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書かでもの記

永井荷風

『書かでもの記』は青空文庫で公開されている永井荷風の中編作品。21,465文字で、おおよそ60分以内で読むことができます。
文字数
60分以内
21,465文字
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書出

身をせめて深く懺悔するといふにもあらず、唯臆面もなく身の耻とすべきことどもみだりに書きしるして、或時は閲歴を語ると号し、或時は思出をつづるなんぞと称へて文を売り酒沽(か)ふ道に馴れしより、われ既にわが身の上の事としいへば、古き日記のきれはしと共に、尺八吹きける十六、七のむかしより、近くは三味線けいこに築地へ通ひしことまでも、何のかのと歯の浮くやうな小理窟つけて物になしたるほどなれば、今となりてはほとほと書くべきことも尽き果てたり。

初出
底本荷風随筆集(下)
表記
新字旧仮名
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