆の題にはその筆者の好む花の名などが用ひられてゐる。

第三回の夜行を粕壁に爲すこととなりけるが、夜光命も來らず、十口坊も來ず、山神慨然として、『妾を伴ひ給へ』と乞ふ。

裸男以爲へらく、『文明ます／＼進みて、人はます／＼柔弱になり行く。

明治神宮は、林の中にあり。