30分以内で読める芥川竜之介の短編作品

ある日の暮方の事である。

検非違使に問われたる木樵りの物語さようでございます。

禅智内供の鼻と云えば、池の尾で知らない者はない。

保吉はずつと以前からこの店の主人を見知つてゐる。

むかし、むかし、大むかし、ある深い山の奥に大きい桃の木が一本あった。

自分は、大川端に近い町に生まれた。

立てきった障子にはうららかな日の光がさして、嵯峨（さが）たる老木の梅の影が、何間かの明みを、右の端から左の端まで画の如く鮮に領している。

ある春の夕、Padre Organtino はたった一人、長いアビト（法衣）の裾を引きながら、南蛮寺の庭を歩いていた。

たとひ三百歳の齢を保ち、楽しみ身に余ると云ふとも、未来永々の果しなき楽しみに比ぶれば、夢幻の如し。

ある婦人雑誌社の面会室。

煙草は、本来、日本になかつた植物である。

丈艸、去来を召し、昨夜目のあはざるまま、ふと案じ入りて、呑舟に書かせたり、おのおの咏じたまへ旅に病むで夢は枯野をかけめぐる――花屋日記――元禄七年十月十二日の午後である。

或秋の夜半であつた。

平中といふ色ごのみにて、宮仕人はさらなり、人の女など忍びて見ぬはなかりけり。

六の宮の姫君の父は、古い宮腹の生れだつた。

これは自分より二三年前に、大学の史学科を卒業した本間さんの話である。

明治十九年十一月三日の夜であつた。

浅草の仁王門の中に吊（つ）った、火のともらない大提灯。

明治元年五月十四日の午過ぎだつた。

或秋の午頃、僕は東京から遊びに来た大学生のＫ君と一しょに蜃気楼を見に出かけて行った。

東京帝国法科大学教授、長谷川謹造先生は、ヴエランダの籐椅子に腰をかけて、ストリントベルクの作劇術を読んでゐた。

目のあらい簾（すだれ）が、入口にぶらさげてあるので、往来の容子は仕事場にいても、よく見えた。

基督教国にはどこにでも、「さまよえる猶太人」の伝説が残っている。

上何小二は軍刀を抛（ほう）り出すと、夢中で馬の頸（くび）にしがみついた。

上夜、盛遠が築土の外で、月魄を眺めながら、落葉を踏んで物思いに耽っている。

宇治の大納言隆国「やれ、やれ、昼寝の夢が覚めて見れば、今日はまた一段と暑いようじゃ。

或声お前は俺の思惑とは全然違つた人間だつた。

発端肥後の細川家の家中に、田岡甚太夫と云う侍がいた。

光悦寺光悦寺へ行つたら、本堂の横手の松の中に小さな家が二軒立つてゐる。

下に掲げるのは、最近予が本多子爵（仮名）から借覧する事を得た、故ドクトル・北畠義一郎（仮名）の遺書である。

横浜。

（一しょに大学を出た親しい友だちの一人に、ある夏の午後京浜電車の中で遇ったら、こんな話を聞かせられた。

……わたしはこの温泉宿にもう一月ばかり滞在しています。

「堀川さん。

これは孝子伝吉の父の仇（あだ）を打った話である。

部屋の隅に据えた姿見には、西洋風に壁を塗った、しかも日本風の畳がある、――上海特有の旅館の二階が、一部分はっきり映っている。

ある花曇りの朝だった。

これは日比谷公園のベンチの下に落ちていた西洋紙に何枚かの文放古である。

僕は籐（とう）の長椅子にぼんやり横になっている。

僕は重い外套にアストラカンの帽をかぶり、市ヶ谷の刑務所へ歩いて行った。

吾妻橋の欄干によって、人が大ぜい立っている。

「何しろこの頃は油断がならない。

秀林院様（細川越中守忠興の夫人、秀林院殿華屋宗玉大姉はその法諡なり）のお果てなされ候次第のこと。

ある曇った初夏の朝、堀川保吉は悄然とプラットフォオムの石段を登って行った。

猫彼等は田舎に住んでゐるうちに、猫を一匹飼ふことにした。

僕はふと旧友だった彼のことを思い出した。

彼は若い愛蘭土人だった。

編輯者支那へ旅行するそうですね。

加州石川郡金沢城の城主、前田斉広は、参覲中、江戸城の本丸へ登城する毎に、必ず愛用の煙管を持って行った。

夏目先生は書の幅を見ると、独り語のように「旭窓だね」と云った。