10分以内で読める佐藤垢石の短編作品

私は、ふた昔それ以上も久しい前、水戸に浪人していたことがあった。

私の父親は、近村近郷きつての呑ん平であつた。

観音崎と富津岬とが相抱いた東京湾口は、魚の楽園らしい。

いよいよ、私は食いつめた。

このほど、元代議士生方大吉君の案内で東京火災保険の久米平三郎君と共に、上州と越後の国境にある三国峠の法師温泉の風景を探ったのである。

晋の時代である。

二、三日前、隣村の老友が私の病床を訪れて、例の「しゃもじ」がまた出たという。

この頃は、一盃のむと途方もなく高値な代金を請求されるので、私ら呑ん平にはまことに受難時代である。

上私は、鯰の屈託のない顔を見ると、まことに心がのんびりとするのである。

私は、明治四十三年四月二十三日の午前十時ごろ、新聞記者を志望して、麹町区有樂町にある報知新聞社の応接間に、私の人物試験をやりにくる人を待っていた。

物が高くなって、くらしに骨が折れてきたのは私の家ばかりではあるまい。

物の味は季節によって違う。

緑樹のかげに榻（とう）（こしかけ）を寄せて、麥酒の満をひく時、卓上に香魚の塩焙があったなら涼風おのずから涎（よだれ）の舌に湧くを覚えるであろう。

もうそろそろ、もずが巣を営む季節が近づいてきた。

手もとは、まだ暗い。

私は、呑んべえであるから、酒の肴にはいつも苦労する。

遠からず酒の小売値段は、いままでの倍額となるらしい。

いま、想いだしても、その時のことがはっきりと頭に浮かび、眼にも描かれる。

十一月二十七日夜六時頃、先輩の生駒君と一緒に有楽座の美音会へ行ってみる。

それからというもの、私は暇さえあれば諸国を釣り歩いた。

秋の蠅（はえ）も、私には想い出の深い餌である。

秋がくると食べものがおいしい。

釣人の気質にはいろいろある。