魔のひととき

原民喜

『魔のひととき』は青空文庫で公開されている原民喜の短編作品。1,343文字で、おおよそ5分以内で読むことができます。

文字数
5分以内1,343文字
人気
0PV
書き出し

魔のひととき 尾花の白い幻や たれこめた靄が もう 今にも滴り落ちさうな 冷えた涙のわきかへる わきかへる この魔のひとときよ とぼとぼと坂をくだり径をゆけば 人の世は声をひそめ キラキラとゆらめく泉 笑まひ泣く あえかなる顔   外食食堂のうた 毎日毎日が僕は旅人なのだらうか 驟雨のあがつた明るい窓の外の鋪道を 外食食堂のテーブルに凭れて 僕はうつとりと眺めてゐる 僕を容れてくれる

初出
底本日本の原爆文学1 原民喜
表記
新字旧仮名