30分以内で読める坂口安吾の短編作品

凡そ退屈なるものの正体を見極めてやらうと、そんな大それた魂胆で、私はこの部屋に閉ぢ籠つたわけではないのです。

波の上に夜が落ちる。

芸術の最高形式はファルスである、なぞと、勿体振つて逆説を述べたいわけでは無論ないが、然し私は、悲劇や喜劇よりも同等以下に低い精神から道化が生み出されるものとは考へてゐない。

雑沓の街は結局地上で一番静寂な場所であるかも知れない。

その村に二軒の由緒正しい豪家があつた。

私は祖国日本にいささか退屈を感じてゐる。

九段坂下の裏通りに汚い下宿屋があつた。

その娘の父は独力相当の地位と富を築きあげた実業家でありました。

一の巻椋原孔明とよぶ尊厳な弁護士があつた。

母。

二ヶ月ばかりお目にかかりませんが、御元気のことは、時々人づてにきいてゐました。

農民小説の人間性短篇小説は長篇小説の圧縮されたものだといふ考へ方をしてゐた人があつたやうだ。

やまさん昔銀座裏に「千代梅」といふおでん屋があつたころ、あそこは奇妙な人物が出入して不思議なところであつたが、桃中軒雲右衛門の妻君といふ婆さんなどと一緒に「やまさん」といふ二十二三の優男が居候してゐた。

山の観念の変移我々の祖先達は里から里へ通ふために、谷を渉り、峠を越えはしたものの、今日我々が行ふやうな登山を試みる者はなかつた。

いつの頃だか知らないが、或る日総理大臣官邸へ書留の手紙がとどいた。

有りうべからざる奇怪のことこの世には、とても有り得まいと思はれることが、往々有りうるのである。

三万七千人島原の乱で三万七千の農民が死んだ。

十二月八日以来の三ヶ月のあひだ、日本で最も話題となり、人々の知りたがつてゐたことの一つは、あなた方のことであつた。

大井広介に始めて会つたのは昭和十五年大晦日午後七時、葉書で打合せて雷門で出会つた。

天文十二年八月二十五日（四百一年前）乗員百余名をのせた支那船が種子ヶ島に漂着した。

ぬばたまのなにかと人の問ひしとき露とこたへて消なましものをその加茂五郎兵衛の加茂は古い姓です。

敗戦後の日本に現れたニューフェースの筆頭は公認された日本共産党であったろう。

雑誌「日本小説」に「不連続殺人事件」を連載し、探偵小説の鬼江戸川乱歩先生から過分なる賞讃をいたゞいて以来、僕は文壇随一の探偵小説通と自他ともに許す存在にまつりあげられてしまった。

華頂博信氏手記私どもの離婚は決して夫婦喧嘩ではありません。

晦日風呂その日は大晦日です。

僕らが「言葉」という飜訳雑誌、それから「青い馬」という同人雑誌をだすことになって、その編輯に用いた部屋は芥川龍之介の書斎であった。

神田のアテネ・フランセという所で仏蘭西語を習っているとき、十年以上昔であるが、高木という語学の達者な男を知った。

私はいつも神様の国へ行こうとしながら地獄の門を潜ってしまう人間だ。

私は友達から放浪児と言われる。

小説の文章を他の文章から区別する特徴は、小説のもつ独特の文章ではない。

毎日新聞所載、尾崎咢堂の世界浪人論は終戦後現れた異色ある読物の一つであったに相違ない。

敗戦後国民の道義頽廃せりというのだが、然らば戦前の「健全」なる道義に復することが望ましきことなりや、賀すべきことなりや、私は最も然らずと思う。

極意だの免許皆伝などというのは茶とか活花とか忍術とか剣術の話かと思っていたら、関孝和の算術などでも斎戒沐浴して血判を捺（お）し自分の子供と二人の弟子以外には伝えないなどとやっている。

妖雲天地にたちこめ、円盤空をとび、巷（ちまた）の天文家は戦争近しと睨（にら）んだ形跡であるが、こと私自身に関しては、戦争になっても余り困らない人間だ。

先日朝日評論のＯ氏現れ、開口一番、舟橋聖一のところには日に三人の暴力団が参上する由だが、こちらはどうですか、と言う。

昔、越後之国魚沼の僻地に、閑山寺の六袋和尚といって近隣に徳望高い老僧があった。

雪国の山奥の寒村に若い禅僧が住んでいた。