水野葉舟の全作品

「いま、これから東の方に向って、この花巻を発つ。

馬車が深い渓流に沿った懸崖の上を走っていた。

今、花巻に着いた九時、今、花巻に着いた。

Ｓ君の家に着いた時には、もう夜がすっかり更けていた。

九月の中ごろ、ひどく雨が降った或る晩のこと。

その日は十二三里の道を、一日乗り合い馬車に揺られながらとおした。

三月二十七日――陸中のこの山間の村一帯に雪にまじって雨が降った。

佐々木君が馬車に乗ってしまうのを見送って、二階にあがって来た。

これも同じく遠野で聞いた談だ。

○高橋五郎氏に聴いた話である。

怪談の中でも、人間が死ぬ断末魔の刹那に遠く離れて居る、親しい者へ、知らせるというのは、決して怪談というべき類では無かろうと思う、これは立派な精神的作用で、矢張一種のテレパシーなのだ。

死語となつた「言文一致」「言文一致」といふ言葉は、今では既に推移し去つた過去のものになつてしまつてゐる。

私が――これは私たちがと言つた方がいいのだ。