大倉燁子の全作品

ゴリラ江川初子がカフェー・ドラゴンからアパートへ帰ったのはかれこれ朝の五時頃であった。

刑事弁護士の尾形博士は法廷から戻ると、久しぶりにゆっくりとした気分になって晩酌の膳にむかった。

「探偵文学」誌上で発表された時、非常な好評を博した蘭郁二郎氏の「夢鬼」がこの度上梓された。

一、暗号応接室に入った時、入れ違いに出て行った一人の紳士があった。

会社を退出した時には桃子にも連れがあったので、本庄とは別々の電車に乗ったが、Ｓ駅を降りると、彼はもう先に着いて待っていた。

ハガキ回答※☆読者、作家志望者に読ませたき本、一、二冊を御挙げ下さい。

寒い日の午後だった。

私が玄関の格子を開けると、母が馳け出して来て、「御殿山の東山さんからお使いが見えたよ、今朝っから、三度も」と急きこむように云った。

福知山から三田行に乗り換えた時には、もう汽車の中にまで夕闇が迫っていた。

五六人の有閑夫人からなりたった『猟奇と戦慄を求むるの会』にＳ夫人が招かれた。

ポケットのダイヤ陽子は珍らしく早起きして、朝のお化粧もすませ、ヴェランダの籐椅子にながながと両足を延ばし、ココアを飲みながら、頻りに腕時計を眺めていた。

フランスの片田舎に一人の科学者があった、年はもう五十に近いが独身で、兄弟もなく、友達もなく、淋しい孤独生活であった。

九年前の出来事小夜子は夫松波博士の出勤を見送って茶の間に戻ると、一通の封書を受取った。

悪魔の使者「くそッ！また鳩だ。

××新聞社の編集局長Ａ氏は旧侯爵藤原公正から招待状を貰った。

「小田切大使が自殺しましたよ」夕刊をひろげると殆ど同時にＳ夫人が云った。

一つの事件の解決がつくと、Ｓ夫人はまるで人間が変ったように朗かになる。

（上）ツイ二三日前のこと、私達は赤い丸卓子を囲んで昂奮に汗ばんだ顔を並べ、心霊学者深井博士の話を、熱心に聞いていた。

声女流探偵桜井洋子のところへ、沼津の別荘に病気静養中の富豪有松武雄から、至急報の電話がかかり、御依頼したい件が出来た、至急にお出でを願いたい、と云ってきた。

「まゆみちゃん、何のお話かと思って飛んで来たら、いやあよ、またあの縁談なの？私はやっぱり一生独身で、芸術に精進する積りなんだから、お断りしますよ」百合子はさっぱりと云った。

江戸川先生に始めてお目にかかったのはもう二十年近くも前のことです。

元旦の朝はその一年というものが非常に長いように思われる。

本庄恒夫と辰馬久は篠突く雨の中を夢中で逃げた。

私立探偵社の客遠くの方でベルが鳴ったと思っていると、忽ち寝室のドアがはげしく叩かれ、「先生、先生お客様ですよ」せっかちの家政婦に起された。

「ある夫人――それは私の旧友なのですが――からこうした手紙を度々受取らなかったら、恐らくこの事件には携らなかったろうと思います」Ｓ夫人は一束の手紙の中から一つを抜き出して渡してくれた。

「あなたは美人で有名だった小宮山麗子という霊媒女がある大家へ招ばれて行って、その帰りに煙のように消えてしまった不思議な事件を覚えていらっしゃいましょう？」「はあ覚えております。