田山花袋の全作品

山と山との間である。

今月は久し振で月評をする気になつた。

ＫとＢとは並んで歩きながら、『向うから見たのとは、感じがまた丸で違ふね？』『本当だね……』『第一、こんな大きな、いろいろなもののあるところとは思はなかつた。

あゝ焼けたな――ある日の朝、Ｂは新聞を見ながら思はずかう独語した。

社会劇と印象派といふ題を設けたけれど、別に深く研究した訳ではない、唯、此頃さういふことを考へたことがあつたから、此処では自分の貧しい経験といふやうなことを中心として少し述べて見たいと思ふ。

社会と自己との問題はかなり複雑したものである。

読書と実生活若い人達の為めに、小説を書くに就いて、私の経験した作法見たいなものを書いて見る。

また好きな初冬が来た。

今度の大戦の印象の多い中で、私は一番真剣とか一心とか言ふものゝ力の強いことを味はつた。

箇々の対立までは、誰でも行けるが、それから箇々の融合まで行く路が容易でない。

自他の融合と言ふことに就いて、文壇には猶ほ深く考へなければならないことが多いと思ふ。

他を批評するといふ心は、他に対して未だ完全の理解を持つてゐない心である。

生と滅との相聯関してゐる形は到る処にそれを発見することが出来る。

Ｋ先生。

そこに来た時には、二人は思はずはつとした。

Ｏ事件に対するＢ同人の批評は多くは普通道徳を照尺にしたやうなものであつたが、中でＫ・Ｙ女史の談話は、自己の実際を背景にしたものだけに一番面白いと思つた。

多喜子は六歳の時に此処に来たことがあるさうであるけれども、さうした覚えは少しもなかつた。

矢張私達の問題は、作者の頭の中のイリユウジヨンを如何にそこにあらはすかといふことが大切であつて、古来幾多の作品に徴してもそれだけはたしかであるやうである。

静かな芸術から動いた芸術に進んで行つた。

『何うもあれは変だね？』かう大学生の小畠はそこに入つて来た旅舎の中年の女中に言つた。

順吉は今でもはつきりとその時のさまを思ひ出すことが出来た。

人間の一生を縦に考へて見ただけでも、世間に就ての考へ方は各自に、非常に違つて来るやうなものである。

銘々に、代り代り人生の舞台に出て行く形が面白いではないか。

大学生のＫが春の休みに帰つてからもう三日になつた。

芸術と実行実行と芸術との問題は、今でも新しい問題であらねばならぬ。

大華表の下には既に舟の支度で出来て、真中の四布蒲団の上に、芝居で使ふやうな小さな角な火鉢が置かれてあるのをかれは目にした。

現実といふ意味現実に接触したところに今の新興文芸は生れたのだと言はれる。

総て物が平等に見え出して来るといふことは、面白い人間の心理状態である。

飜案の時代明治の文学は、飜案の時代、飜訳の時代だと言へる。

百合子は雪解のあとのわるい路を拾ひながら、徐かに墓地から寺の門の方へと出て来た。

春の休みに故郷に帰つて来てゐる大学生のＮのゐる室は、母屋からはずつと離れたところにあつた。

「そんなにして遊んでゐて好いのかね？」「大丈夫よ」Ｂは笑つて、「旦那に見られては困るんぢやないか？」「そんなこと心配ないの……見つかつて、いやだつて言つたら、よして了ふばかりですもの」飽きも飽かれもせずに別れた時子とハルピンのホテルでさうした一夜を送らうとはＢは思ひもかけなかつた。

私達が外国文学を研究する時分には、本がないので非常に困つたものである。

若い人達のためには、私は第一に勉強することを勧める。

モウタアの音がけたゝましくあたりにひゞいて聞えたので、仕度をして待つてゐた二人はそのまゝ裏の石垣になつてゐるところへと出て行つた。

第一に私の気に入つたのは、この作が何等の傾向も、思想も、宣伝も持つてゐないことだつた。

想像を排すまた想像を排さなければならないやうな時代が来た。

何うも大袈裟の議論が多い。

私は渓谷がすきで、よくあちこちに出かけた。

四月から、何処に行つても面白い。

高原から下りた処には、両岸から絶壁が迫つて、綺麗な谷川が流れて居た。

随分もう昔だ。

さうですね、避暑についての話と言つても、別に面白いこともありませんね。

春といふと、曾て紀州にあそんだ時のことが思ひ出されて来た。

志摩から伊勢、紀伊と旅して行つた時のことが第一に思ひ出される。

突然私は犬の凄じく吼える声が夜の空気を劈（つんざ）いてきこえて来るのを耳にした。

県庁のある町には一種のきまつた型がある。

金剛山にある二つのホテル、中でも長安寺にあるものは面白い。

停車場から町の入口まで半里位ある。

私は童話でも書くやうな、または刺繍でも見るやうな気持で、昔の恋愛の心の光景を眺め返して見たのでした。