30分以内で読める太宰治の短編作品

大学生、三浦憲治君は、ことしの十二月に大学を卒業し、卒業と同時に故郷へ帰り、徴兵検査を受けた。

酒の追憶とは言っても、酒が追憶するという意味ではない。

ことしの七夕は、例年になく心にしみた。

拝啓。

昨年の夏、私は十年振りで故郷を見た。

一日一日を、たっぷりと生きて行くより他は無い。

ボオドレエルに就いて「ボオドレエルに就いて二三枚書く。

暑い時に、ふいと思い出すのは猿簑の中にある「夏の月」である。

立ちつくし、ものを思へば、ものみなの物語めき、（生田長江）あの、私は、どんな小説を書いたらいいのだろう。

この津軽へ来たのは、八月。

晩ごはんを食べていて、そのうちに、私は箸と茶碗を持ったまま、ぼんやり動かなくなってしまって、家の者が、どうなさったの、と聞くから、私は、あ、厭（あ）きちゃったんだ、ごはんを、たべるのが厭きちゃったんだ、とそう言って、そのことばかりでは無く、ほかにも考えていたことがあって、それゆえ、ごはんもたべたくなくなって、ぼんやりしてしまったのであるが、けれども、それを家の者に言うのは、めんどうくさいので、もうこのまま、ごはんを残すから、いいかね、と言ったら、家の者は、かまいません、と答えた。

この「東北文学」という雑誌の貴重な紙面の端をわずか拝借して申し上げます。

安心し給え、君の事を書くのではない。

こちら（津軽）へ来てから、昔の、小学校時代の友人が、ちょいちょい訪ねて来てくれる。

おもてには快楽をよそい、心には悩みわずらう。

琉球、首里の城の大広間は朱の唐様の燭台にとりつけてある無数の五十匁掛の蝋燭がまばゆい程明るく燃えて昼の様にあかるかつた。

正直言うと、私は、この雑誌（懸賞界）から原稿書くよう言いつけられて、多少、困ったのである。

ことしの正月は、さんざんでありました。