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ゆく雲

樋口一葉

『ゆく雲』は青空文庫で公開されている樋口一葉の短編作品。9,564文字で、おおよそ30分以内で読むことができます。
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30分以内
9,564文字
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書出

上酒折の宮、山梨の岡、塩山、裂石、さし手の名も都人の耳に聞きなれぬは、小仏ささ子の難処を越して猿橋のながれに眩(めくる)めき、鶴瀬、駒飼見るほどの里もなきに、勝沼の町とても東京にての場末ぞかし、甲府はさすがに大厦高楼、躑躅(つつじ)が崎の城跡など見る処のありとは言へど、汽車の便りよき頃にならば知らず、こと更の馬車腕車に一昼夜をゆられて、いざ恵林寺の桜見にといふ人はあるまじ、故郷なればこそ年々の夏休みにも、人は箱根伊香保ともよふし立つる中を、我れのみ一人あし曳(びき)の山の甲斐...

初出「太陽」1895(明治28)年5月号
底本にごりえ・たけくらべ
表記
新字旧仮名
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