黒島伝治の全作品

ここでは、遠くから戦争を見た場合、或は戦争を上から見下した場合は別とする。

第一章序、戦争と明治の諸作家明治維新の変革以後、日本資本主義は、その軍事的であることを、最も大きな特色の一つとしながら発展した。

全国の都市や農村から、約二十万の勤労青年たちが徴兵に取られて、兵営の門をくゞる日だ。

ブラゴウエシチェンスクと黒河を距てる黒竜江は、海ばかり眺めて、育った日本人には馬関と門司の間の海峡を見るような感じがした。

いろ／＼なものを読んで忘れ、また、読んで忘れ、しょっちゅう、それを繰りかえして、自分の身についたものは、その中の、何十分の一にしかあたらない。

隣家のＳ女は、彼女の生れた昨年の旱魃にも深い貯水池のおかげで例年のように収穫があった村へ、お米の買出しに出かけた。

用事があって、急に小豆島へ帰った。

明治三十一年十二月十二日、香川県小豆郡苗羽村に生れた。

なか／＼取ッつきの悪い男である。

小豆島にいて、たまに高松へ行くと気分の転換があって、胸がすツとする。

源作の息子が市の中学校の入学試験を受けに行っているという噂が、村中にひろまった。

独楽が流行っている時分だった。

牝豚は、紅く爛（ただ）れた腹を汚れた床板の上に引きずりながら息苦しそうにのろのろ歩いていた。

「アナタア、ザンパン、頂だい。

「紋」黒島伝治古い木綿布で眼隠しをした猫を手籠から出すとばあさんは、「紋よ、われゃ、どこぞで飯を貰うて食うて行け」と子供に云いきかせるように云った。

鼻が凍てつくような寒い風が吹きぬけて行った。

五六台の一輪車が追手に帆をあげた。

牛乳色の靄（もや）が山の麓へ流れ集りだした。

私の郷里、小豆島にも、昔、瀬戸内海の海賊がいたらしい。

ぽか／＼暖かくなりかけた五月の山は、無気味で油断がならない。

豚毛の黒い豚の群が、ゴミの溜った沼地を剛い鼻の先で掘りかえしていた。

一、反戦文学の階級性戦争には、いろ／＼な種類がある。

くすれたような鉱山の長屋が、Ｃ川の両側に、細長く、幾すじも這っている。

十一月に入ると、北満は、大地が凍結を始める。

そこは、南に富士山を背負い、北に湖水をひかえた名勝地帯だった。

九月二十五日――撫順今度の事変で、君は、俺の一家がどうなったか、早速手紙を呉れた。

与助の妻は産褥についていた。

子供が一人ぐらいの時はまだいゝが、二人三人となると、育てるのがなかなか容易でない。

京一が醤油醸造場へ働きにやられたのは、十六の暮れだった。

内地へ帰還する同年兵達を見送って、停車場から帰って来ると、二人は兵舎の寝台に横たわって、久しくものを言わずに溜息をついていた。

為吉とおしかとが待ちに待っていた四カ年がたった。

彼の出した五円札が贋造紙幣だった。

市街の南端の崖の下に、黒龍江が遥かに凍結していた。

田舎から東京をみるという題をつけたが本当をいうと、田舎に長く住んでいると東京のことは殆ど分らない。

農民の五月祭を書けという話である。

投票を売る投票値段は、一票につき、最低五十銭から、一円、二円、三円と、上って、まず、五円から、十円どまり位いだ。

ある薄ら曇りの日、ぶらぶら隣村へ歩いた。

丁度九年になる。

農民文学に対する、プロレタリア文学運動の陣営内における関心は、最近、次第にたかまってきている。