牧逸馬の全作品

人気が荒いので世界的に有名なロンドンの東端区に、ハンベリイ街という町がある。

英国ブラックプウルの町を、新婚の夫婦らしい若い男女が、貸間を探して歩いていた。

露独連絡の国際列車は、ポーランドの原野を突っ切って、一路ベルリンを指して急ぎつつある。

※夜半に一度、隣に寝ている男の呻声を聞いて為吉は寝苦しい儘、裏庭に降立ったようだったが、昼間の疲労で間もなく床に帰ったらしかった。

植峰――植木屋の峰吉というよりも、消防の副小頭として知られた、浅黒いでっぷりした五十男だった。

七月一日だった。

マカラム街の珈琲（コーヒー）店キャフェ・バンダラウェラは、雨期の赤土のような土耳古珈琲のほかに、ジャマイカ産の生薑水をも売っていた。

慶応生れの江戸っ児天下の助五郎は寄席の下足番だが、頼まれれば何でもする。

私が在米中の見聞から取材した創作でして、あちらの生活に泡のように浮んでは消える探偵小品的興味を、私の仮装児ヘンリイ・フリント君に取扱わせた短篇の一つでございます。

「課長さんは居ますか」「いま鳥渡座席にいませんが――私は秘書です。

嘗つてそんな船は存在もしていなかったように、何らの手懸りもなく、船全体から乗客、乗組員の全部が、そっくり其の儘、海洋という千古の大神秘に呑まれ去った例は、古来、かなりある。

背の高い、物腰の柔かい上品な男だった。

生と死は紙一枚の差だ。

レスリイ・シュナイダア夫人は、七歳になる娘ドロシイの登校を見送って、ブレント・クリイクと呼ばれる郊外に近いロレイン街の自宅から、二町ほど離れたディクシイ国道の曲り角までドロシイの手を引いて歩いて行った。

山のように材木を満載した貨物自動車の頂上に据わって、トニィ・フェルナンデは、キャリフォルニア州聖マテオ郡のソウヤー仮部落街道を、仕事先から自宅を指して走らせていた。

ホテル・アムステルダムの女主人セレスティンは、三階から駈け降りて来た給仕人の只ならぬ様子にぎょっとして、玄関わきの帳場から出て来た。