坂口安吾の全作品

六月十五日昨夜来徹夜。

その冷血漢温い心とは何物だらう？それからまごころといふことは？愛といふことは？私の父は悪者ではない。

人あるところに恋あり、各人各様千差万別の恋愛が地上に営まれてゐることはいふまでもないことであらうが、見方によればどの恋も似寄つたものだといへないことはない。

伊東伴作は親代々の呉服商であつた。

牧野さんの自殺の真相は彼の生涯の文章が最もよく語つてゐる。

私の考へ方が間違つてゐるのかも知れないが、私には牧野さんの死がちつとも暗く見えないし、まして悲痛にも見えない。

輓近日本帝国に於きましては実子殺しとか若妻殺しとかその他色々賑やかな文化的事件があります。

雪国生れの人々は気候のために故郷を呪ひがちであつた。

初夏のうららかなまひるであつた。

私はスタンダアルが好きであるが、特に私に興味のあるのは、彼の文体の方である。

私は一家言といふものを好まない。

フロオベエルの「感情教育」三巻を読んだ。

幽霊の凄味の点では日本は他国にひけをとらない。

ヨーロッパ精神は実在するか、また実在するとせば如何なるものがそれであるか、といふことが西洋の思想界でもだいぶ問題になつてゐるといふことで、私もヌーヴェル・リテレールのアンケートで同じ質問の解答を読んだ記憶がある。

新潟へ帰ることはめつたにないが、先年村山政司氏等の個人展を新潟新聞楼上にひらいたとき、私も三週間ほど新潟に泊つた。

この九月末宇野浩二氏から電話がきた。

（上）スタンダアルやメリメのやうに死後の出版を見越して手紙を書残した作家がある。

「南紀風物誌」といふ本がある。

私は越後の新潟市に生れたが、新潟市に限らず、雪国の町は非常に暗い、秋がきて時雨が落葉を叩きはじめる頃から長い冬が漸く終つて春が訪れるまで、太陽を見ることが殆んど稀にしかない。

これは素朴な童話のつもりで読んでいただいても乃至は趣向の足りない落語のつもりで読んでいただいてもかまひません私はあるとき牧野信一の家で長谷川といふ指紋の占を業とする人に私の指紋を見せたことがありました。

私は南の太陽をもとめて紀伊の旅にでたのです。

一年半京都に住んで、本郷へ戻つてみると、街路樹の美しさが、まつさきに分つた。

京都の伏見稲荷の近辺に上田食堂といふのがある。

一九三×年のことである。

文学も勿論さうだが、生活も、元来が平時のものである。

その朝は玄関脇の応接間に×社の津田弁吉という頭の調子の一風変った青年記者が泊りこんでいた。

太宰、織田が志賀直哉に憤死した、という俗説の一つ二つが現われたところで、異とするに足らない。

帝銀容疑者、北海道のＨ画伯のタイホ、上京、二十三日上野駅到着は犯人見物の人出で賑ったそうだが、首実検で、犯人らしくないときまると、たった一日でガラリと人気が変って、今日（八月二十五日）の新聞は、人権侵害、にわかにＨ画伯に同情あつまり、警視庁は総攻撃をくらっている。

戦争は人類に多くの利益をもたらしてくれた。

私は呉清源と二度しか会ったことがない。

ヨーロッパとニッポンが初めて接触いたしましたのは、今から四百年ばかり前のことでありますが、その当時に、ニッポンの性格とヨーロッパの性格とが引き起こした摩擦とか、交渉とかいうものを私の見た眼から、皆さんにお話してみたいと思います。

「真相」という雑誌に、私が昨年「風報」にのせた文章が一部抜萃して載っている。

「漫画」という変な雑誌へオツキアイするせいではありませんが、私は、どうも、ブンナグラレルかも知れませんが、帝銀事件というものを、事の始めから、それほど凄味のある出来事だと思っていませんでした。

塩入三段と岩谷社長とフラリときて挑戦するのを迎えうって、僕が塩入三段に勝った。

刺青殺人事件は、すぐ犯人が分ってしまう。

今度の選挙で共産党が三十五人になったのは、民自党の二百六十何名同様予想を絶した現象であったが、這般の理由は、だいたい新聞の報ずるようなものであったろう。

丹羽文雄の向うをはるワケではないが、僕も西荻随筆を書かなければならない。

この小説は「新潮」三、五、六、七月号所載の「にっぽん物語」第一章、その一「スキヤキから一つの歴史がはじまる」につゞくものであります。

日本に戦争があってくれれば――私は二十年前から、そう考えていた。

今日（四月七日）どこかの新聞にボクが東大神経科の三階から飛降り自殺をしたという記事が出た由、朝来各社の記者と写真班がつめかけて、撃退に往生したという千谷先生（ボクの主治医）の話であった。

十何年前のことだが本因坊秀哉名人と呉清源（当時五段ぐらいだったと思う）が争碁を打ったころは碁の人気は頂点だった。

一ヶ月余の睡眠治療が終って、どうやら食慾も出、歩行もいくらか可能になったころ、まだ戸外の散歩はムリであるから、医者のフリをして、ちょッと外来を見せて貰った。

このほど東大の神経科へ入院したおかげでいくらか病気がよくなってからの二週間ほどたいがい後楽園へ通った。

私が精神病院へ入院しているとき、妙な噂が立った。

私は皆さんに精神病院へ入院されんことをおすゝめしたい。

登場人物倉田由之倉田家の当主。

七八月にわたって病気のため「復員殺人事件」が中絶、申しわけありません。

五月九日のことだ。

松谷事件は道具立が因果モノめいていて、世相のいかなるものよりも、暗く、陰惨、蒙昧、まことに救われないニュースであったが、骨子だけを考えれば、昔からありきたりの恋の苦しみの一つで、当事者の苦しみも察せられるのである。

一人の部隊長があって、作戦を立て、号令をかけていた。