青空文庫の全作品

先頃、山川氏の『朱実作品集』を、いろいろの点から興味ふかく読んだ。

此度山田さんの自伝的小説『地上に待つもの』が出版されるに当って、何人かの友人らに混って短い感想を書く因縁に立ち到ったことを私は一種の感動をもって考えるのである。

今年の一月から半年ばかりの間、私は大変非人間的条件の下で生活することを余儀なくされた。

この三四年の間、小説を書かないのは何故であるか。

これまで主として詩、評論の仕事をしてきた窪川鶴次郎が、今度『中央公論』に発表した小説「風雲」については、きっとさまざまの人の批評があるであろうと思う。

十一月号の『改造』と『文芸』のある記事を前後して読んで、私はなにか一つの大きい力をもったシムフォニーを聴いた時のような感情の熱い波立ちをおぼえた。

一九三四年のブルジョア文学の上に現れたさまざまの意味ふかい動揺、不安定な模索およびある推量について理解するために、私たちはまず、去年の終りからひきつづいてその背景となったいわゆる文芸復興の翹望に目を向けなければなるまいと思う。

問「男の作家に女性が書けるか書けないかというのは小説が書けるか書けないかというのと同じ愚問ですが、書けているとか、書けていないということはいえると思います。

偉大な作家の生涯の記録とその作品とによって今日までのこされている社会的又芸術的な具体的内容は、常に我々にとって尽きぬ興味の源泉であるが、中でも卓越した少数の世界的作家の制作的生涯というものは、後代、文学運動の上に何かの意味で動揺・新たな方向への模索が生じた時期に、必ず改めて究明・再評価の対象として広汎な読者大衆の手にとりあげられるものであると思う。

一年ばかり前、ある雑誌にマクシム・ゴーリキイの今日までの生涯について伝記的な側から短いものを書いたことがあった。

内外の複雑な関係によってプロレタリア作家が組織を解体してから、ほぼ一ヵ年が経過した。

窪川稲子に私がはじめて会ったのは、多分私がもとの日本プロレタリア作家同盟にはいった一九三〇年の押しつまってからのことであったと思う。

坪内先生に、はじめて牛込余丁町のお宅でおめにかかったのは、もう十数年以前、私が十八歳の晩春であったと思う。

『集団行進』をいただき、大変に興味ふかく、得るところも多く拝見しました。

去年の八月頃のことであった。

どうもこれは大へん難しいおたずねだと思われますね。

一人の人間として最も誠実な心から人類の生活の向上と発展とを信頼し、そのために永い困難な芸術家としての努力を捧げたマクシム・ゴーリキイの六十八年の輝きある生涯は、この六月遂に終った。

私がマクシム・ゴーリキイに会ったのは、ちょうど今から足かけ八年前の一九二八年の初夏のことであった。

人間と人間との遭遇の中には、それを時間的に考えて見るとごく短い間の出来事であり、その間にとり交された言葉や眼ざしなどが僅かなものであっても、ある人の生涯にとって非常に意味の深い結果や教訓をもたらすことがある。

一九三六年六月十八日。

前書一九三六年六月十八日。

（前略）藤村がフランスにいた間に、十九世紀というものを世界的な感情で感得し、日本の十九世紀というものを描きたく思ったということ。

小さき歩みああ、しばらく、と挨拶をするような心持で、私は佐藤俊子氏の「小さき歩み」という小説（改造）を手にとった。

『中央公論』の十月号に、荒木巍氏の「新しき塩」という小説がある。

有島武郎の作品の中でも最も長い「或る女」は既に知られている通り、始めは一九一一年、作者が三十四歳で札幌の独立教会から脱退し、従来の交遊関係からさまざまの眼をもって生活を批判された年に執筆されている。

十月号の『文芸』に発表されている深田久彌氏の小説「強者連盟」には、様々の人物が輪舞的に登場しているが、なかに、高等学校の生徒で梅雄と云う青年が描かれている。

つい先頃、或る友人があることの記念として私に小堀杏奴さんの「晩年の父」とほかにもう一冊の本をくれた。

私が、ゴーリキイの評伝を一冊にまとめて見たいと思った動機は二つあった。

初めてあなたのお書きになるものを読んだのは、昔、読売新聞にあなたが「二人の小さいヴァガボンド」という小説を発表なさったときであり、その頃私は女学校の上級生で、きわめて粗雑ながら子供の心理の輪廓などを教わっていた時分のことでした。

「見る人のこころごころの秋の月」という文句がある。

いま、私の机の上に二冊の本がのっている。

この間或る必要から大変おくればせに石坂洋次郎氏の「若い人」上下を通読した。

大正年代は、日本の文学界にもヨーロッパ大戦後の世界を洗いはじめたさまざまの文学的動きを、日本独特の土壤の上に成育させながら、極めて複雑な形で昭和に歩み進んだ。

この春新響の演奏したチャイコフスキーの「悲愴交響楽」は、今も心のなかに或る感銘をのこしている。

私たちは、どんな本でも、自分の生活というものと切りはなして読めない。

ついこの頃、科学の仕事をしている友人から大変興味のある話をきいた。

作家が時代をどう感じ、どう意識してゆくかということは、文学の現実としてきわめて複雑なことだと思う。

世界が到るところで大きい動きと変化とをみせていて、この状態はおそらく五年や六年でおさまるものとは考えられない。

ヘルマン・ヘッセの「車輪の下」（岩波文庫・高橋健二氏訳）は、ヘッセの作品のなかでも多くの人々に愛読されているものだろうと思う。

『現代アメリカ文学全集』の中にドライサアの「アメリカの悲劇」が出ている。

三四年前、いろいろなところで青年論がされたことがあった。

日本の知識人の読書表には、実に翻訳がどっさり入りこんでいると思う。

一人の作家の生涯を、そのひとの一生が終ったあとで回顧するときには、誰しもその作家の生きた時代や、その時代にかかわりあって行ったその人らしい生きかたの姿を、比較的はっきりつかみ出して、観察することも批評することも出来る。

年の瀬という表現を十二月という歳末の感情に結びつけて感じると、今年は年の瀬を越すなどというものではなく、年の瀬が恐ろしくひろい幅とひどい勢いでどうどうと生活もろとも轟き流れている気がする。

今年の文学ということについて大略の印象をまとめようとすると、一つの特徴的な様相がそこに浮んで来るように思う。

国文学というものは、云わばこれから本当の生きた研究がされるのではないだろうか。

石川達三氏の「結婚の生態」という小説について、これまで文学作品として正面からとりあげた書評は見当らなかった。

この頃は「国民文学」という声がいろいろな場面に響いていて、日本文学の明日の姿として或る意味では文書的な性質をもつ方向づけのような印象を与えている。

生活の感情は実にまざまざと複雑になって来ている。

野沢富美子の作品集『長女』に収められている「長女」「陽のない屋根」「過失」などは、いずれも現代日本の庶民の生活の偽らず飾らない記録として読者に迫って来る一種の力を持っている。