原民喜の全作品

まっ青な空に浮ぶ一片の白い雲がキラキラと雪のやうに光ってゐる、山の頂である。

ひどい家だ、ひどい嵐だ、崖の上にのつかってゐるそのボロボロの家は、難破船のやうに傾いてゐる。

二晩ぐらゐ睡れないことがあると、昼はもとより睡れなかった。

重苦しい六時間の授業が終って、侃は一人で校門を出る。

鶉居山房と私とは路傍に屈んで洋服屋の若旦那を待ってゐた。

飛行機を眺めてゐたら朝子の頬にぬらりと掌のやうな風が来て撫でた。

東京から叔父が由三の家を訪ねて来たのは、今度叔父も愈々墓地を買ったのでそれの自慢のためだった。

机を前にして二人の少年は坐ってゐた。

生活が一つのレールに乗って走り出すと、窓から見える風景がすべて遠い存在として感じられた。

植民地を殖すのだとか、鉄道を敷設するのだとか云ふ譬喩で、新しく友達を作ることを彼は説明するのであった。

庭暗い雨のふきつのる、あれはてた庭であつた。

昼わたしは熱があつて睡つてゐた。

落日湖のうへに、赤い秋の落日があつた。

夕方の外食時間が近づくと、彼は部屋を出て、九段下の爼橋から溝川に添い雉子橋の方へ歩いて行く。

※私が魯迅の「孤独者」を読んだのは、一九三六年の夏のことであったが、あのなかの葬いの場面が不思議に心を離れなかった。

鶴見橋といふ名前があるからには、比治山に鶴が舞っていたのだらう。

ペン・クラブの一行と別れて、私はまだ廣島に滞在しているわけだが、今朝は久振りで泉邸や常盤橋から饒津の方を歩いてみた。