太宰治の全作品

二日つづけて酒を呑んだのである。

第一巻ことしの夏、私はすこしからだ具合いを悪くして寝たり起きたり、そのあいだ私の読書は、ほとんど井伏さんの著書に限られていた。

親という二字と無筆の親は言い。

拝啓。

なんじら断食するとき、かの偽善者のごとく悲しき面容をすな。

――愛ハ惜シミナク奪ウ。

正直に言うことに致しましょう。

徒党は、政治である。

じぶんで、したことは、そのように、はっきり言わなければ、かくめいも何も、おこなわれません。

諦めよ、わが心、獣の眠りを眠れかし。

せっかくおいで下さいましたのに、何もおかまい出来ず、お気の毒に存じます。

イサク、父アブラハムに語りて、父よ、と曰（い）ふ。

ヨワン榎（えのき）は伴天連ヨワン・バッティスタ・シロオテの墓標である。

女は、やっぱり、駄目なものなのね。

その頃の私は、大作家になりたくて、大作家になるためには、たとえどのようなつらい修業でも、またどのような大きい犠牲でも、それを忍びおおせなくてはならぬと決心していた。

これは十年ほど前から単身都落ちして、或（あ）る片田舎に定住している老詩人が、所謂日本ルネサンスのとき到って脚光を浴び、その地方の教育会の招聘を受け、男女同権と題して試みたところの不思議な講演の速記録である。

誰も知ってはいないのですが、――と四十一歳の安井夫人は少し笑って物語る。

一人の遊蕩の子を描写して在るゆえを以て、その小説を、デカダン小説と呼ぶのは、当るまいと思う。

ほんの一時ひそかに凝った事がある。

蝶蝶老人ではなかった。

昭和二十年の八月から約一年三箇月ほど、本州の北端の津軽の生家で、所謂疎開生活をしていたのであるが、そのあいだ私は、ほとんど家の中にばかりいて、旅行らしい旅行は、いちども、しなかった。

東京の三鷹の住居を爆弾でこわされたので、妻の里の甲府へ、一家は移住した。

昭和のはじめ、東京の一家庭に起った異常な事件である。

「僕はあなたを愛しています」とブールミンは言った「心から、あなたを、愛しています」マリヤ・ガヴリーロヴナは、さっと顔をあからめて、いよいよ深くうなだれた。

――わが獄中吟。

僕（二十六歳）は、女をひとり、殺した事があるんです。

異国語においては、名詞にそれぞれ男女の性別あり。

私の数ある悪徳の中で、最も顕著の悪徳は、怠惰である。

手招きを受けたる童子いそいそと壇にのぼりつ「書きたくないことだけを、しのんで書き、困難と思われたる形式だけを、えらんで創り、デパートの紙包さげてぞろぞろ路ゆく小市民のモラルの一切を否定し、十九歳の春、わが名は海賊の王、チャイルド・ハロルド、清らなる一行の詩の作者、たそがれ、うなだれつつ街をよぎれば、家々の門口より、ほの白き乙女の影、走り寄りて桃金嬢の冠を捧（ささ）ぐとか、真なるもの、美なるもの、兀鷹（はげたか）の怒、鳩（はと）の愛、四季を...

祝言の夜ふけ、新郎と新婦が将来のことを語り合っていたら、部屋の襖（ふすま）のそとでさらさら音がした。

私は禁酒をしようと思っている。

――こんな小説も、私は読みたい。

（はじめに、黄村先生が山椒魚に凝って大損をした話をお知らせしましょう。

時代は少しも変らないと思う。

杉野君は、洋画家である。

れいの、璽光尊とかいうひとの騒ぎの、すこし前に、あれとやや似た事件が、私の身辺に於いても起った。

なんにも書くな。

フィジー人は其（その）最愛の妻すら、少しく嫌味を覚ゆれば忽（たちま）ち殺して其肉を食うと云う。

君が大学を出てそれから故郷の仙台の部隊に入営したのは、あれは太平洋戦争のはじまった翌年、昭和十七年の春ではなかったかしら。

無事、大任を果しました。

よる。

東京の家は爆弾でこわされ、甲府市の妻の実家に移転したが、この家が、こんどは焼夷弾でまるやけになったので、私と妻と五歳の女児と二歳の男児と四人が、津軽の私の生れた家に行かざるを得なくなった。

辰野隆先生の「仏蘭西文学の話」という本の中に次のような興味深い文章がある。

佐野君は、私の友人である。

一九二五年に梅鉢工場という所でこしらえられたＣ五一型のその機関車は、同じ工場で同じころ製作された三等客車三輛（りょう）と、食堂車、二等客車、二等寝台車、各々一輛ずつと、ほかに郵便やら荷物やらの貨車三輛と、都合九つの箱に、ざっと二百名からの旅客と十万を越える通信とそれにまつわる幾多の胸痛む物語とを載せ、雨の日も風の日も午後の二時半になれば、ピストンをはためかせて上野から青森へ向けて走った。

大学生、三浦憲治君は、ことしの十二月に大学を卒業し、卒業と同時に故郷へ帰り、徴兵検査を受けた。

酒の追憶とは言っても、酒が追憶するという意味ではない。

何ヲ書コウトイウ、アテ無クシテ、イワバオ稲荷サンノ境内ニポカント立ッテイテ、面白クモナイ絵馬眺メナガラ、ドウシヨウカナア、ト心定マラズ、定マラヌママニ、フラフラ歩キ出シテ、腐リカケタル杉ノ大木、根株ニマツワリ、ヘバリツイテイル枯レタ蔦（ツタ）一スジヲ、ステッキデパリパリ剥（ハ）ギトリ、ベツダン深キ意味ナク、ツギニハ、エイット大声、狐ノ石像ニ打ッテカカッテ、コレマタ、ベツダン高イ思念ノ故デナイ。

ことしの七夕は、例年になく心にしみた。

東京は、いま、働く少女で一ぱいです。