坂口安吾の全作品

木戸六段が中座したのは午後三時十一分であった。

この捕物帖はたいがい五段からできています。

近頃は劇も映画も一夜づくりの安物ばかりで、さながら文化は夜の街の暗さと共に明治時代へ逆戻りだ。

寺院に特殊な生活があるとすれば禁欲生活より外にはないと思われます。

シャルル・ペロオの童話に「赤頭巾」という名高い話があります。

私は子供のとき新聞紙をまたいで親父に叱られた。

木枯国で捕虜となった一日本人市民が、その地の病院勤務を命ぜられ、雑役夫として働きつつある物語である。

御手紙ありがたく存じました。

その加茂五郎兵衛の加茂は古い姓です。

発端木枯の荒れ狂う一日、僕は今度武蔵野に居を卜そうと、ただ一人村から村を歩いていたのです。

日本には傑れた道化芝居が殆んど公演されたためしがない。

母。

僕は天性模倣癖旺盛で、忽ち人の感化を受けてしまう。

そのころ二十一であった。

私は蒼空を見た。

最近私は、Ｎ・Ｒ・Ｆの新年号に於て、イリヤ・エレンブルグが「青年期ロシヤ」という一種の報告書を寄せているのを読んだ。

戦争中はほかに楽しみもなかったので、私はよく碁会所のお世話になった。

……先頃、文芸銃後運動の講演会か何かがあって、壇上の諸家が期せずして一人も文学を語らなかったというので、この事実に非常に感動した文章を書いていた作家があったけれども、僕にはどうも不思議な気持がするばかりで腑に落ちないこと夥しい。

「枯淡の風格」とか「さび」というものを私は認めることができない。

長島に就て書いてみたところが、忽ち百枚を書いたけれども、重要なことが沢山ぬけているような気がして止してしまった。

オツネはメクラのアンマだ。

「文芸」二月号所載、アンドレ・ジイドの「一つの宣言」は興味深い読物であった。

今年いっぱい、日本諸国をかなり足まめに旅行した。

私は元来、浅学と同時に物臭の性で、骨を折ってまで物事を理解しようなぞという男らしい精神は余り恵まれていない。

原子バクダンの被害写真が流行しているので、私も買った。

敵は中小都市の予告爆撃というものをやりだしたが、これはつまり予告殺人事件と同じ性質のものだと思われる。

以前新井白石の「西洋紀聞」によってシドチ潜入に就て小説を書いたとき、屋久島はどんな島かしらと考えた。

私は少年時代から探偵小説の愛好者であったが、日本で発行されたほぼ全部の探偵小説を読むに至ったのは戦争のおかげであった。

発端木枯の荒れ狂ふ一日、僕は今度武蔵野に居を卜さうと、ただ一人村から村を歩いてゐたのです。

私は蒼空を見た。

矢車凡太が黒谷村を訪れたのは、蜂谷龍然に特殊な友情や、また特別な興味を懐いてゐたためでは無論ない。

凡そ退屈なるものの正体を見極めてやらうと、そんな大それた魂胆で、私はこの部屋に閉ぢ籠つたわけではないのです。

波の上に夜が落ちる。

星のキラキラとした夜更けのことで、大通りの睡り耽つたプラタナの陰には最早すつかり濡れてしまつた街燈が、硝子の箱にタラタラと綺麗な滴を流してゐたが、――シルクハットを阿弥陀に被り僕の腕に縋り乍らフラフラと千鳥足で泳いでゐた霓博士は、突然物凄い顔をして僕を邪慳に突き飛ばした。

――首縊つて死んぢまへ！お前が、さう言つたんぢやないか。

凡そ世に同じ人間は有り得ないゆえ、平凡な人間でもその種差に観点を置いて眺める時は、往々、自分は異常な人格を具へた麒麟児であると思ひ込んだりするものである。

芸術の最高形式はファルスである、なぞと、勿体振つて逆説を述べたいわけでは無論ないが、然し私は、悲劇や喜劇よりも同等以下に低い精神から道化が生み出されるものとは考へてゐない。

雑沓の街は結局地上で一番静寂な場所であるかも知れない。

その村に二軒の由緒正しい豪家があつた。

あの頃私は疲れてゐた。

「ごらんなさい。

私は祖国日本にいささか退屈を感じてゐる。

九段坂下の裏通りに汚い下宿屋があつた。

不平、希望、有るといへば多々ありますけれど、小さなことでごて／＼言ひたくありません。

貴方は南国の傀儡（くぐつ）を御存じですか？（と物識りの旅行家が私に話してきかせました）文楽の舞台に比べては余り原始的でみすぼらしいものの、まことの名人気質と名も知られない人形造りが一心こめて残した霊妙な人形はむしろ棄てられた傀儡師に伝へられてゐるのです。

その娘の父は独力相当の地位と富を築きあげた実業家でありました。

若園君往昔とつくにの曠野に一匹の魔物が棲んでおりました。

冬の明方のことだつた。

今日雑誌が一口にジアナリズムなる言外に多くの悪徳を暗示した汚名によつて呼ばれる時世となり、文学の本道まで万事浮遊して落付かぬ状態をつづけてゐる時に、一つくらゐジアナリズムに超然とし、正しき流行をつくるとも流行に追はれぬ雑誌が欲しいと思ふ。

一の巻椋原孔明とよぶ尊厳な弁護士があつた。