林不忘の全作品

花吹雪どこかで見たような顔だね花を咲かすのが雨なら散らすのも雨。

土葬水葬ふしぎなことがある。

深山の巻――女髪兼安――猿の湯岩間に、黄にむらさきに石楠花が咲いて、夕やみが忍び寄っていた。

三幕六場人物成吉思汗二十七歳合撒児成吉思汗の弟二十四歳木華里四天王の一人、近衛隊長三十歳哲別長老、四天王の一人六十歳忽必来参謀長、四天王の一人速不台箭筒士長、四天王の一人者勒瑪主馬頭巴剌帖木成吉思汗の小姓十四歳汪克児傴僂（せむし）の道化役、成吉思汗の愛玩三十歳...

天保のすえ、小石川御箪笥町の稲生播磨守の上屋敷。

問題を入れた扇箱「いや、勤まらぬことはありますまい。

つまらないことから、えて大喧嘩になる。

無双連子「ちょっと密談――こっちへ寄ってくれ。

六月の暑い日の午後、お久美は、茶の間にすわって、浮かない面持ちだった。

六樹園石川雅望は、このごろいつも不愉快な顔をして、四谷内藤新宿の家に引き籠って額に深い竪皺を刻んでいた。

夜泣きの刀しずかに更けてゆく秋の夜。

伊賀の暴れん坊さっきの雷鳴で、雨は、カラッと霽（は）れた。

首「卑怯！卑怯ッ！卑怯者ッ！」大声がした。

金剛寺坂「お高どの、茶が一服所望じゃ」快活な声である。

早いのが飛鳥山。

いやもう、いまから考えると途方もないようだが、元治元年といえば御維新の四年前で、蛤御門の変、長州征伐、おまけに英米仏蘭四カ国の聯合艦隊が下関を砲撃するなど、とかく人心が動揺している。

第一話四谷の菱屋横町に、安政のころ豆店という棟割長屋の一廓があった。

人影が動いた、と思ったら、すうっと消えた。

友人の書家の家で、私は経師屋の恒さんと相識になったが、恒さんの祖父なる人がまだ生きていて、湘南のある町の寺に間借りの楽隠居をしていると知ったので、だんだん聞いてみると、このお爺さんこそ安政の末から万延、文久、元治、慶応へかけて江戸花川戸で早耳の三次と謳われた捕物の名人であることがわかった。

空はすでに朝。

ひどい風だ。

三十間堀の色物席柳江亭の軒に、懸け行燈が油紙に包まれて、雨に煙っていた。

「勘の野郎を起すほどのことでもあるめえ。

がらり、紅葉湯の市松格子が滑ると、角の髪結海老床の親分甚八、蒼白い顔を氷雨に濡らして覗き込んだ。

「あっ！こ、こいつぁ勘弁ならねえ。

近江屋の隠居が自慢たらたらで腕を揮った腰の曲がった蝦（えび）の跳ねている海老床の障子に、春は四月の麗かな陽が旱魃（ひでり）つづきの塵埃（ほこり）を見せて、焙烙（ほうろく）のように燃えさかっている午さがりのことだった。

「夫れ謹み敬いて申し奉る、上は梵天帝釈四大天王、下は閻魔法王五道冥官、天の神地の神、家の内には井の神竈（かまど）の神、伊勢の国には天照皇大神宮、外宮には四十末社、内宮には八十末社、雨の宮風の宮、月読日読の大御神、当国の霊社には日本六十余州の国、すべての神の政所、出雲の国の大社、神の数は九万八千七社の御神、仏の数は一万三千四個の霊場、冥道を驚かし此に降し奉る、おそれありや。

「はいっ。

土蔵破りで江戸中を騒がし長い草鞋を穿いていた卍（まんじ）の富五郎という荒事の稼人、相州鎌倉は扇が谷在の刀鍛冶不動坊祐貞方へ押し入って召捕られ、伝馬町へ差立てということになったのが、それが鶴見の夜泊りで獄口を蹴って軍鶏籠抜けという早業を見せ、宿役人の三人も殺めた後、どうやらまたぞろお膝下へ舞い戻ったらしいとの噂とりどり。

紫に明ける大江戸の夏。

「ちぇっ、朝っぱらから勘弁ならねえ。