萩原朔太郎の全作品

うぐひすは金屬をもてつくられしそは畔の暗きに鳴き菫は病鬱の醫者のやうに野に遠く手に劇藥の鞄をさげて訪づれくる。

黄菊はすでに散つてしまつた漕手よ船路を遠くかへつてくる時さびしい海鳥はますとに飛びかひ日は憂鬱の浪にただよふ。

記憶をたとへてみれば記憶は雪のふるやうなものでしづかに生活の過去につもるうれしさ。

鶉や鷓鴣の飛びゆくかなたにふたたび白堊の城は現はれ風のやうに消えてしまつた。

朝鮮人あまた殺されその血百里の間に連なれりわれ怒りて視る、何の慘虐ぞ。

クリスマスとは何ぞや我が隣の子の羨ましきにそが高き窓をのぞきたり。

歳まさに暮れんとして兵士の銃劍は白く光れり。

物みなは歳日と共に亡び行く。

わが草木とならん日にたれかは知らむ敗亡の歴史を墓に刻むべき。

兵士の行軍の後に捨てられ破れたる軍靴のごとくに汝は路傍に渇けるかな。

私にとつて限りなくなつかしく思はれるは、この集にをさめられた室生の抒情小曲である。

ちちのみの父を負ふものひとのみの肉と骨とを負ふものきみはゆくゆく涙をながしそのあつき氷を踏み夜明けむとするふるさとにあらゆるものを血まみれにする萩原朔太郎。

私の友人、室生犀星の芸術とその人物に就いて、悉しく私の記録を認めるならば、ここに私は一冊の書物を編みあげねばならない。

芥川君と僕との交際は、死前わづか二三年位であつたが、質的には可なり深いところまで突つ込んだ交際だつた。

七月二十五日、自分は湯ヶ島温泉の落合樓に滯在してゐた。

世田谷へ移つてから、新宿へ出る機會が多くなつた。

雜誌「文藝」に發表した僕の評論（詩に告別した室生犀星君へ）は、意外にも文壇の人々に反響した。

先に詩集「鐵集」で、これが最後の詩集であると序文した室生君は、いよいよ雜誌に公開して詩への告別を宣言した。

中原君の詩はよく讀んだが、個人としては極めて淺い知合だつた。

日本の文學に對して、僕は常に或る滿たされない不滿を持つて居た。

鎌倉へうつつてからは、毎日浪の音をきくばかりでさむしい。

若山氏の死について、遺族の方から御通知がなかつた爲、僕はずつと遲く、最近になつて始めて知つたわけであつた。

この頃になつて、僕は始めて芥川君の全集を通讀した。

日本の詩壇は、過去に於て凡そ三期の峠を越して來てゐる。

北原氏は、私の知つてゐる範圍で、最もよい感じをもつた人です。

ラムネラムネといふもの、不思議になつかしく愉快なものだ。

詩人協會の用件にて高村光太郎氏を訪ふべく、前夜福士幸次郎君と約束がしてあつたので、萬世驛のミカドで待合せをする。

先月、中央亭で催された日本詩集の記念會で、僕がつまらぬことから腹を立て、會場をお騷がせしたことを謝罪する。