海野十三の全作品

前夜の調べ物の疲れで、もう少し寝ていたいところを起された私立探偵局の帆村荘六だった。

これは或るスパイ事件だ。

この奇怪極まる探偵事件に、主人公を勤める「赤外線男」なるものは、一体全体何者であるか？それはまたどうした風変りの人間なのであるか？恐らくこの世に於（おい）て、いまだ曾（かつ）て認識されたことのなかった「赤外線男」という不思議な存在――それを説明する前に筆者は是非とも、ついこのあいだ東都に起って、もう既に市民の記憶から消えようとしている一迷宮事件について述べなければならない。

銀座の舗道から、足を踏みはずしてタッタ百メートルばかり行くと、そこに吃驚するほどの見窄らしい門があった。

あの夜更、どうしてあの寂しい裏街を歩いていたのかと訊（き）かれると、私はすこし顔が赭（あか）くなるのだ。

「おや、ここに寝ていた患者さんは？」と林檎のように血色のいい看護婦が叫んだ。

小春日和の睡さったらない。

尾行者タバコ屋の前まで来ると、私は色硝子の輝く小窓から、チェリーを買った。

逢（お）う魔が時刻秋も十一月に入って、お天気はようやく崩れはじめた。

あの一見奇妙に見える新聞広告を出したのは、なにを隠そう、この妾（わたし）なのである。

少年探偵三浦三吉永く降りつづいた雨がやっとやんで、半月ぶりにカラリと空が晴れわたった。

発端問題の「蠅男」と呼ばれる不可思議なる人物は、案外その以前から、われわれとおなじ空気を吸っていたのだ。

ネス湖の怪物「ほんとうかなア、――」と、河村武夫はつい口に出してしまった。

事件依頼人昭和五十二年の冬十二月十二日は、雪と共に夜が明けた。

事件引継簿或る冬の朝のことであった。

銀座の焼跡すばらしき一坪館！一坪館て何だろうか。

電波小屋「波動館」みなさんと同じように、一畑少年も熱心な電波アマチュアだった。

一代の奇賊烏啼天駆と、頑張り探偵袋猫々との対峙も全く久しいものだ。

深夜の事件黒眼鏡に、ひどい猫背の男が、虎猫色の長いオーバーを地上にひきずるようにして、深夜の町を歩いていた。

義弟の出獄烏啼天駆といえば、近頃有名になった奇賊であるが、いつも彼を刑務所へ送り込もうと全身汗をかいて奔走している名探偵の袋猫々との何時果てるともなき一騎討ちは、今もなお酣（たけなわ）であった。

暗闇の中の声奇賊烏啼天駆と探偵袋猫々の睨（にら）み合いも久しいものである。

ルパン式盗難その朝、志々戸伯爵は、自分の書斎に足を踏み入れるや、たちまち大驚愕に襲われた。

美しき脛（すね）いちばん明るい窓の下で、毛脛を撫でているところへ、例によって案内も乞わず、友人の鳴海三郎がぬっと入ってきた。

密林荘で、熊井青年が自殺したという事件が、例の有名な旗田警部のところへ廻されて来た。

プロローグその朝、帆村荘六が食事をすませて、廊下づたいに同じ棟にある探偵事務所の居間へ足を踏み入れたとき、彼を待っていたように、机上の電話のベルが鳴った。

やがて四月の声を聞こうというのに、寒さはきびしかった。

ヒマラヤ越えこのふしぎな物語は旅客機ヤヨイ号が、ヒマラヤ山脈中に不時着した（？）事件から、はしなくも、くりひろげられる。

見取図鬼仏洞の秘密を探れ！特務機関から命ぜられた大陸に於（お）けるこの最後の仕事、一つに女流探偵の風間三千子の名誉がかけられていた。

上海四馬路の夜霧は濃い。

発端そのころ、広い太青洋を挟んで、二つの国が向きあっていた。

女探偵の悒鬱「離魂の妻」事件で、検事六条子爵がさしのばしたあやしき情念燃ゆる手を、ともかくもきっぱりとふりきって帰京した風間光枝だったけれど、さて元の孤独に立ちかえってみると、なんとはなく急に自分の身体が汗くさく感ぜられて、侘（わび）しかった。

奇異の患者「ねえ、博士。

怪放送――お化け地球事件とは？西暦一九七〇年の夏――折から私は、助手のオルガ姫をつれて、絶海の孤島クロクロ島にいた。

魔都上海に、夏が来た。

およそ新兵器の発明にかけては、今日世界に及ぶものなしと称せられる金博士が、とつぜん謎の失踪をとげた。

なにがさて、例の金博士の存在は、現代に於ける最大奇蹟だ。

蒸し暑い或る夜のこと、発明王金博士は、袖のながい白服に、大きなヘルメットをかぶって、飾窓をのぞきこんでいた。

大上海の地下を二百メートル下った地底に、宇宙線をさけて生活している例の変り者の大科学者金博士のことは、かねて読者もお聞き及びであろう。

倉庫ぼくほど不幸なものが、またと世の中にあろうか。

作者より読者へうれしい皇軍の赫々（かっかく）たる大戦果により、なんだかちかごろこの地球というものが急に狭くなって、鼻が悶（つか）えるようでいけない。

英蘭西岸の名港リバプールの北郊に、ブルートという町がある。

青い器械「これでいい。

（×月×日、スカパフロー発）余は本日正午、無事ロイヤル・オーク号に乗艦せるをもって、御安心あれ。

怪貨物船あらわる！北緯二十度、東経百十五度。

新宇宙艇月世界探険の新宇宙艇は、いまやすべての出発準備がととのった。

南方航路そのころ太平洋には、眼に見えない妖しい力がうごいているのが感じられた。

これからわたくしの述べようとする身の上話を、ばかばかしいと思う人は、即座に、後を読むのをやめてもらいたい。

一度トーキーの撮影を見たいものだと、例の私立探偵帆村荘六が口癖のように云っていたものだから、その日――というと五月一日だったが――私は早く彼を誘いだしに小石川のアパートへ行った。

甲野八十助「はアて、――」と探偵小説家の甲野八十助は、夜店の人混みの中で、不審のかぶりを振った。

「旦那人殺しでがすよ」「ナニ人殺しだって？何処だッ、誰が殺されたのだッ、原稿の頁（ページ）が無いのだ、早く云え」「そッそんなに急いでも駄目です。